【速報】「水道水を汚染した活性炭の排出元はダイキンだ」再生処理を請け負った企業が取引先を初めて公表、岡山県に公害調停を申し立て
発がん性のあるPFOAが水道水から高濃度で検出され、健康不安が広がる岡山県の吉備中央町。汚染源は地元企業が資材置き場に置いた活性炭と断定されたが、その汚染された活性炭がどこで使われたものかは明らかになっていなかった。
汚染の発覚から2年半。この地元企業が、活性炭の排出元は大手メーカーのダイキン工業(本社・大阪市)だとして24日、公害調停を岡山県公害審査会に申し立てたことが分かった。
取材に対しダイキン工業は、「弊社のPFOAの除去処理に使用した活性炭については、岡山県吉備中央町で問題とされた使用済み活性炭の再生処理委託を行っておらず、すべて焼却処理が行われていることを確認しております」と答えているが、果たして事実はどこにあるのか。
諸永裕司
社内の記録から「客先はダイキン工業」と確認
吉備中央町では2023年秋、水道水からPFOAなど計1400ナノグラム(1リットルあたり)が検出されていた。国の暫定目標値の16~28倍にあたり、少なくとも記録の残る3年間、高濃度の汚染が続いていた。
吉備中央町が設けた原因究明委員会(委員長=小松満・岡山大学教授)は、地元の満栄工業の資材置き場にあった活性炭が汚染源だと断定。PFOAの除去のために使われた後、再生処理されないまま置かれた活性炭からPFOAが地中に染み出し、沢を通じて水道水源の河平ダムに流れ込んだという調査結果を明らかにしている。
満栄工業は、活性炭メーカーである武田薬品工業(現大阪ガスケミカル)から業務を請け負い、複数の企業や事業所で使われた活性炭の再生を担っていた。(再生炭は再び、汚染除去に使うことができる)
同社は今回、社内に残る記録から、ダイキン工業の淀川製作所で使われた活性炭を1995年から2005年まで11年間引き受けていたことが確認できたとしている。
活性炭再生結果報告書には「客先」として「ダイキン工業」と書かれ、製品名や粒径、入庫量などのほか、「使用済炭」「再生炭」ごとに詳細が記され、排水処理に使われる活性炭を扱っていたこともわかった。
注目されるのは、2003年の記録だ。この年だけは使用済みの活性炭を引き受けたものの、再生した記録がないのだ。
電子データで残っていた「試験成績表」をみたところ、「使用済炭」についてはフレコンバッグ8袋分(4240キロ)をダイキンから引き取ったことが記されていたが、「再生炭」については空欄になっている。つまり、処理した形跡がない。
この年にダイキン工業から引き受けたものは、通常はほぼない粒径の異なるものが15%も混じっていたため、満栄工業は再生せずに資材置き場に置いていたのだ。それが汚染源になったとみられる。
専門家も「ダイキンで使用された活性炭の可能性」を指摘
汚染発覚後の岡山県の調査によると、資材置き場には580袋のフレコンバックが置かれていた。そこで使用済み活性炭に含まれるPFASを30試料について調べたところ、含有量は最大で33億5000万ナノグラム(1キロあたり)だった。この量は環境省が昨年設けた、PFASを含んだ使用済み活性炭の処理についての管理目標参考値と比べると、67万倍にあたる。
複数の専門家は満栄工業の弁護団に対し、「汚染除去のために使われた活性炭からこれほど高濃度が検出されたのは、PFOAを製造していた工場で使われたものと考えられる」と指摘した、という。
さらに、満栄工業は、岡山県の調査で最大含有量を検出した試料(No.27)の提供を受け、原田浩二・京都府立大学教授(当時、京都大学准教授)に分析を依頼した。その結果、PFOAの含有量は46億ナノグラム(1キロあたり)だった。
このほか、原田教授は4種類の特殊なPFASも検出している(7H-PFHpA、8H-PFOA、9H-PFNA、10H-PFDA)。「ハイドロPFAS」と呼ばれ、一般的なPFASの一部がフッ素から水素に置き換わったもので、一般の環境中には存在しない。
原田教授の調査で、ダイキン淀川製作所(大阪府摂津市)近くの川の水からも、同じようにきわめて高い濃度のPFOAと4種類のハイドロPFASが検出されている。原田教授はふたつの組成が似ていることから、次のように見ている。
「PFOAを使う加工メーカーでは、用途が異なるPFOAとハイドロPFASを同時に使う可能性は少ない。このため、両方を製造し、ハイドロPFASについての特許ももっているダイキンのような事業所で汚染除去のために使われた活性炭が、PFOAなどを吸着したまま満栄工業に持ち込まれた可能性がありうる」
地元企業社長「PFOAが含まれているとは知らされなかった」
満栄工業の前田貴広社長はこう話す。
「使用済み活性炭は、業界のガイドラインに従って『安全なもの』を受け入れていると認識していた。有害性のあるPFOAが含まれているとはダイキンからも、直接の依頼主である大阪ガスケミカル(当時、武田薬品工業)からも知らされていなかった」
