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『パリに咲くエトワール 』と「推し活」の問題

僕の『パリに咲くエトワール 』に対する感想が、どうやらXで活動する熱心なファンの逆鱗に触れたらしく、この2日間たくさんの罵詈雑言をいただいている。

中には僕についてのデマを流したり、作品の感想とは無関係な中傷を気持ちよさそうに書いている人もいて、なんというか、こういうことをやるのは「推し活」として逆効果だと思うし、そもそも自分と違うアニメの感想に出会ったら「嫌がらせをする」という発想がヤバすぎるだろう。

で、どうやら「震源地」の一つらしいとても拡散しているこのポストにコメントしておきたい。

ちなみに、この人は露骨なデマや中傷はしていない。ただ、どうやら僕本人に見つかるのが怖かったらしく、僕の名前を出さずに書いているのだが、本人が読まないと思ってまあ、好き放題に書いている……。

特に自分の頭でも反論できるように、僕が動画で話したことを(そもそも最後まで観た上で書いているか疑問だが)かなり脚色している。このやり口はかなり陰湿だし、嘘が広まると困るので、対応しておきたい。

さて、まずこの人は僕が「朝ドラのダイジェストを観てるようで物語がトントン拍子に行き過ぎて説得力が無い」と批判していると主張しているのだけれど、後半はこの人の「脚色」だ(そうすることで、自分でも反論できるようにしたのだろう……)。僕が批判しているのは、ヒロインたちが簡単に成功するからではない(そもそも簡単に成功したようには思わなかった)。

動画で述べている僕の同作についての批判点は大きく分けて二つある。一つは不自然な「説明」台詞に頼った演出であり、もう一つはご都合主義的な物語展開だ。(この辺りは、最後まで僕らの動画を観たのかどうかも怪しい人が、反論しやすいように内容を脚色して紹介しているポストではなく動画を(最後まで)観て欲しい。)

たとえば物語の序盤で、ヒロインのフジコのことを母親が否定的に評価するシーンがある。これは来客に世間話をする中で、兄二人とフジコを比較する内容が語られる、というシーンなのだがここがものすごく不自然なのだ。

要するに観客向けの「母はこうした理由でフジコの個性を抑圧しようとしている」という「説明」を、無理やり来客との会話として行うので、ものすごく不自然に見えてしまうのだ。

仮に彼らが大正時代の日本に実際に生きていたとして、このような「まるでその場面を見ている観客を想定しているかのような、不自然な説明台詞」を長々と喋るはずがない。

一応断っておくが、少なくとも『パリに咲くエトワール』は登場人物が観客に語りかけたり、楽屋オチを盛り込むようなメタ水準を含む作品ではなく、「本当にその世界では彼ら彼女らが生きていて、その場面を中継している」というリアリティで描かれている。

このスタンスでやるなら、母のフジコへの評価は序盤の母の長台詞で説明するのではなく、物語の中でのやり取りの中で観客に感じさせないといけない。

そうじゃないと、リアリティを損なうからだ。要するに高畑勲監督の『赤毛のアン』ならマシュウが「そうさのう」しか言わないで済ませる(その前後の物語内の彼の言動で、マシュウがアンをどう感じているかは十二分に観客に伝わる)ところを、この映画は不自然な説明長台詞で補っているのだ。

『パリエト』にはこうした描写が多いのだが、なぜかXの「界隈」では「吉田玲子の〈書かない脚本〉がいい、セリフではなく芝居で見せる作品」みたいに言われている。しかしタイムラインの潮目ではなく作品を観る限りその真逆の評価にならざるを得ない。

「2クールのテレビアニメならそれはできるが、2時間の映画ではそれは無理だ」と反論したくなったあなたは(この人がまさにそうなのだが)「推し活」的な動機とそのバイアスで、まともにものが考えられなくなっている。2時間の映画でそれができている作品など、山ほどある。「推し活」的な贔屓の引き倒しで、認知が歪みすぎていると思う。

そもそも僕は(動画でも指摘したが)この作品は尺の割にエピソードを詰め込み過ぎている(取捨選択がうまくいっていない)と思う。

その結果が、アパートの住人たちがことごとく「いい人」で千鶴の薙刀教室にまで付き合うとか、一度帰国したはずの千鶴の母が、(今と違って飛行機の直行便もないのに)千鶴を連れ戻すために門弟を連れて、しかも発表日の当日に再び現れ問答無用で実力行使に出るといったご都合主義的な展開に帰結しているように思う。

