投資家の円への信頼はますます低下する

 通貨高にも通貨安にも、局面に応じたメリットやデメリットがある。イラン発のエネルギーショックが長期化した場合、化石燃料の海外依存度が高い日本は通貨高、つまり円高を追求しなければ、一段の物価高を受け入れざるを得なくなる。このデメリットに勝るメリットなど今の局面での円安にはないことは明らかだが、日銀の腰は重い。

 利上げを円高誘導のために使うべきではないという論者もいるようだ。しかしそもそも論として、物価上昇を抑制する利上げの結果、円高が進むなら、それは自然かつ健全なことではないのか。物価目標の遵守を掲げておきながら、物価上昇が目標を上回り続けているのに利上げをしない姿勢こそ、健全な金融政策運営から大いに外れている。

 トラスショックを経験しながらもポンドが為替レートを回復することができた大きな要因の一つに、BOEによる物価目標を遵守する金融政策運営があることには、疑いの余地がない。市場はドライだから、物価目標を公約に掲げた中銀がそれを守るなら、その中銀が発行する通貨を買う。言い換えれば、公約さえ守れば、通貨は買われる。

 物価目標を掲げておきなら、それを破ることが常態化している日銀が発行する円に、市場は信頼を寄せはしない。円安の問題は、もはや通貨としての円の価値の棄損の領域まで踏み込んでいる節がある。それでもなお、日銀が利上げに慎重なままで、政府がそれを是認するような環境が続くなら、市場の円への信頼はますます低下するだろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。