【退職エントリ】日本の教育がドワンゴの「魔法の杖」にされてしまう前に

一昔前、ネットの海を賑わせた「ドワンゴの退職エントリ」を覚えている人はどれくらいいるでしょうか。技術への偏愛と、組織の不条理をロジカルに叩くあの独特の文化。まさか、長くこの組織に身を置いた自分がその「亜種」を執筆する側になるとは思いませんでした。

私は、学校法人角川ドワンゴ学園を3月をもって退職しました。

このタイミングでこれを公開したのは、明確な理由があります。
これから綴るのは、組織の深層に触れる、いわば「凶悪な内情」です。3月は一年で最も多くの職員が去る時期。その大きな群衆の中に紛れることで、個人の特定を避けつつ、最大限の真実を伝えたいと考えました。
今回、かなりの数の退職者が出ると聞いています。私のこの記事のせいで、周囲から疑いの目を向けられてしまう方が出てしまうのは非常に申し訳ない。ですが、辞めていく方の中には、私と同じ「やりきれなさ」を抱えている同志が確実に存在すると確信しています。

そして、期待を胸に入職した新卒の皆さん。
初期研修も終わり、上層部から「未来の教育」という名の綺麗事をたくさん聞かされた頃でしょうか。
まずは一度、周りを見渡して「去っていった先輩たちの数」を数えてみてください。それが、この組織がひた隠しにする何よりの現実です。
君たちは、まだ間に合います。

これから語るのは、僕がこの学園で積み重ねてきた経験と、そして様々な関係者から聞いた話を全て混ぜ込んだ内容です。

1. アルコールで漏れた「魔法の杖」の本音

学園の理事や経営幹部のほとんどは、実質的な親会社である株式会社ドワンゴからの出向社員で占められています。彼らにとって学園は「教育の聖域」ではなく、ドワンゴの決算を美しく飾るための「ビジネスユニット」の一つに過ぎません。
ある少人数の懇親会の夜でした。酒が入ったこともあるのでしょう、ある経営幹部が、悪びれる様子もなく口にした言葉が、今も耳にこびりついて離れません。
「学園は、ドワンゴの赤字を埋めるための『魔法の杖』なんだよ」
振れば振るほどキャッシュが生まれる魔法。ですが、その魔法の代償として削り取られているのは、現場職員の正気と、生徒たちの不確かな未来です。現実の教育現場でこれを目にすると、ただのホラーでしかありません。

2. 巧妙に設計された「不平等契約」のカラクリ

「生徒が増えれば、現場も潤う」
そんな夢を見ていた時期もありました。ですが、この学園の「財布」には、最初から埋まらない穴が設計されています。

売上の 25% を吸い上げる「上納金」

収益コースの売上の4分の1が「コンテンツ使用料」としてドワンゴへ流れます。学園が大きくなるほどドワンゴが潤い、学園にはスケールメリットが発生しない完璧な集金システムです。

「借金」をさせるための 100 キャンパス展開

異常な出店スピードは「学園に借金をさせるため」の投資でした。返済しそうになると新たな開発費が計上され、借金が更新されるのです。
「赤字」という名の人件費抑制: 構造的に赤字を維持することで、経営側は「赤字だから給料は上げられない」という最強のカードを使い続けます。
キャリアの引き返せない地点でこの構造に気づいても、もう手遅れなんです。そこには、逃げ場のない「搾取の循環」が待っています。

3. 教育者ではなく「テレアポ」としての日常

「一人ひとりに寄り添う教育」というキラキラしたキャッチコピー。その裏側にある、無機質な数字をお話ししましょう。
僕たちメンターが担当する生徒数は、平均して 230 名。
通学コースのメンターは担当生徒数が少ないので、ネットコースのメンンターは300 名を超え、400名前後の生徒を担当する方もいます。
対外的に公表している職員一人当たりの担当生徒数はアルバイトの学生込みで平均しています。
1 日 8 時間、Slack と電話で生徒を追い立て、事務連絡と数字を詰め込む。
生徒との心の触れ合い? 物理法則がそれを許してくれません。
僕たちがやっているのは教育ではなく、「教育という名のテレアポセンター」のオペレーター業務です。
この無機質な環境を「教育現場」と誇らしげに呼ぶのは、教育に対する冒涜だとすら感じます。

