なぜ「やめて」は“Yes”と訳されるのか。日本独特の「性的同意」の課題

Tinderが、サービスにおける信頼性と安全性に関する説明会を開催。後半のディスカッションではNPO法人「mimosas」の疋田万理さんとみたらし加奈さんも登壇。本テーマを取り巻く日本の現状について共に考えた。

出会いの形が多様化し、アプリを通じた出会いも一般的な時代になった。一方で、ネットを通じた出会いの安全性に関して、不安や不信感を抱えている人も多いのではないだろうか。

11月、Tinderはメディア向け説明会およびトークセッション「Match Group 『Trust&Safety』担当者が語るTinderの安全対策」を開催。Tinderの信頼性と安全性に関する取り組みを紹介したほか、後半のディスカッションではTinderとパートナーシップを締結しているNPO法人「mimosas(ミモザ)」理事長の疋田万理さんと、副理事のみたらし加奈さんも登壇。本テーマを取り巻く日本の現状について共に考えた。

年間1億2500万ドルを投資。信頼と安全を徹底する理由

Match Group トラスト&セーフティ担当シニア・バイス・プレジデントのヨエル・ロスさん
Match Group トラスト&セーフティ担当シニア・バイス・プレジデントのヨエル・ロスさん
Tinder

説明会には同社トラスト&セーフティ担当シニア・バイス・プレジデントのヨエル・ロスさんが登壇。Tinderおよび親会社であるMatch Groupの取り組みについて説明した。

Match Groupは1995年に『Match.com』をローンチして以来、30年にわたってマッチングサービスを提供してきた。ロスさんは、事業の継続において最も大切な要素の1つが信頼と安全の探求だと話した。同社は年間1億2500万ドル以上をトラスト&セーフティの専門チームやテクノロジー、パートナーシップ、多様な取り組みなどに投資しているという。

続けて「同社では『世界で最も信頼される出会いの場をつくる』という理念に基づき、多様なユーザーが利用できるよう、インクルージョンにも注力しています。セクシュアリティやジェンダーアイデンティティ、望んでいる関係のあり方、いろいろな形がある中で必要なのは、大多数ではなく一人ひとりに適したサービスです。その目標の達成のためにも、識別情報を主体とした安全の管理を徹底し、ハラスメントに対しては強い対応をとっています」とアピールした。

性的不正行為への対応においては3原則 「ユーザーの安全を最優先にすること」「公平で透明性のある対応を行うこと」「被害を受けた方の心情に寄り添った対応をすること」を厳守しているといい、これらの原則に基づき、ユーザー以外の第三者からの通報も可能。さらにグループ全体でのポリシーフレームワークを設けているほか、法執行機関との連携も重要視しており、捜査機関に協力できる体制も整備しているという。調査のためのデータアクセスを円滑にする専用ポータルも設置しているという徹底ぶりだ。

機能面においては、ユーザー自身は引き続き「いいね」や「スキップ」ができる一方で、自分が「いいね」した相手にのみプロフィールが表示される「シークレットモード」やブロックモード、ユーザーがプロフィール画像の本人であることを証明する「写真認証」なども採用。

加えて、ロスさんが肝入りと紹介したのが、不適切な内容の恐れのあるメッセージを送信前のリアルタイムで見直すように促す機能「本当によろしいですか?」だ。

また、ハラスメントを受けた側が、被害を報告することに対して心理的ハードルを抱えているという課題にも着目し、ハラスメント防止機能「不快な思いをしましたか?」などを通じてユーザーに不快なメッセージの報告を促している。

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信頼性と安全性の向上に向けて、Match Groupでは世界中の多様な団体とパートナーシップを結んでいる。日本においては、Tinderが性的同意の啓発活動を行うNPO法人「mimosas(ミモザ)」と2025年にパートナーシップを締結した。 

mimosasが作成したハンドブック「MIMOSAS BOOK – あなたが傷つかないための性の本」の1000冊の配布を支援したほか、オリジナルサイトやニュースレター、さらに漫画などを通じて、mimosas監修や協力のもと性的同意の基礎知識やコミュニケーション方法を紹介。若い世代を中心とした多様なユーザーに「同意」の重要性を考える機会を提供している。

「やめて」は海外で「Yes」と訳される?

mimosas理事長の疋田万理さん
mimosas理事長の疋田万理さん
Tinder

後半のパネルディスカッションではmimosas理事長の疋田万理さんと、副理事のみたらし加奈さんも加わり、ロスさんと本テーマを取り巻く日本の現状について共に考えた。

