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無限に繰り返される日本と海外におけるMODや海賊版、著作権感覚の衝突について

またTwitterで日本と海外で海賊版や著作権に関する衝突が起きているのを見た。発端はサービス終了したソーシャルゲーム『ニーア リィンカーネーション』を海外プレイヤーがエミュ鯖で勝手に復活させたことらしい。自分はアメリカ在住経験があり、どのゲームでも英語圏のコミュニティに積極的に属していて、西洋寄りの感覚を持ちつつも日本人としても日本社会に馴染んでいるつもりだ。それなりのバランス感覚で両方の価値観を理解しているつもりの自分からしても、この問題はしっかりと根深いように感じる。そして今まで自分が触れてきたあらゆるゲームや界隈でこの衝突を観測している。STGではハイスコアにおける動画提出義務、練習用MOD、アーケード限定稼働作品の海賊版、音ゲーではコピーゲームにおける版権曲の配布やEVOで稼働するアーケード作品の海賊版、FF14のModやランチャー、格ゲーやスマブラの低遅延modや練習用ツール、スピードランにおける実機とエミュの扱いや練習用ROM、改造ROMの存在……これらは個別には違う問題でありながらも、アクセス・保存・公平性・権利尊重という共通軸が繰り返し現れ、結果同じ構造の衝突が繰り返されている。なぜここまで分かり合えないのか。私見では、以下の四つの要素が大きく作用している。

1.「大企業」に対する態度の違い

著作権や著作物の公共性、文化遺産としての保存義務の考え方などいろんな価値観の違いが関わってくる問題ではあるものの、もっとも衝突の根っこに近いのは企業への考え方ではないかと思う。日本語圏は基本的に個人のクリエイターと企業をあまり区別していない。ゲームやコンテンツの制作に携わった一人ひとりのクリエイターに対するリスペクトはそのまま彼らが所属・協働する企業へのリスペクトと地続きであり、企業に対しても「作ってくれてありがとう」「遊ばせてくれてありがとう」という気持ちが強い。逆にIPホルダーである企業が定めたルールや権利を尊重することが、コンテンツの制作に関わった人間を尊重することにも繋がっている。英語圏ではこのような感覚はなく、個人としてのクリエイターとIPホルダーとしての企業は切り分けている感覚の人が多い。クリエイターへのリスペクトはあっても、その成果物の権利を握って「金儲け」を担当する企業はなんならこれらのコンテンツの発展、ひいては文化の保存・発展に対する障害として見なしている。基本的に企業は敵であるため、企業の定めたルールや権利を守ろうとする日本語圏に対して、「企業はIPを最大限利用して消費者から絞れるだけ絞ろうとしているだけなのに、なぜそのルールに従う必要があり、あまつさえ擁護する理由があるのか?」と困惑する。企業とクリエイターを同一視している日本語圏は「作者が権利を行使できるのは当たり前である。なぜきみたちはそんなにもクリエイターに対するリスペクトがないのか?」と憤慨する。

2.ルールに対する価値観

1の延長線上にある議論として、日本語圏は「ルールは守ることそれ自体が徳目である」という価値観に準拠している人が多い。これは「全員がルールを守ることで秩序が成立している以上、個人の判断で離脱することは秩序そのものへの攻撃である」という感覚がベースになっているだろう。ルールを守ることの道徳的価値はルール自体の正しさではなく、「全員が守る」という合意の維持に置かれているため、たとえ内容に疑問があっても「まず守った上で正規の手続きで変える」のを正道とするのが日本語圏のルール観であるように思える。一方で英語圏には市民的不服従という思想的伝統もあり、たとえばソローが奴隷制への加担を拒否して納税を拒んだこと、キング牧師が不正な人種隔離法に公然と違反したこと、ニュルンベルク裁判で「上官の命令に従っただけ」が免責にならなかったこと、こういった歴史的経緯やそれを学ぶ過程において「正しくないルールに従うこと自体が道徳的に問題でありうる」という感覚が強く内面化されている。「ルールと道徳的正しさは常にイコールではない(≒正しくないルールは守る必要もない)」と考える英語圏と、「たとえ間違っていたり保護法益が存在しなくとも、ルールを守ることそれ自体に道徳的価値がある」と考える日本語圏の間には断絶がある。そしてこのルール遵守の感覚をさらに複雑にしているのが、そもそも何をルールと見なしているかの違いである。ひとくちに「ルール」と言っても実際は「法」「規約」「コミュニティ規範」という3つの階層があって、事例によって参照すべきルールの階層も違う。日本語圏のルール観ではこれらは「公式に許されているのかどうか」という一本軸に圧縮されて評価されがちで、それが法であれ規約であれ明示されたルールを破ること自体が秩序への背反として扱われる。英語圏ではこれらの三層をより切り分けて考える傾向が強く、法的に違法なのか、単に企業規約に反しているだけなのか、競技上の公正を損なうのか、といった具合にどの層のルールを問題にしているのかを分けて議論しようとする。この差があるせいで、一方が「禁止されている以上だめだ」と言い、もう一方は「何が、誰に対して、なぜだめなのか」と問い返す光景が何度も何度も繰り返し見られることになる。そもそもお互いが議論の軸に置いているルールの階層が違うことによって議論が噛み合いにくくなっているとも言える。

