第5話:目覚めた騎士!

 その時だった。 僕たちの目の前で倒れていた銀鎧の騎士の鼻が、ピクンと動いた。

 焼き上がったベニ・ハルーカを小さくちぎり、僕は騎士の口に含ませた。 だが、彼女には自力で咀嚼する力すら残っていない。


(……やむを得ん。ここで一号顧客を失うのは、僕にとっての損失だ)


 僕は躊躇ちゅうちょなく、残りの芋を自分の口に放り込んだ。 十分に噛み砕き、蜜と混ざり合ってペースト状になった黄金色の塊。それを、彼女の唇へと口移しで流し込む。


「はぁっ!? ツトム、あんた何してんのよ!!過剰サービスが過ぎるでしょ、この不潔社長!」


 ルカが背後で騒いでいるが、無視だ。これはあくまで救命措置である。

 すると、彼女の身体がにわかに黄金色に輝き始めた。 ルカの魔力を受けて育ったベニ・ハルーカは、もはや食材を超えた高濃度エネルギー体と化していたらしい。みるみる生気が戻り、彼女の瞼が跳ね上がった。


「……っ、くっ、殺せ!」


 開口一番、それか。


「いや、殺さない。僕はただの農業をしている経営者でなぜか勇者なんだ」


「しかし、貴様!勇者!?私に……私に、何をした……っ!」


 彼女は僕を睨みつけながらも、その顔を林檎のように赤く染めている。唇に残る感触と、鼻に抜ける異常なまでの甘い香り。彼女の理性は、屈辱と「美味しすぎる」という本能の間で激しく揺れ動いているようだ。


「応急処置だ。君の血糖値が危険なレベルだったからな。……それより、味はどうだ?僕たちの看板商品、自信作なんだが」


 僕はスーツの襟を正し、平然と営業を仕掛けた。


「……っ、殺せと言っているのだ!乙女の純潔を、このような、よくわからぬ……甘美な泥の塊で汚すなど……っ」


 彼女は唇を震わせながら、なおも僕を鋭く睨む。だが、その瞳は潤み、頬は緩みきっていた。 口の中に残るベニ・ハルーカの圧倒的な糖度が、彼女の理性を粉砕しているのは明白だ。


「……甘い。何なのだ、これは。私は王宮の晩餐会で最高級の蜂蜜菓子を食したこともあるが、これほどまでに濃厚で、温かく、心を蕩けさせる味は知らないぞ……」


「それは光栄だ。これはベニ・ハルーカ。僕と、助手のルカで作り上げた至高の逸品だ」


 僕はあえてルカの正体を伏せ、簡潔に紹介した。女神などと名乗れば、トラブルや権力闘争に巻き込まれるリスクがある。今は優秀なスタッフとして扱っておくのが正解だ。


「ちょっとツトム!私をただの助手だなんて、格下げしすぎじゃない!?これでも私がいなきゃ……」


「しっ、静かにしろ。……それで、ベニ・ハルーカの味はどうだ、騎士殿」


 僕が問いかけると、彼女はハッとしたように姿勢を正そうとしたが、またすぐに力なく肩を落とした。

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