「クソ客が増えるだけ」女性を救うはずの「北欧モデル」がかえって窮地を招いた”皮肉な現実”
「女性だけが罰せられるのは不平等」との声から売春防止法の見直しへの動きが始まった。世界の国々は性売買をどのように取り締まっているのか。各国の事例から日本のあり方を問う風俗ジャーナリスト・生駒明氏の連載第1回。後編では「北欧モデル」の問題点をあぶり出す──。 【画像】えっ、大丈夫じゃないの? 「北欧モデル」採用でここも利用したら処罰される? 「北欧モデル」がもたらした負の影響 ”買う側”の男性のみを罰する北欧モデルに反対する声は大きい。売春で生計を立てるセックスワーカーの収入減少につながったり、性売買の地下化により当事者がかえって危険にさらされたりするという。 ’16年に買春処罰法が施行されたフランスでは、それを裏付ける調査結果が出ている。 買春行為が犯罪となったことで顧客が減少。セックスワーカーの稼ぎを低下させ、さらなる困窮を招いた。収入が減り困ったセックスワーカーたちは、無理をしてでも客を取ろうとする。顧客と交渉する力が弱まり、逆に客の立場が強まった。 買春処罰法は客を罰する法律なので、「逮捕されたら困る」利用客の多くが減った。仕事や家族など、逮捕によって生活を壊されたくない”まともな人たち”の客層だ。残ったのは暴力をふるったり、お金の支払いがよくないいわゆる「クソ客」。つまり、コロナ禍の日本で起こったような「客質の悪化」が起きたのだ。 セックスワーカーはリスクの高い行為でも受け入れざるを得ない状況が生み出された。過剰なサービスや値下げを要求されるようになり、暴力にもさらされやすくなる。しかし、収入を減らしたくないセックスワーカーは客から不利な扱いをされても許容してしまい、搾取がなくなることはなかった。 セックスワーカーを守るために作られた法律によって、今までなら断っていた交渉も、のまざるを得ない状況が作られたのである。
かえって安全に働けなくなった
さらに客を逮捕させないために、今までのように人目のある街の路上で交渉をするわけにはいかなくなった。ホテルも使えなくなり、森の中、港など、人目につかない場所に車で移動して交渉や性的サービスを行うようになった。 客はオンラインで素早く交渉したがり、自分の詳細な情報を提供しなくなる。ホテルなどの公共の場所でプレイするのを避けるようになり、セックスワーカーにとって安全な場所よりも、客に都合の良い場所に行くことが増える。そんな中でも収入を得るため、客を安心させることに腐心しなければならなかった。 また、セックスワーカーに用意された支援サービスは、その支給金額が生活していくにはあまりに少なかった。申請と受給の時期がかけ離れているため、受給まで収入が途絶え、たちまち生活が成り立たなくなる。また「売春をしない」誓約書が必要など、個人の自由を侵害するものになっているという。 問題はまだまだある。屋内の施設で2人以上のセックスワーカーが一緒に働くことは「売春宿の維持」として違法となり、安全に働けなくなる。 買春の場所を提供した人も取り締まりの対象となることから、セックスワーカーが自宅で売春を行った場合はアパートの大家も告発されてしまう。そのため、立ち退きを要求されてセックスワーカーは住む場所を失う危険がある。 さらに、セックスワーカーが医療行為を受けることも難しくなった。被害者とみなされているため利用できる支援のほとんどはカウンセリングに重点が置かれ、利用しやすい性感染症の検査などの支援が受けられなくなっているという。 また、スウェーデンやフランスでは多数のセックスワーカーが永住許可を持たない移民であり、売春は合法的な仕事ではないため国外追放の理由となる。病院は犯罪が疑われる場合には警察に通報する義務があり、当局に勾留される恐れがあるので病院に行けなくなる。 警察はセックスワーカーにとって危険な存在となった。買い手を捕まえるために、警察がセックスワーカーを脅して利用したり、自宅やホテルの部屋を張り込みすることもあるからだ。結果、男性客ではなく、実際にはセックスワーカーが取り締まりのターゲットになっている。買い手の犯罪化はセックスワーカーを犯罪の関係者と見なすことでもあるといえるのだ。