「新しい戦前」体制の完成にまた一歩近づく。高市早苗新政権が「国家情報局」創設の検討に入った。政府の情報活動を内閣の下に一元化して強化するという。市民活動への監視が強化され、言論・表現の自由が脅かされる可能性が高い。戦前、憲兵や特高警察が国民を監視し、戦争に反対する者を弾圧した歴史の教訓を忘れてはならない。
スパイ防止法制定と国家情報局設置は高市首相の持論であり、自民党総裁選の公約にも掲げていた。自民党と連立を組んだ日本維新の会も、10月1日に「インテリジェンス改革およびスパイ防止法の策定に関する中間論点整理」を明らかにしていた。
インテリジェンスとは情報収集・分析の意味である。自民・維新両党の連立政権合意書の「インテリジェンス」の項目には、国家情報局創設のほかに、2027年度末までに「対外情報庁」と情報要員養成機関の創設、スパイ防止法の早期成立が盛り込まれた。維新によると対外情報庁は諜(ちょう)報(ほう)、防諜、非公然活動の3機能を持つ。米国中央情報局(CIA)の日本版である。
国家情報局は、現在の内閣情報調査室を格上げし、インテリジェンスの司令塔となる。政府にはほかに警察庁警備局、法務省公安調査庁、外務省国際情報統括官組織、防衛省情報本部などがある。国家情報局はこれらからの出向者で組織され、関係閣僚で構成する「国家情報会議」の事務局を担う。13年の安倍政権時に発足した国家安全保障会議(NSC)および国家安全保障局と、それぞれ同格の関係になる。
NSCの立ち上げと特定秘密保護法の成立が同時だったことを思い起こしたい。高市政権は今回、国家情報会議・国家情報局の創設と並行して、スパイ防止法制定とスパイ機関の創設を行おうとしているのである。
NSCは首相、官房長官、外相、防衛相が外交・安全保障政策を協議する。法律に議事録作成の規定がなく、政府が議事録を開示しないため、政策決定の責任の所在が不明で歴史の検証に堪えられないと批判されてきた。
特定秘密保護法は、機密情報を扱える公務員を指定し、漏らしたら処罰する法律である。その運用は国民に隠されたままだ。同法に関して国会の衆参両院に情報監視審査会が設けられているが、恣(し)意(い)的な運用を是正する強制力はなく、政府は情報提供を拒んできた。国家情報局や対外情報庁が創設されれば、その活動も秘密のベールに包まれることは明らかだ。
政府がひそかに市民の活動を監視する法律が次々に成立してきた。22年に全面施行された土地利用規制法、昨年制定された、秘密の保全対象を経済安全保障分野に広げた経済安保新法などだ。政府による監視は人権侵害であるだけでなく、民主主義の破壊であり、戦争への道である。