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南丹市の事件は過剰報道、テレビ局は「死の商品化」を自重すべきだ

コピーライター/メディアコンサルタント
画像は筆者がGeminiに作成させたもの

「イラン情勢」をはるかに超えた「南丹市の事件」の報道時間

多くの人々がすでに感じているだろう。テレビの報道・情報番組は南丹市の事件ばかり伝えている。朝から晩まで、事細かに詳しく。普通に見ていれば誰だって辟易とするだろう。過剰報道にもほどがある。
どれだけ過剰か調べてみた。テレビ番組の内容をデータ化するエム・データ社は、あらかじめ登録すると毎日昼に「日刊TVニュース速報」をメールで届けてくれる。その日の朝のニュースで何をどれだけ報じたか、関東のテレビ局の番組内容から集計してくれるのだ。放送開始から朝10時までのそれぞれのニュースの累積報道時間がわかる。(日曜日は休み)
「日刊TVニュース速報」から、南丹市の小学生行方不明事件の報道が盛んになってきた4月6日から17日までのこの事件の報道時間と、イラン情勢の報道時間をグラフにしてみた。

エム・データ社「日刊TVニュース速報」のデータから筆者集計
エム・データ社「日刊TVニュース速報」のデータから筆者集計

先週はブルーのイラン情勢についてのニュースが圧倒的に多かった。思い出せば、朝から晩までトランプ大統領の顔がテレビに出てきた。4月9日は各局合計で3時間45分もイラン情勢が報じられた。これだって過剰に感じたものだ。
ところが今週になって南丹市の事件が急展開。13日に遺体が見つかり、14日にそれが行方不明だった小学生のものと判明。16日未明には父親が容疑者として逮捕された。
途端にテレビは張り切ってこの事件を競い合って伝えた。その結果なんと、16日は6時間27分。「イラン情勢」を大きく超えた。朝だけでこれだ。同じことを昼にも伝え、午後にも伝え、夕方伝えてゴールデンタイムのバラエティの後、夜のニュースでまたこってり報じる。各局が、様々な警察OBに解説を仰ぎ、警察はなぜこう捜査したのかとか、今後は何がポイントかなど細かく詳細に掘り下げる。
今日の夕方、テレビをつけたら「新映像発見!」と、父親が毎朝車で通る場所の防犯カメラ映像を流していた。そんなの興味ないとチャンネルを回したら、他の2つの局も同じ映像を流していて嫌になった。同じ時間に同じ映像を流すなら、テレビ局は数を減らしてもいいと言いたくなる。

ちなみに、同じ期間に「辺野古ボート転覆事故」を取り上げた時間は合計38分24秒にすぎない

各番組が視聴率で動くテレビこそアテンションエコノミーに陥っている

こうなるのは当たり前だ。このところ、情報番組、報道番組が増えている。朝もそうだが、昼はTBS「ひるおび」とテレビ朝日の「ワイドスクランブル」、午後2時からはTBS(CBC制作)「ゴゴスマ」日本テレビ(読売テレビ制作)「ミヤネ屋」フジテレビ(関西テレビ制作)「とれたてっ」と、3局が大阪、名古屋からの情報番組、16時以降は19時までキー局とローカル局が時間を分けながらニュース・情報番組。そして夜は各局のニュース番組。
それぞれの番組が、いま何を扱えばいちばん視聴率が取れるかをモチベーションに動く。そうすると結局、同じ題材を同じように時間をかけて扱うのだ。
それが先週は「イラン情勢」だった。今週は「南丹市事件」に変わった。これは当面続くのだろう。
テレビ局は全体で何を扱うかの調整はしない。それぞれの番組が各自視聴率に向けて動く。朝の番組で扱ったから、昼の我々の番組は別の話題にしよう、とは絶対にならないのだ。そして実際、それで視聴率が取れる。
テレビ局はネットに対してアテンションエコノミーだと批判するが、テレビこそがそこに陥っているのだ。
視聴率が取れるのは、高齢者が飽きずに同じ話題の番組を見るからだ。だからいま、全国のお年寄りが南丹市の事件にものすごく詳しくなっているはずだ。身近のお年寄りに聞けば、きっと家族関係や父親の人間像など驚くほど詳しく語ってくれるだろう。
だが実際にはお年寄りも、何かあるたびに特定の話題に集中することに辟易とし始めているのではないか。高齢者が意外にYouTubeを見るようになったのも、そこに原因があるのかもしれない。だとしたら、テレビ局は短期的に視聴率を追う結果、長期的には大事な顧客層を失っているのかもしれない。

宗教学者が指摘した、大量の報道を消費して起きる「死の商品化」

そんなことを考えている時に、Xでこのポストを目にした。ぜひリンクを押して全文読んで欲しい。

テレビ報道は過去の反省から犯人を決めつけるような報道はさすがにしなくなったが、まるでサスペンスドラマのように見つかった証拠から推理を重ねる。亡くなった小学生を悼む気持ちはそこにはなく、事件をエンタメのように報じている。「死の商品化」とは痛烈だがその通りの言葉だ。
投稿者を見ると、東京大学教授で宗教学者の堀江宗正氏だった。私は昨年、あるシンポジウムでご一緒している。そこで「死の商品化」について尋ねたところ、またXでポストしてくれた。

「死の神聖化と死の商品化は、同時並行」するので、事件の報道自体は良い面もある。丁寧に報じることで被害者の死を通じて「生命の尊重を訴えることが可能」だと言う。
だがいま起きていることは「大量の取材エネルギーを投資し、さらに大量の報道を消費させて、視聴率という形で投資を回収」しようとする。それが「死の商品化」であり、「生と死の軽視につながることを自覚する必要」があると述べている。
丹南市の過剰報道は視聴者を失うだけではない。テレビの報道・情報番組に携わる人々には、そして編成、ひいては経営に関わる人々には、この堀江教授のポストを読んで欲しい。少年の傷ましい死を報じる際には、「死の神聖化」につながる伝え方を考えてもらいたい。いたずらに取材に投資し回収するだけでは「死の商品化」につながる。心してもらいたいと思う。

(※2026年4月17日付「MediaBorder2.0」の一部を加筆・修正のうえ転載)

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ありがとうございます。
コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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