同団体がスタートしたのは2020年6月。疋田さんは「伊藤詩織さんの著書『BLACK BOX』や芸能界における性犯罪の報道などもあり、当時よりは性的同意という言葉の認知は広がりつつある」と話した。一方で、YesとNoをしっかりと相手に伝える(=自分自身の意見を持つ)ための必要最低限の自己肯定の形成が間に合っていない現状が、日本社会の課題の1つなのではないかと提起した。

臨床心理士でもあるみたらしさんは、「性暴力の被害や加害の後の支援やケアなども足りていないのではないか」と補足。

臨床の現場で診療する被害者はPTSDや精神疾患を患う人が多く、長期的な治療が必要であるにもかかわらず、公的なサポートの金額はとても限られているという。またカウンセリング料が自費であることや、トラウマ治療の専門家が少ないことにも言及し、「メンタルの不調を表に出してはいけないという風潮も根強いですが、性の問題は大きく心と重なり合っている部分が大いにあるので、そもそもの土台である『心』のケアが求められています」と主張した。

これに対し、ヨエルさんは深く頷き、性的同意の重要性を示す「FRIES」について説明した。

Freely given(自由意志):自分自身の自由な意思で同意していること。

Reversible(いつでも撤回可能):一度同意しても、いつでもその同意を撤回できること。

Informed(情報に基づいている):何に同意するのか、すべての関連情報を理解していること。

Enthusiastic(積極的・肯定的):嫌々ではなく、ポジティブで熱意のある同意であること。

Specific(特定的):特定の行為や状況に対してのみ有効であり、他の状況には及ばないこと。 

これらの要素も全て健全なコミュニケーションと教育の上に成立していると話し、メンタルヘルスのケアを安心して受けられる環境と、正しい知識を得る機会を創出することの重要性を強調した。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子
Tinder

疋田さんはFRIESについて「日本独自の性に関するコミュニケーションの風潮として『恥ずかしがる奥ゆかしさ』のようなものがありますが、『積極的なYesを言ってもいい』『主体的にYesと言うことはセクシーなんだ』という価値観は、アプリやメディア、私たちのような団体も特に力を入れて発信していくべき項目のように感じます」とコメント。

みたらしさんも「恥ずかしがる奥ゆかしさ」の弊害について「例えば『やめて』が”Yamete”というそのままの形で、『恥じらいながらのYes』という意味で英語圏に輸出されている現状もあります。しかし、どんな場合でも『やめて』は”No”です。自分を表す言葉がちゃんとした意味で広まる、自分の言葉を取り戻していくことが求められています」と話した。

さらに「世界的に人気を誇る日本のアニメなどでも、登場人物同士の関係性や描かれ方、コミュニケーションの誤発信につながらないようにセンシティブに見つめ直していく必要がありそうですね」と話し、ソフトパワーの側面にも光を当てた。

毎日の「同意」を積み重ねることの大切さ

エンタメをはじめとした「1歩目の踏み出しやすさ」や「親しみやすさ」は、Tinderとmimosasに共通する特徴だ。

疋田さんは「MIMOSAS BOOKでは、性的同意などについて学べるNetflixのドラマ作品なども紹介していて、難しい感じのしないエンタメやファッションをツールとして活用しています」と説明。

続けて「性的同意に限らず、例えば友達に『ランチを食べに行こう』と誘うことも同意です。面倒に感じられてしまうこともあるかもしれませんが『これはいい?』『これはいや?』とその都度確認すること。そうした日々のカジュアルなコミュニケーションの中で得られる学びの中で、健全な性的同意が実現してくるのだと思います」と話した。

mimosas副理事のみたらし加奈さん
mimosas副理事のみたらし加奈さん
Tinder

みたらしさんは「mimosasでは性について学びたい人や関心のある人とのコミュニティ形成にも力を入れてきました。Tinderとのパートナーシップでは、その知名度をお借りして、カジュアルだけれど学びのあるイベントなど、まだ関心はない人たちにも多くリーチしていきたいですね。ジェンダーに関して世界的なバックラッシュも起きている中、NPOだけでは実現が難しいこともあるので、企業と手を取り合って、日本の文化に基づいた発信を考えていければと思います」と話し、パートナーシップに寄せる思いを共有した。

さらにロスさんは「色々なステークホルダーがあることが大切です。その中で私たちはプラットフォームとリソース、企業としての声を活用してコミットしていきたいと考えています。mimosasとのパートナーシップには大きな意義を感じており、今後も共に社会全体の力になれるように努めてまいります」とコメントし、ディスカッションを締め括った。