【社説】情報機能強化で市民監視が強まらないか 政府法案衆院を通過

この社説のポイント

●政府のインテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化に向けた法案が衆院を通過した
●表現や思想の自由、プライバシー侵害につながる懸念が解消されたとは言いがたい
●国会や第三者機関がチェックする仕組みは設けられない。民主的な統制の強化に向け、引き続き議論が必要だ

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 政府のインテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化に向け、司令塔となる「国家情報会議」と、実務を担う「国家情報局」を新設する関連法案が衆院本会議で可決された。与党に加え、共産党を除く野党各党も賛成に回ったことで、参院でも可決され、今国会で成立する見通しだ。

 警察庁外務省防衛省などに分かれる情報部門の連携は今、十分とは言い難い。政府が的確な意思決定を行うのに、省庁横断で情報を集約・分析する必要はある。だが、新たな組織を設けても、特定の省庁が主導して縦割りが解消されなければ意味はない。

 加えて、情報機能の強化を名目にした市民の権利の侵害は古今東西で起きている。個人情報やプライバシーへの「十分な配慮」や、情報の目的外利用を「厳に慎むこと」などを求める付帯決議が、衆院内閣委員会で可決されたとはいえ、法的拘束力はない。

 国会や独立した第三者機関がチェックする仕組みも設けられず、政府の運用次第という側面が大きい。国民の表現や思想の自由、プライバシーの侵害につながる懸念は残されたままだ。

 高市早苗首相は内閣委で「政府の政策に反対するデモや集会に参加していることのみを理由に、普通の市民が調査対象になることは想定しがたい」と述べた。ただ、「調査しない」と言ったわけではなく、含みを持たせたとの受け止めもあろう。

 過去、当局による市民への監視が明らかになった事例がある。2013~14年、岐阜県大垣市風力発電施設建設をめぐり、県警が反対住民の個人情報を集め、業者に提供していた。プライバシーや集会・結社の自由の侵害にあたるとの判決が確定している。

民主的な統制が不可欠

 政権は今後、スパイ防止関連の法整備を検討しており、新組織がその運用を担うことが想定される。民主的な統制のための仕組みは不可欠だ。野党からは、特定秘密保護法などの運用を監視するため、国会に設けられている情報監視審査会が、情報機関もチェックできるよう求める声も出ており、検討に値する。

 野党からは、選挙情報の収集、首相や閣僚のスキャンダル追及回避などに、情報機関が使われる可能性も指摘され、付帯決議に「政治的中立性」の確保が盛り込まれた。

 全体の奉仕者である公務員が、特定の党派のために活動することは許されない。政治と情報部門の厳格な線引きを担保するためにも、記録を残し、政治判断や政策決定の過程を後から検証できるようにすることが必要だ。

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