「店を閉じるしか」インド料理店が悲鳴 外国人に資本金3千万円の壁
通い慣れた街のエスニック料理店があちこちでなくなるかもしれない――。出入国在留管理庁が昨秋に在留資格の要件を厳しくしたことで、飲食店を営む外国人に不安が広がっている。続けるのを諦め、店をたたむ人も出てきている。
西武池袋線練馬駅(東京都練馬区)そばの商店街にある香港がゆ店「3米3(サンマイサン)練馬店」。具たっぷりのおかゆと点心が評判の人気店だったが、5月20日の営業を最後に閉店することを決めた。
店を経営する香港出身のチャン・カーイーさん(47)は「お店は簡単に諦めたくなかったが、仕方なかった」と肩を落とす。
原因は「資本金3千万円の壁」だ。
ペーパーカンパニーを使った不正取得が相次いで見つかったとして、昨年10月、外国人経営者向けの在留資格「経営・管理」の要件が引き上げられた。日本語能力などが求められるほか、必要な資本金額が500万円から6倍の3千万円になった。
更新の場合、2028年10月までの3年間は経過措置がとられるほか、それ以降で要件を満たさなくても許可される可能性はある。だが、入管庁は経営状況などを「総合的に判断」とするだけで具体的に示しておらず、多くの経営者は不許可におびえる。
チャンさんは日本のドラマを見て育ち、小さい頃から日本で暮らすことを夢みていた。日本語学校に通い、日系企業に勤めながらお金をためて日本へのフランチャイズ出店に応募。20年8月に開店し、コロナ禍の経営不振を乗り越えて香港映画の関連グッズを置くなどして誘客し、黒字に転じたばかりだった。
ほとんどの要件は問題ないが、3千万円だけがどうしてもクリアできそうになかった。以前にクラウドファンディングに挑戦したこともあったが、目標金額に達せず難しさを知っている。ほかにこの資格を更新する方法がないか行政書士に相談したが、「新しい要件を満たすしかない」と言われた。
最長5年認められる在留期間だが、コロナ禍での経営不振もあって1年ずつの更新しか認められてこなかった。在留資格のあるうちに閉店後の後始末をし、帰国しようと考えた。
店には「お店を続けにくくなったことが残念でなりません」「これからもたくさん通おうと思っていたのに」などの声が寄せられた。
店の資本金は900万円。当初からの店への投資額を合わせれば3千万円は超えるが、「いまさら3千万円と言われても用意できない」。
資格の悪用を防ぐために厳格化が必要なのは理解できる。ただ、経営状況で判断してもらいたいとも思う。「一つひとつ調べたらちゃんと経営しているかは分かるはず。今回は閉店を決めたが、将来の可能性を信じて香港で備えたい」
「コミュニティーが失われる」
コミュニティーへの影響を心配する人たちもいる。
国内の自治体で最も多い8400人のインド人が住む東京都江戸川区。特にその半数以上が集う西葛西駅周辺はインド料理店が並び、「リトルインディア」と呼ばれる。
「3千万円なんて金額は用意できない。店を閉じるしかなくなる」
この街で妻がインド料理店を経営するインド人の男性(53)はそう話す。
開店してから3年。資本金は500万円ほどでスタートした。客はインド人と日本人が半々で、売り上げは年約4千万円と好調だが、3千万円をためるにはとても足りない。
「一生懸命店をやっている自分たちの頑張りを、どうして見てくれないのか。自国の料理が食べられない国に、外国人は働きに来なくなる。外国人労働者がいなくなれば、困るのは日本人だ」。近くのエスニック料理店はほぼ同じ状況で、ほとんどが在留資格を更新できずに潰れるとみている。
江戸川区に住むインド人らで作る「江戸川インド人会」会長で貿易商のジャグモハン・S・チャンドラニさん(73)は、昨年10月以降、料理店や食材輸入店を経営するインド人やネパール人の店主から不安の声を聞くという。
インド人には、宗教上の理由でベジタリアン(菜食主義者)も多い。街中で気軽に母国の食材を手に入れたり、食事ができなくなったりすれば、生活が成り立たなくなる。「多くのインド人が日本に住み続けられなくなる。ここまでつながりあってきた我々のコミュニティーも失われてしまう」
「行政書士オフィス 未来計画」(東京都中央区)の山田和彦さんは、日本で飲食店や輸出業などをしたい人の「経営・管理」の取得や更新をサポートしてきた。今回の要件変更に「やはり資本金3千万円が難しい。日本人でも3千万円ある人はなかなかいない。利益を出してうまくいっているところも、諦めて帰った」と話す。すでに数人、資格の更新を諦めて帰国したという。
これまで月に2~3件ほどあった新規取得の相談は、昨年10月の改正後に全くなくなった。周囲の行政書士も同様の状況だという。「3千万円を用意できるような人は、物価が高くてよりもうかり、英語も通じるアメリカやヨーロッパに行くだろう」。日本で起業したいという外国人は減るとみている。
移民政策に詳しい名城大学の近藤敦教授(憲法学)は「現状にあわせて要件を厳しくするのはいいが、今回の変更内容では真面目にやっている人たちが割を食ってしまう。そうした人たちが飲食業を続けられ、新規参入もできるように改めた方がいい」と話した。
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- 【視点】
こうやって外国人を締め付けよう、追い出そうという発想が、結果的に日本社会の多様な食文化や活力をも失わせていくわけですね。 実に愚かですよ。 愚かだとしか言いようがない。 こんな要件は今すぐ撤回すべきです。
…続きを読む - 【視点】
新たな在留資格の要件により、外国から来た方が商売をすることが難しくなった。先日報じられた浅草の韓国料理店「なると」さんのことも思い出す。 ペーパーカンパニーを使った不正取得が相次いで見つかったとあるが、それはごく一部のことで、ほとんどの方は日本に来て真面目に商売をやっていると思う。これによってなにがしたいんだろう。排外主義の助長に繋がるのではないかと懸念する。
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