2026-04-23

大根を育てる

家賃7万8千円。ベランダは南向き。初夏の午後になるとコンクリートの床がじんわりと温まる。

手すりの外には向かいの棟の灰色の壁が見えるだけ。景色と呼べるものほとんどない。洗濯物を干すための物干し竿が二本。その下にプラスチックの鉢を三つ並べている。

深さのある長方形プランターで、ホームセンターで買ったものだ。その時一緒に土も買ったはずだが、その名はもう覚えていない。

大根を育てる。

自炊をしようと思ったのがきっかけだった。外食が続いて、濃い味に飽きがきていた。

スーパーで手にした大根。その時頭に過ったもの。お味噌汁おでんエトセトラ。切っても、煮ても、擦ってもいい。なんにでも使える。実家に居たときはいつも食卓に出ていた気がした。

一度、自分作ってみたいと思った。

種は小さい。指の腹にのせると重さがあるのかどうかもわからいくらいで、色はくすんだ茶色をしている。

説明書きには、「条間何センチ、株間何センチ」等と書いてあったが、守れてはいない。

プランターの幅が限られているので、だいたいで三列。間隔も目分量でまばらだ。

ネットで調べて、土は最初に軽く湿らせた。指で浅い溝をつくり、そこに種を落としていく。

水やりは朝の出勤前に一度。帰宅が早ければ夕方にもやる。ジョウロはなく、ペットボトルに穴を開けたもの代用している。

水の出方が不規則で、最初は土がえぐれたが、次第にコツを覚えた。受け皿には余った水が溜まる。数日放っておくと底の方にぬめりが出るので、ときどき洗って流す。

芽は思ったより早く出た。

細い双葉が土を押し上げるようにして顔を出す。どれも同じ形で、どれがどの種だったのか見分けはつかない。しばらくすると、混み合っているところが気になってくる。

間引きという作業説明どおりに初めて行った。元気そうなものを残し、そうでないものを抜く。

抜いた芽は、捨てるのがもったいない気がして、水で軽く洗ってそのまま口に入れてみた。ほんのりと青い味がした。それと大根おろしの辛味に近い、ざらざらとした味わい。

時々、土が乾くのが早くなる。そういう日は水を少し多めにやる。肥料最初に混ぜ込んだきりで、追肥はしていない。やるべきなのかもしれないが、今のところ見送っている。

白い部分は、土の下にある。見えているのは葉だけで、どれくらい育っているのかは掘ってみないとわからない。ときどき株元の土を少しだけ指でどけて、肩のあたりを確かめる。まだ細い。思っていたよりも時間がかかるようだ。

大根はまだ土の中にあって、形は見えない。見えないままでも、毎日少しずつ変わっているはずだと思う。

収穫の時期は袋の裏に書いてある。あと何日かで、予定日に近づく。どれぐらい育っているのだろうか。引き抜くまでは分からない。

とりあえず今は水をやる。がんばれ。元気に育てよ。そう心の中で思いながら、水をやる。

春と夏はお味噌汁。 秋と冬はおでん

家庭の味は、もうすぐ食卓に並ぶ。

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