前者は単純にリアリティがない。「そもそもこれはリアリティを追求した作品じゃない」というなら中途半端にリアリティを追求すべきではなく、最初から甘ったるいファンタジーとしてつくるべきで、若い才能が困難や葛藤を乗り越えていく過程をリアリティのある演出で見せたいのなら、こういうご都合主義は単に説得力がない。

後者は終盤に薙刀アクションを入れたいという作者の都合が透けて見える展開で、これをどう解釈したら擁護できるのか、僕には分からない(少なくとも僕はこの展開で、気持ちがとても萎えた)。他にも登場人物の心理の変化が、充分に描写されていないために唐突に感じるシーンも多い。

こうした点は「推し活」的な動機から公式Xなどの作品外の情報やスタッフの談話を含めて「考察」すれば補えるのかもしれないが、それは単にあなたたちのファン活動なので、作品の鑑賞とは無関係だ。

この人は僕に「監督の意図通りに作品を観なければ絶対ダメとは思いませんが、少なくとも作品を批判するのであれば、その作品が作られた意図まで遡って思いを巡らせるべき」とかウットリ述べるのだが、この辺はまあ、義務教育の敗北を感じざるを得ない。これは人間は嘘もつかないし、ポジショントークもしないし、記憶違いもないし、無意識もないという恐るべき人間観に立たないと成立しない立場なのだが、加えてこの人は「作品を鑑賞する」というのが何か、そもそも理解できていない。単純にスタッフインタビューで補完しないといけない作品は「描けていない」「伝えられていない」ダメな作品だ。

と、いうかこの人たちはこの映画がこうした「推し活」的な動機から、最大限に好意的なバイアスのかかった補完を観客の側が「しない」ときに、果たして観客に伝わる表現になっていると、本気で思っているのだろうか。まあ、「推し活」が気持ちよくなり思っているのだろうが、この動機から認知が歪んでしまった人以外にはこの解釈はなかなか成立しないだろう。

そもそも本作は題材からして、こうした「良心的な意欲作を応援してあげたい」というメタ意識を持つ観客ではなく、普通によい映画を観たい層に訴求することを意図していたように思うが……まあ、スタッフさんの気持ちはまた、「別の問題」だ。

少なくとも僕はこうした「推し活」的な補完活動を通じて「考察」的に説明しなければ、リアリティを感じなかったり、見せ場で作者の都合を感じさせてしまう作品は評価できない。

以上が僕が動画で話したことの一部だが(繰り返すが、文句言うなら最後まで観て欲しい)、この人が反論を恐れて?名前も上げずに、批判している内容とかなり異なっている。好きなアニメの批判を目にして、嫌な気持ちになったのだろうけど、こういう他人を陥れるようなやり方をして溜飲を下げるのは、なんというか人間としてどうなんだろう、と思う。

ここ2日間で痛感したのだが、『パリエト』の信者的な人たちはまず「推し活」的な動機で、都合の悪いものは都合よく視界から排除し、逆に描かれていないものまで最大限に好意的な考察で付加してしまっている。それはまあ、勝手にやっている分にはいいのだけど、そのモード「ではない」感想に出会ったときに、「あいつを潰してやれ」みたいなムーブに出るのは正直言って、常軌を逸している。(ちなみにこの人はぜんぜん穏当なほうで、他の人からほぼ作品の感想に関係ない罵詈雑言を僕はたくさんいただいております。)

作品の鑑賞の態度としても、SNS上の「推し活」の展開としても、僕はこの人たちに軽蔑以上のものを感じるのは難しい。それが、正直な感想だ。

ちなみに僕は動画で「『超かぐや姫!』はたしかにすごい。でも『パリエト』みたいな作品に頑張って欲しい」とか、「谷口悟朗はもっと評価されるべき」とか話しているのだが、どうやら今SNSで暴れているパリエト信者たちは自分たちと同じノリと解釈で絶賛しない奴は集団リンチ処刑しないと気が済まなくなっているらしい……

かなり過激化していると思うので、みなさんもお気をつけください。

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宇野常寛 僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。
宇野常寛 (批評家/「PLANETS」編集長) 連絡先→ wakusei2ndあっとyahoo.co.jp 著書に『母性のディストピア』『遅いインターネット』『庭の話』など。
『パリに咲くエトワール 』と「推し活」の問題|宇野常寛
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