企業の情報システム部門は今後数年間、国の制度に合わせた基幹系システムの更新や改修に追われそうだ。会計や税務、給与支払いなどで法改正や新制度が相次ぐからだ。毎年、情報システムを制度に合わせて更新・改修するほか、社内の業務も合わせて変更していく必要がある。
目下、控えている大きな制度改正が、高市早苗政権の下で検討が進む消費税減税だ。政府は税制・社会保障の改革を議論する社会保障国民会議を2026年2月に設置した。食料品の消費税率を2年間の時限で「ゼロ」にする公約も議論に含まれており、2026年夏をめどに中間取りまとめを示す見通しだ。
現在は制度の骨格づくりに着手したばかりで、税率「ゼロ」の実現方法はまだ白紙だ。ただし、専門家や各政党の税に詳しい議員らからは制度設計によって、民間企業への業務やシステム面でさまざまな影響が出るとの見方が出ている。大きな論点の1つが、軽減税率のうち食料品の税率を「0%」とする方法と、食品を「非課税」とする方法のどちらを選択するかだ。
会議では、会計システムやPOS(販売時点管理)レジなどを提供するITベンダー各社が政府のヒアリングを受けた。制度設計によっては改修に1年ほどを要すると言った意見や、人手不足によるSE(システムエンジニア)確保の難しさを訴える意見が出たという。
実際にはベンダーによって開発期間の見通しは大きく異なる。1年という期間は、大手から中小事業者向けまで、幅広い製品やサービスを抱える大手POSベンダーなどから出たようだ。一方で、「ユーザーの設定で即日に可能」(クラウド型POSなどを提供するスマレジ)、会計システムでは「3〜4カ月」(会計パッケージのベンダー)という意見もある。ただし長い準備期間を要するベンダーの意見を踏まえれば、2027年度の早い時期に税率ゼロを実現するために残された時間は少ない。
税率変更では済まず、新たな税区分が必要
会計システムやPOSレジの対応で最初に課題となるのが、取引にひも付く税の区分が「ほぼ確実に1つは増える」(会計システムに関わるITベンダーの開発担当)と見られている点だ。このため「軽減税率のシステム設定を8%から0%に変更すればすぐに対応できる」という単純な図式が通用しないのだ。
現在の消費税は、標準税率10%と軽減税率8%の2区分で管理している。税区分はこのほかに、外国人旅行者を対象にした消費税免税(いわゆる「インバウンド免税」)や、一部医療・土地などを対象にした「非課税」がある。業務によっては輸出入などさらに細かい税区分を設けているものの、一般的な会計システムは標準機能として、少なくとも主要な4つの税区分を備えている。企業は物品の販売や仕入れなど取引ごとに、これらの区分を割り当てている。
税の区分が増えるのは、政府が掲げた公約があくまで「食品」の消費税ゼロを検討する、としたからだ。軽減税率の対象のうち、定期購読契約の新聞はゼロの対象外になる公算が大きいと見られている。つまり「食品の税率を0%や非課税にしても、システムでは新聞の軽減税率8%を維持できる仕様にする必要がある」(会計システムに携わるITベンダーの開発担当)
税率が「ゼロ」に相当する区分は既に免税や非課税がある。しかし消費税をゼロにした食品はこれらの区分を使えない可能性が高いという。例えば、「インバウンドは別途、税関への申告書類が必要など、集計や報告の事務の扱いが異なる」(ITベンダー開発部門の制度担当)からだ。また、食品の消費税を0%にする場合は、消費税の中でも税率10%、8%、0%の3種類を区分する必要がある。
税区分は、会計システム上での税計算や仕訳に使うだけではない。最終的な集計結果である消費税集計表や消費税申告書、国に納税情報を送るための国税電子申告システム(e-Tax)とのシステム連携などに波及する。さらに従業員がシステムを利用する場面でも「仕訳伝票の入力画面や、元帳関係の出力機能も変更する必要がある」(会計ベンダーの関係者)。国が制度設計とともにこれらの様式を決め、e-Taxとのデータ連携仕様も固める必要がある。
これが会計パッケージやPOSレジを提供するベンダーの多くが改修が必要になる大きな理由の1つだ。ユーザー企業の対応は、会計システムの運用状況で対応の負担が変わる。カスタマイズした会計システムを使っている場合は、ベンダーと同様に自ら改修が必要になる。