第2回「女なんだから」「男のくせに」保守的な地域の住民、自殺リスク高く
連載「それでも、私は地方で生きる」②
「女なんだから」「男のくせに」など、保守的なジェンダー規範を地域で感じている高齢者は、うつ症状や自殺念慮、自殺未遂を経験した人が約2倍多い――。京都大学などの研究チームが約2万5900人を対象に実施した高齢者への調査で分かった。
地域に浸透するジェンダー規範が、そこに暮らす住民のメンタルヘルスに影響を及ぼすのかどうかを、2019年度に全国の高齢者の健康状態などを調べた「日本老年学的評価研究」でのデータを用いて分析した。論文は2024年に国際学術誌「International Psychogeriatrics」に発表された(https://doi.org/10.1017/S104161022300087X)。
「住んでいる地域の人は『男のくせに』『女なんだから』といった男女を区別する言葉をよく使っているか」という質問に、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と答えた人を、「地域のジェンダー規範が保守的だと感じている」と定義した。
また、「母親が仕事をもつと、小学校へ上がる前の子どもによくない影響を与える」「子育てや家庭を守るのは、主に女性の役割だ」「家の外で働くのは主に男性の役割だ」という意見について、それぞれどう思うかを尋ね、個人のジェンダー観を調査した。
集まった回答のなかから、61市町村の、要介護認定を受けていない65歳以上の住民約2万5900人分を、婚姻状況や年収などの影響をのぞいて分析した。
地域の性別役割意識が、住民の健康に影響
その結果、地域のジェンダー規範が保守的だと感じている人は、そうでない人に比べて、男女ともに助けを求める際に心理的抵抗がある人が多かった。
メンタルヘルスとの関係を見ると、保守的だと感じている女性は、そうでない人に比べてうつ症状が1.8倍、自殺念慮が2.1倍、自殺未遂歴が2.6倍多かった。男性も同様に、うつ症状が1.8倍、自殺念慮は1.9倍、自殺未遂歴は2.1倍多かった(小数点第2位以下切り捨て)。
また、回答者個人のジェンダー観との相関を見ると、自身が保守的な人であっても、地域のジェンダー規範が保守的だと、メンタルヘルスに悪影響を及ぼしており、自身が保守的でない人は、よりその傾向が強いということも分かった。
研究チームのリーダーで京都大学大学院客員研究員の金森万里子さんは「地域社会で多様なジェンダー観を認めないなど保守的な雰囲気を感じていると、困った時に助けを求めたくても求められず、心の不調につながりやすいのではないか」と話す。
金森さんは10年ほど前、北海道で臨床獣医師として働いていた時、農家の女性たちから「女性だからという理由で、昔は運転免許をとらせてもらえなかった」「男性は困ったことがあっても、弱音を吐けないようだ」などといった話を、臨床の場で聞く機会が多かった。
農村地域の自殺率が高いことも知り、地域とメンタルヘルスの関係性に着目。生きづらさの背景の一つには、地域のジェンダー規範があるのではないかと考えるようになったという。
「ジェンダーを語る機会を」
金森さんは「個人の考え方によらず、『女なんだから、○○してはならない』『男だからこうあるべきだ』といった男女を区別する地域の価値観が、健康に悪影響を及ぼしうる」と指摘する。
では、地域のジェンダー規範に起因する生きづらさを、どう解決していけばいいのか。
金森さんは「ジェンダーについて、もっと気軽に話せる場をつくる必要があるのでは」と話す。今回の調査では「子育てや家庭を守るのは、主に女性の役割だ」といった個人のジェンダー観を尋ねる質問に対しては、男女とも過半数が「そう思わない」「どちらかといえば思わない」と答えており、「個人でみるとジェンダー観が保守的ではない高齢者は意外とたくさんいる」とみる。
「しかし、自身のそうしたジェンダー観を周りに話さないために、お互いに相手を『保守的な人だ』と勘違いしている可能性がある。一人ひとりがジェンダーについて話す場面が増えれば、地域全体の保守的なジェンダー観は変わっていくのではないか」と期待している。
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かなもり・まりこ 京都大学大学院医学研究科客員研究員。専門は社会疫学と公衆衛生学。獣医師で、医学博士号をもつ。研究のため、現在はスウェーデン・ストックホルム在住。
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- 【視点】
「男女を区別する地域の価値観が、健康に悪影響を及ぼしうる」という金森万里子さんの指摘は、地方出身の私にはとても腑に落ちた。なぜ地元を後にして海外や都市部に拠点を移してきたのか思い返してみても、「女なんだから」と性役割を押し付けられる地元では生きづらかったからのような気がする。金森さんの「地域とメンタルヘルスの関係性」に着目される研究は大変意義深いと思う。 同じように、地方の生きづらさを率直に語る女性たちのインタビュー動画を撮って彼女たちの声に耳を傾ける山本蓮さんの活動もとても貴重だと思う。* 山梨県韮崎市のIT講師の山本さんの活動によって、いかに「アンコンシャスバイアス」(無意識の思い込みや偏見)が地方の女性たちを苦しめているかを認識することができる。とくに地方に浸透している性別ステレオタイプ(=ジェンダーバイアス)は性別役割分担意識を助長するので、やはりアンコンシャスバイアスは地方における喫緊の課題であるように思われる。 地方では子育てと仕事を両立する女性のロールモデルも少ない。だから、男女ともアンコンシャスバイアスから抜け出すことは困難なのかもしれない。無意識の偏見が個々人の意識に浮上するには、やはり互いがジェンダーバイアスについてどう感じているかを発言し合う場が必要なのだろう。「一人ひとりがジェンダーについて話す場面が増えれば、地域全体の保守的なジェンダー観は変わっていくのではないか。」金森さんのこういう提案に賛同する人が増えれば、地方も少しずつかもしれないが、変わっていくかもしれない。 *https://www.asahi.com/articles/AST770DM7T77OXIE042M.html
…続きを読む - 【提案】
とても興味深い調査結果だと思います。 ジェンダー規範が強い地域ということは、性別役割について個人についても保守的なのだと思いましたが、「個人でみるとジェンダー観が保守的ではない高齢者は意外とたくさんいる」ということで、個人にはジェンダー平等は浸透しつつあるということでしょう。 ただし、これを言えない風土が問題です。 ジェンダー規範、性別のことだけではなく、個人として自分らしく生きるということが認められない風土が問題なのではないでしょうか。 風土を住民個人の力では変えることは難しいと思います。ここはトップが大きく意識を変えて、メッセージを出し、旗振りしていくことが必要なのではないでしょうか。 地域のオールドメディアやSNSも、このような発信を強めて、意識を変えていくことが必要です。 自殺リスクが高い=生きずらさを感じる人が多い地域は、住みたいと思う人が減り、人口減少が起こると思います。地域の活性化どころか、消滅危機にも直面する課題だと思います。
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