深掘り

遮断機下りない踏切、電車はなぜ走ったのか すり抜けた三つの「穴」

瀬戸口和秀 高橋俊成

 2月14日早朝、兵庫県川西市の住宅街で遮断機が下りず、警報機も鳴らない踏切を6本の電車が通過した。

 「重大なことが起こっている」。その日の昼ごろ、JR西日本の倉坂昇治社長のもとに幹部から連絡が入った。現場には電気部門の社員が駆けつけたが、踏切が正常に作動するようになったのは、翌朝だった。

 10キロ南では2005年4月25日、107人が死亡した脱線事故が発生している。この踏切のある宝塚線(福知山線)は、安全の上にも安全が求められる路線だ。

 一歩間違えれば、死傷者が出たかもしれない深刻なトラブル。発端になったのは、ボルトの緩み止めに使う、わずか直径9ミリ、厚さ1ミリのワッシャーだった。

 どのようにして起きたのか。JR西の説明をもとに経緯をたどる。

【動画】遮断機が下りないまま列車が通過するトラブルが発生したJR宝塚線の踏切=田辺拓也、高橋俊成撮影

 午前4時58分、始発電車が川西池田駅から大阪方面に向かう。後続の4本も相次いで出発した。

 だが、6本目、午前6時21分発の電車の運転士が異変に気づく。駅から約130メートル先にある踏切の遮断機が下りていない。非常ブレーキをかけたものの、止まったのは先頭車両の前半分が踏切に入ったところだった。

 この踏切は、国の資料のよると、1日あたり440台の車と4400人以上が通る。駅のカメラには、6本目の電車の通過直前、踏切を渡る人の姿が映っていた。

 事故やトラブルは、いくつもの安全対策の弱い部分をすり抜けて発生する。安全対策を薄く切って並べたチーズ、弱い部分を穴にたとえた「スイスチーズモデル」という考え方があり、今回のトラブルはまさに、三つの「穴」を通って起きた。

 トラブル発生時、作業員が川西池田駅の構内にある機器室で、駅周辺の踏切を制御する装置の改良工事をしていた。その際、以前の作業で隣の装置内に残されていたワッシャーが落下。配線に接触し、電気回路がショートした。

 一つ目の穴は、ショートした結果、電車の接近を知らせる情報を、装置が受信できなかったことだ。踏切手前には接近を検知する「始動点」とバックアップ用の機能があったが、いずれの回路からも情報を受信できなくなっていた。

 二つ目の穴は、踏切が故障したのに遮断機が下りなかったことだ。踏切には「フェールセーフ」機能があり、故障時は自重で遮断機が下りる。ただ、この機能が働くのは、停電や断線で装置から踏切への送電が止まった場合だった。

 今回は偶然、ワッシャーがショートを引き起こした一方で、「余計な電気回路」をつくったため送電が続き、遮断機が下りなかった。

「想定外」 脱線事故と重なる言葉

 三つ目の穴は、故障検知機能がなかったことだ。遮断機が下りていない状態で電車が通過すると自動で下ろし、2本目以降の通過を防ぐものだが、宝塚線ではトラブルが起きた踏切にだけついていなかった。

 踏切や信号の工事計画や保守に20年以上携わる鉄道本部の担当者は「脱線事故以降、ハード面をかなり整備してきた。まさか、こんな技術的なことで起きるとは」と、今回のトラブルは想定外だったとする。

 全国の鉄道事故の3分の1を占める踏切事故。JR西は安全対策として、踏切の統廃合や障害物検知装置の設置を進め、1987年度の144件から2024年度の7件まで減らした。

 また、遮断機が下りていない状態で電車が通過するトラブルを防ぐため、故障時のバックアップ機能などを整備。発生は近年、数年に1度になり、直近は22年に起きたが、原因は人為的なミスだった。

憤る遺族、専門家の見方は

 ただ、「奥の手」といわれる故障検知機能は今回のトラブル発生時、金沢支社管内6カ所、近畿エリア13カ所、中国エリア300カ所余りで未整備だったという。

 「十字架を背負っているような路線で、こんなことが起きて許せない」。脱線事故で父親を亡くした男性は憤る。

 JR西の担当者からは、トラブルが起きた踏切に故障検知機能がなく、「踏切の改良工事に伴い、順次整備してきた」と説明を受けた。

 脱線事故も発生時、カーブでの脱線は「想定外」とされ、速度超過を防ぐ自動列車停止装置(ATS)の現場への設置は、事故2カ月後にされる予定だった。

 安全対策が後回しになっているように感じ、「事故当時と変わっていないのではないか」とやるせなかった。

 工学院大学の高木亮教授(電気鉄道システム)は、JR西が踏切の改良工事に合わせて故障検知機能を整備していたことについて、踏切のリスクを通行量などから考慮し、優先順位を付けて整備すべきだと指摘する。

 「JR西のリスク評価が不十分だったのではないか。しっかり現場を見て、安全対策の意思決定をすべきだ」と話した。

     ◇

<おことわり>当初配信した記事で、踏切手前に「バックアップ用の『地上子』があった」としていましたが、「バックアップ用の機能があった」の誤りでした。「地上子があった」とする取材時の説明を、JR西日本が記事配信後に修正しました。記事を修正しました。

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