石油精製の概要について(常圧蒸留塔編)
常圧蒸留装置の概要
石油精製の最初の工程で中心的な役割を担うのが「常圧蒸留装置(国内ではトッパーとよく呼称されます)」です。原油はそのままでは多様な成分が混ざり合った複雑な液体であり、用途に応じて分離・加工する必要があります。常圧蒸留装置は、この原油を加熱し、沸点の違いを利用してガソリン、灯油、軽油、重油などの主要な留分に分けるための基盤となる設備です。
原油はまず加熱炉で約350〜370℃まで加熱され、蒸気と液体の混合状態で蒸留塔に送られます。塔内部では温度が上から下へと段階的に変化しており、各成分は自らの沸点に応じた高さで凝縮します。上部ではLPGやナフサ、中段では灯油、下部では軽油、重油といった具合に、用途の異なる留分が取り出されます。
常圧蒸留は「精製の入口」とも言える工程であり、ここで得られた各留分は後続の改質、分解、水素化処理などの装置へ送られ、最終的に自動車燃料、化学原料、潤滑油などへと仕上げられていきます。つまり、常圧蒸留装置は石油精製プロセス全体の基礎を形づくる、最も重要な分離工程のひとつです。
経済産業省および石油連盟の統計から、 日本国内の原油処理能力(トッパー能力)は約311万バレル/日(bbl/d)です。
一方でこの処理能力をフルで使用できるわけではありません。
要因としては最も大きなものが定修といわれる装置の停止期間が発生することにあります。基本的に大型の装置産業では定修はつきもので、装置を停止し健全性の確認を行うための工事を行います。
高圧ガス保安法で定められた対象機器については法定開放検査の期間が決まっており、概ね4年毎に大規模な定修が発生します。
小規模な定修であれば停止期間は約1か月~1.5か月程度ですが、大規模な定修の場合は3か月に及ぶ場合もあり、稼働率が下がる一つの要因となります。
そのような要因もあり、日本の常圧蒸留装置の平均的な稼働率は約80~90%となっており、実際の原油処理量は250万~280万bbl/d程度となっています。
日本の製油所で処理している原油について
2025年の日本の原油処理量は年間約270〜290万bbl/d。
原油のほぼ100%を輸入に依存し、その約90%が中東産。 サウジ・UAE・クウェートが主要供給国で、中〜重質・中硫黄原油が中心となっており、 日本の製油所はこの性状に最適化されており、安定した処理が行われている状況です。
このイラン情勢の中で中東産以外を処理することが難しいという話も多く聞く機会があったと思います。ではなぜ日本の装置ではそのようなネックが発生しているかですが、これは装置の運転にかかわる制約などがあり、各製油所で微妙に異なる部分もあるのですが、アメリカの軽質原油を例に挙げて解説します。
まず、最も大きな要因としては軽質原油(API 40〜50)は性状が大きく異なるため、同じ条件で処理すると問題点が大きく3点あります。
1. 蒸留塔の温度バランスが崩れる
2. 重質油が不足する
3. 2次設備(FCCや水素化脱硫装置)の運転維持が困難になる
1点目ですが、留出する留分のバランスが大きく崩れることによって、蒸留塔の上段に留分が集中することで、熱交換器や加熱炉の負荷バランスが大きく崩れ品質を維持するための運転が困難になることが予想されます。
2点目の「重質油が不足する」については、WTIほど軽い原油となると、軽油、重油の留出量が中東産原油と比較すると非常に少なくなります、そのため国内に供給が必要な量の重質油の量を確保が難しくなる可能性があります。
もちろんトレードオフでナフサ(ガソリン含む)や灯油は得率が上がるのですが、装置の製品の抜き出しポンプの能力などにより、上限の制約にかかる可能性もあります。
3点目の「2次装置の運転維持が困難になる」という点では、装置には必ず安全に運転するための最低限の流量(ミニマムフロー)が定められています。この流量を下回ると、加熱炉の調整が困難であったり、触媒が過反応することで最悪暴走反応を起こし、設計温度を上回り装置の損傷につながることもあります。
このようなリスクがあるため、簡単に原油構成を切り替えることは困難となっています。
※ほかにも2次装置の触媒被毒防止や、防食の観点でもネックポイントはあります。
一方で日本の製油所では原油を混合してトッパーで処理することが日常的に行われます。
WTIだけの原油処理では上に挙げたようなネックポイントにかかり、稼働制約となる可能性もありますが、中質原油や重質原油とブレンドすることである程度の量を処理することは可能となります。
このあたりの運転調整の感覚が製油所の現場で働くエンジニアの腕の見せ所になってきている状況だと思っています。
簡単ではありますが、常圧蒸留装置についての概要と、日本の常圧蒸留塔装置に関する直近のイラン情勢に対する課題館を書き出しました。
後半は文章ばかりで読みにくいnoteになりましたが、読了いただきありがとうございます。
次回時間が取れたら2次装置(ナフサ処理関連)についても書いていきます。


こういうのって一番軽いテキサスと一番重いベネズエラいい塩梅にブレンドしたらうまくいくのか、超軽と超重じゃやっぱり無理なのかとかよくわからない。
常圧蒸留の場合、留出のLPGはガスでしょうからこの蒸留塔の場合は還流は無しと言うことでいいでしょうか。
大変分かりやすいです。素晴らしい記事をありがとうございます。 Xでのポストも大変勉強になっております。 重ねて感謝申し上げます。