4. 「モノサシ」の破壊と、進路指導という名の営業活動

2026 年度、学園は教育機関としての「最後の良心」を完全に捨てました。象徴的なのが、ベネッセの「スタディーサポート」の廃止です。
全国の高校生と比較可能な「外部の客観的指標」を捨てて、代わりに導入されたのはドワンゴ製の「定期テスト」。進路データのノウハウもないドワンゴが作ったテストで、一体何が分析できるというのでしょうか。

「ものさし」をなくすことで、まともな進路指導を不可能にし、ZEN 大学への営業を強化する。これが狙いです。
理由は明白です。
「まともに進路指導をして生徒が賢くなると、ZEN大学を選ばなくなるから(笑)」です。
当然ですが、現場には評価と連動する「ZEN大学内部進学目標」というノルマが課せられます。

生徒たちのモノサシを奪い、自分たちが都合よく書き換えた目盛りを押し付ける。これが「ドワンゴ流・未来の教育」の正体です。

5. ZEN 大学、半年で「音信不通」になる悲劇

進路指導をサボり、生徒を強引に「誘導」した結果は凄惨です。
ZEN 大学に出向している関係者から、震えるような実態を聞きました。
「内部進学した生徒の半分が、入学から半年で音信不通になっている」
義務教育段階の基礎すら怪しい生徒を、ノルマのために「サポートがあるから大丈夫」という甘い言葉で送り出す。メンターの評価指標に「進路決定率」が含まれているから、生徒が大学入学後にどうなろうと知ったことではない。
無理に大学へ押し込まず、本人の適性に合った専門学校を選ばせていれば、彼らが挫折する未来はなかったはずなんです。
これ、教育じゃなくて、ドワンゴの別会社への「在庫処分」じゃないんですか?

6. アップデートされない「ZEN Study」と、監視される Slack

学習プラットフォーム「ZEN Study」についても同様です。
現場が改善を叫んでも、ドワンゴの回答はいつも「生徒から不満は出ていない(=使われていないだけ)」。
実際、難関大に受かるような「賢い」生徒は、ZEN Study をスルーして、自費でスタディサプリや予備校に通っています。
こうした残酷なパラドックスを指摘した優秀なスタッフが、次々と「干されて」いくのを僕は見てきました。

さらに恐ろしいのは、職員同士の Slack のやり取りがドワンゴ側で内容をチェックできるようになっているという事実です。
過去にドワンゴへの不満を DM でやり取りしていた人間が、突然干され、退職に追いやられたことがあります。僕自身も上司から「DMだからといって迂闊なことは書かないように」と注意されたことがあります。
「ネットの高校」を標榜しながら、その実態は自由な言論を封殺する「監視社会」そのもの。そんなバグだらけの組織に、生徒の未来を預ける価値なんてあるんでしょうか。

最後に:教育の自由を取り戻すために

僕は生徒たちが大好きです。
そして、現場で一緒に汗を流した仲間たちが大好きです。彼らは本当に、生徒のために必死だった。
でも、その純粋な「善意」が、ドワンゴの利益を支えるためのガソリンとして消費されている現実が、耐えられませんでした。
ドワンゴ経営陣にとって生徒は人格を持った人間ではなく、LTV(生涯価値)を最大化するための「数字」でしかなかったのかもしれません。

通信制高校を検討している生徒・保護者の皆さん。
そして、今この組織で違和感を抱えながら踏ん張っている同僚たち。
教育が、一企業の「食い物」にされるのは、もう終わりにしませんか。

僕は今日から、別の場所で、本当の意味での「教育」を探してみようと思います。
この記事を読んで、胸にざわつきを感じたジャーナリストや関係者の方がいれば、いつでも協力します。魔法の裏側にある「仕掛け」を暴くために。

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Yuta Yamanaka

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