「クジラのまち」石巻から④ 鯨文化の未来 意見交わして

くじら日記

石巻市鮎川港から出港する小型捕鯨船(おしかホエールランド提供)

令和7年11月1日、宮城県石巻市で開幕した「全国鯨フォーラム2025」では、パネルディスカッション「鯨文化を未来につないでいくために」が開かれました。コーディネーターの加藤秀弘先生(東京海洋大学名誉教授、日本鯨類研究所顧問、和歌山県太地町立くじらの博物館名誉館長)と筆者を含む5人のパネリストや約600人の聴衆とともに、クジラを捕る、食べる、活用するという3つの視点で意見を交わしました。

「仙台湾にミンクが見えなくなって久しい」と、商業捕鯨が再開して6年たった今の漁場を見直すことから、議論が繰り広げられました。仙台湾にはミンククジラが多く集まり、味も良いことから、昭和8年以降捕獲が始まり、石巻の鯨文化を支えてきました。

しかし、平成23年の東日本大震災の後、その姿をほとんど消したのです。加藤先生は減った原因を「仙台湾の生態系の変化にある」と言い、「底の泥質がイカナゴの揺りかごとなり、ミンククジラの豊富な餌場を形成していた。震災によってその生態系が崩壊した」と考えを述べました。

近年は仙台湾に向けて、ザトウクジラとマッコウクジラが多く来るようになったことを大壁孝之氏(外房捕鯨鮎川事業所所長)が報告しました。「石巻にはマッコウで育った時代もある」と、捕ることへの意気込みも語りました。ただし、本種は捕獲対象外で、捕るには科学的な資源評価に基づいた農林水産大臣の許可が必要となります。水産庁資源管理部国際課捕鯨室室長の槇隆人氏は、「捕る人、食べる人、資源があれば、捕ってもらいたい」と返しました。

ただ、マッコウクジラの肉は調理によって硬くなったり、ミオグロビンが多く含まれていて味が濃いと感じたりするそうです。こういった鯨肉の調理に関し内野美恵氏(東京家政大学教授、日本鯨類研究所理事)は、「鯨肉の赤身にはリンゴがおすすめ。皮ごとすりおろしたリンゴにつけておくことで、タンパク質がアミノ酸へと分解され、柔らかく、うまみがグッと増す。ニンニクとショウガは臭い消しに」と、工夫をアドバイスしました。

このように専門家それぞれの視点から「鯨文化の未来」が語られる中、筆者はその未来に、何ができるのかを考えさせられました。

くじらの博物館は、400年以上クジラと関わり生きてきた太地の鯨類専門施設です。博物館資料からは、捕鯨の歴史や文化、生態を正しく学ぶことができます。飼育するイルカやクジラとのふれあいからは五感で、驚きと感動をもって彼らを知ることができるでしょう。こうした強みをもち、誰にでも開かれた施設だからこそ、鯨類の「生き物」、そして「資源」としての魅力の「気づきの場」になれると思うのです。

今年3月、小型捕鯨船数隻が石巻から仙台湾沖に向けて、今季初めての漁に出ました。捕鯨船を所有する鮎川捕鯨社長の伊藤信之氏が鯨フォーラムで言った「フジの花が咲く頃、ミンククジラが多く来るという鯨捕りの言葉がある。初漁は、石巻であげたい」という言葉を思い出します。

(太地町立くじらの博物館館長 稲森大樹)

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