窓の外では、夜来(やらい)の雨が上がり、庭の植栽がたっぷりと朝露を湛えている。 部屋の中には、窓から入り込む湿った風と、淹れたての茶の湯気が混ざり合っていた。
「……雨、止んだね」
比鷺がぽつりと呟く。その横顔は、夜明けの光を浴びて、果実のように艶やかだった。 夜帳は、湯呑みを置く音を立てずに、じっと比鷺を見つめる。彼が隣にいるというだけで、閉塞的だったはずのこの部屋が、まるで新しい世界が始まった朝のように感じられた。
「比鷺、こちらへ」
呼ばれて比鷺が寄ってくると、夜帳はその手を取り、指先をゆっくりと愛でる。 雨上がりの清浄な空気の中で、二人の間に流れるのは、言葉よりも雄弁な体温の交換だ。
「先生が隣にいると、空気が透き通るみたいだ」
比鷺がくすぐったそうに微笑む。その柔らかな表情を前に、夜帳は決意した。 いつまでも守らねばならない。彼が自分を向いて笑ってくれる、この甘美な時を。
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