Article

Conversation

Image
こども家庭庁不要論——中の人だった私が局長室で見ていた光景
「こども家庭庁なんていらない」という声を、たくさん聞いてきました。
NPOから役人に転身し、内閣官房こども家庭庁設立準備室の段階から、およそ2.5年。民間に戻って、ちょうど1年が経ちました。
振り返ると、この役所は発足前から今日まで、ずっと批判の渦中にありました。**「こども家庭庁」**という名称そのものへの反発から始まり、政策への落胆、そして「解体論」までが飛び交っています。
至極まっとうな指摘もあれば、誤解に基づく批判もあります。 でも、**「こども家庭庁があってよかった」**という意見は、ひょっとしたら、一度も聞いたことがないかもしれない。
それでも、私は思うのです。この役所があったからこそ成立したことは、確かにある、と。贔屓目、と笑われるかもしれませんが。
・・・
鮮烈に覚えている場面があります。国会議事堂を眼下に見下ろす、局長室の定例会議。
私が担当していたのは、日本版DBS——こども性暴力防止法と呼ばれる仕組みづくりでした。
子どもと関わる職場で働く人・働こうとする人に、犯罪経歴証明書の提出を求める。現場で性被害が疑われる兆候があって、もしそれが確からしければ、原則、その人を子どもと接する業務から外す。そういう制度です。
法案提出の直前、論点は次々と噴出していました。「これで本当に国会に出せるのか」——そんな空気のなか、私たちは繰り返し局長室へ集まっていました。
最大の論点のひとつが、**「大人の権利」**です。
これまでの日本の法体系から見ると、この制度はあまりに非連続なものでした。
  • 子どもを守るためとはいえ、労働者の権利を侵害していないか
  • 個人情報保護との整合はとれているのか
  • 違憲判断を招く余地はないか
各方面から、既存の法律と長年の慣習に裏打ちされた、重厚な反論が届きます。
それらは、読めば読むほど「確かに……」と唸らされるものばかり。長い時間をかけて、この社会を編み上げてきた論理です。その構えは、まさに鉄壁でした。
法案を国会に通すため、違憲リスクを避けるため、制度として実際に機能させるため——、譲るところも少なからずありました。
ただ、「ここだけは、子どもたちのために絶対に譲れない」という最後の一線がありました。
そこに来ると、局長はじめ審議官各位は、いつも、**「これでいこう」**と言ってくれました。
長官、政務官、副大臣、そして大臣まで上がっても、判断がブレることはありませんでした。実際、関係各所とのハイレベルな調整に、汗をかいてくださいました。
夕暮れの局長室で、こうした決断が何度も下され、それを支えに、私たちは働いていました。
地味だし、報道のネタにはなりません。でも、これは本当に大切なことだったと、私は今も思っています。
ちょっと、想像してみてほしいのです。
もし、こども家庭庁が存在しなかったとして、労働組合がこの法律に異議を唱える場合、窓口は厚生労働省だったでしょう。
それ自体は、なんら悪いことではありません。ただし、厚労省の労働法制担当部局が第一に守るべきは、労働者の権利です。子どもの権利ではありません
仮に厚労省がこの法案の所管官庁であったとしたら、いま手元にある制度とは、まったく別のかたちになっていたのではないか、と思います。
誤解しないでほしいのは、こども家庭庁が優れていて、他省庁が劣っている、なんて話ではまったくないということ。
  • 厚労省は、労働者の立場から制度を組み立てる
  • 経産省は、事業者の側に立って動く
  • 農水省は、農家や漁業を営む方々の味方になる
どれも、欠かせない役割です。
ただ、これまでこの国には、子どもの立場に立って政策を進める省庁が、ありませんでした
こども家庭庁設置法の理念は、こう記されています。
こどもが自立した個人としてひとしく健やかに成長することのできる社会の実現
こども家庭庁は出来立てほやほやの役所です。生え抜きのプロパー職員は、まだひとりもいません。他省庁からの出向と、私のような民間出身者の寄せ集めで動いています。全員が理念に共感しているわけでもない。それもまた、事実です。
それでも、様々な矛盾を抱えながら、政局の激震に揺さぶられながら、「こどもまんなか」のミッションを信じて働いている職員が、確かにいます。
もちろん、最終的に問われるのは、結果です。
この国には、いろいろな問題に直面して苦しんでいる子どもたちが、本当にたくさんいます。「頑張った」では、意味がない。課題は、山ほど残っています。本当に、山ほど。識者や社会からの批判の中には、耳を傾けるべきまっとうな指摘が、多く含まれています。
でも、この局面を打開できる役所が、他にあるでしょうか。 それがなかったから、こども家庭庁が構想されたはずです。
今年からは、新卒採用も始まりました。「こどもまんなか社会」を実現したい、と門を叩く若い人たちは、きっとこれから増えていくと思います。私はその未来に期待しているし、民間に戻った今も、タッグを組んで一緒に社会課題の解決に挑んでいきたい、と思っています。
Want to publish your own Article?
Upgrade to Premium