ただ、環境中のPFOA汚染を規制する法律はないため満栄工業に法的な責任は生じない。それでも地元企業として道義的な責任を果たしたい、という。
満栄工業は汚染された水源を切り替えるためにかかった費用など約3億円の損害賠償を吉備中央町から求められており、町側はその後に追加で発生した費用の負担も求める意向を示している。
だが、吉備中央町は少なくとも3年以上にわたって飲み水の汚染を見逃し、除去しないまま供給してきたことから、汚染によって生じた費用の全額を満栄工業が負担する理由はない。
また、満栄工業は、資材置き場の土地を借りている財産区(管理者・町長)からも、汚染を除去して原状回復するよう求められているが、汚染は地中深くまで広がっており、どの範囲まで、どのような方法で土壌を浄化するかを決めないと費用は定まらない。
このため、満栄工業はダイキンだけでなく、吉備中央町と財産区も公害調停の対象に加えることで、必要な費用の総額と負担割合について話し合いたい、としている。
前田社長はこう話す。
「飲み水汚染対策にかかった費用だけでなく、今後の汚染除去にかかる費用なども考えると、1社だけではとても背負いきれない。このため、PFOAの製造企業であり、汚染の原因となった活性炭を使っていたダイキンにも応分の負担をお願いしたい」
食い違うダイキンの言い分
ダイキンは1960年代後半からPFOAを使用し、1980年代からPFOAの製造にも乗り出した。その後、2000年ごろ、PFOAには蓄積性があることがわかったことから、国内では2012年までにPFOAの製造・使用をやめた、としている。
吉備中央町で起きた、使用済み活性炭によるPFOA汚染について2024年9月、ダイキンは次のように回答している。
「弊社は、活性炭によるPFOAの除去処理を2004年から取り組んできました。活性炭によるPFOAの除去処理はPFOAの使用をやめた2012年以降も続けておりますが、弊社が確認した結果、PFOAの除去処理に使用した活性炭については、専門の処理業者を通じてすべて焼却処理されていると認識しています」
そのうえで、こうも答えた。
「弊社が確認する限り、使用済活性炭の再生を委託した事実はございません」
しかし、前述したように、満栄工業が11年間、ダイキンで使われた使用済み活性炭を再生するために引き受けていたことは、満栄工業だけでなく、取引仲介した大阪ガスケミカルも確認しているという。
満栄工業の記録からわかるように、今回の汚染源は2003年に引き取った後、再生せずに資材置き場に置いていた使用済み活性炭とみられる。ダイキンはPFOAの除去処理を「2004年から」行っているとしているが、それ以前にも活性炭を使ってPFOAを除去していなかったのか。
あらためて確認すると、ダイキンは次のように回答した。
「弊社のPFOAの除去処理に使用した活性炭については、岡山県吉備中央町で問題とされた使用済み活性炭の再生処理委託を行っておらず、すべて焼却処理が行われていることを確認しております。弊社が活性炭によるPFOAの除去処理を開始したのは2004年からであり、それ以前は実施しておりません」
では「PFOAの除去処理」に限定せず、工場の一般的な水質浄化のためにも活性炭を使ってきたことはないのか。その場合でも活性炭が多量のPFOAを吸着する可能性はある。それについてさらにたずねたが、ダイキンから期限までに回答はなく、24日になって「社内での確認や整理を経たうえでお伝えする必要があるため、すぐに回答することは難しい」という連絡があった。
住民「ダイキンには同じテーブルについてほしい」
吉備中央町の住民たちでつくる「円城浄水場のPFAS問題有志の会」共同代表の小倉博司さんはこう話す。
「水質汚染や土壌汚染にとどまらず、町民の体の中にもPFOAは蓄積されて、健康への影響が懸念されている。審査会に認められれば、『参加人』という制度を利用して、汚染の被害者の立場で議論に加わりたい。世界的なPFOA製造メーカーであり、有害性についてもいち早く認識する立場にあったダイキンには同じテーブルについてほしい」
なお、PFOA汚染をめぐっては、工場のある大阪府摂津市周辺の住民らが2025年12月に大阪府公害審査会にダイキンに対する公害調停を大阪府公害審査会に申し立てている。
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諸永裕司(もろなが・ゆうじ)
1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『沖縄密約 ふたつの嘘』(集英社文庫)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com)
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