3.日本人側のジョーカー

純然たる事実として、世界的に見れば日本語圏の感覚のほうが少数派であることは認めるべきである。しかしことゲームやアニメ・漫画の海賊版やMOD論争においては、対象物が日本企業の作ったコンテンツであることが多く、この衝突において日本語圏は「これは日本人(日本企業)が日本人に向けて作った作品であるのだから、日本の価値観に沿って扱うのは当然である」というロジックを展開することができる。もちろん、日本が自国コンテンツの文化的影響力を海外に行使しておきながらアクセス手段を十分に提供しないのは不誠実だ、という反論は成り立つ。とはいえ、前提が該当する作品(たとえば日本の小規模な同人マーケットに向けて発売されたがゆえに海外からは実質的に正規ルートでほぼ入手不可能な同人作品であるとか)に関しては、このロジックに対して海外から反論することは難しい。「日本のルールに従え。海外で手に入らないのならば、諦めろ」とまで言えてしまう。この論法が「日本コンテンツの海外ファン」視点だと容易には崩せない強力な主張であるのは事実であり、強力であるがゆえにこの論陣を張る日本人も多いが、「作品は許す限りなるべく多くの人が楽しめてしかるべきである」という議論の前提へのちゃぶ台返しではある。このような「説得」や「相互理解」からは程遠い、議論を事実上打ち切りうる強い論法の濫用が事態をより膠着させているようには思える。

4.道徳的優位の感覚が攻撃性に繋がっている

西洋人と日本人、どちらも議論がヒートアップすると攻撃的になるのは珍しいことではないが、この話題に関しては日本人のトゲトゲしさがことさらに目につく。日本語圏の感覚からすればルールを守り、他者の権利を尊重し、道徳的に正しい行いをしているのは自分たちであり、西洋の主張は「自らの利益のために相手が悪いと開き直る犯罪者」そのものにしか見えない。この道徳的優位の感覚がそのまま攻撃性に繋がっていて、「権利感覚がない」「野蛮」「盗人猛々しい」というような表現が飛び交うことになる。もはやレイシズムそのものみたいなツイートもよく見る。しかし逆に、「日本では容認されているが他国の基準では道徳的に問題視される」という構造を持つ問題にたとえば非実在未成年のエロコンテンツがある。日本人が「フィクションだから問題ないだろう」と済ませていても他国からすればモラルに反しているコンテンツであり、これに関して海外が(自分たち基準の)道徳的優位を振りかざして「グルーミング肯定のペド野郎たちが自分たちの欲望のために開き直っているだけだ」と主張されても日本人はより反発するだけに決まっている。結局問題なのはお互いの「自分たちの道徳的基準は普遍的に正しい」という道徳的確信が、自文化の中で検証されていない前提の上で成り立っているように思えるということ。日本人がルールを守ること自体に価値を見出すのは、歴史的経緯で「ルールを守ったのに不正義が温存された」という経験が少ない、あるいはそれを歴史的教訓として教育で内面化されていないからとも言える。西洋人がともすれば(特に企業の)著作権を軽視するように思えるのは、1998年の著作権延長法がディズニーによるロビー活動の産物と見なされたように、著作権の強化が「企業が自らの利益のために消費者の自由を制限する行為」であるという歴史的経験に基づくものであるとも言える。これらの背景は単純化ではあるが、重要なのは自国の道徳的基準は普遍的ではなく、あくまで自国の文化的に条件付けられたものであるという認識。さもないと「相手は道徳的に劣っている存在だ」という前提から議論が出発することになり、原理的に説得も相互理解も不可能なのは当たり前である。

あくまで私見ではあるが、こういった要素が分かり合えない原因として強く作用しているように思える。一朝一夕で埋めることが出来る価値観の差であるとは思えないが、だからこそ自分の道徳的価値観の文化的条件性を認識することが重要で、そこの前提を揃えて初めて「野蛮な価値観を持つ相手とは到底分かり合えない」で終わらず相互理解の一歩が踏み出せるのではないかとは思う。

4/15 追記 海賊版とMODの併記について

本記事について、「MODと海賊版を同列に扱うべきではない」という趣旨の指摘を多く受けた。これ自体は妥当な指摘であり、実際MODと海賊版では多くの場合法的な位置付けや悪質性が大きく異なる。両者を区別せずに扱うことで、MOD文化全体に「違法行為」のレッテルが貼られることへの危惧があるのだとすれば、その懸念は理解できる。とはいえ記事の冒頭で「これらは個別には違う問題でありながらも」という留保を付けたように、本記事は別に法的にMODと海賊版を同一視しているわけではない。これらの個別事例よりも、こういったゲームをめぐる価値観の衝突が似た構造を持って繰り返し現れる、という点の分析を扱っているつもりである。

もともとこの記事で著作権の具体的適用や法的な議論について触れていないのは、それらが個別の事例に対して具体的に議論されるべき事柄であって、この記事の射程に沿うような一般化に適していないと判断したからである。そして、たとえ法的な区別を議論に持ち込んだとしても、この記事で指摘したような文化的前提の断絶が解消されていなければ、その区別の重みづけ自体が合意できずに終わる可能性が高い。MODひとつ取っても「法的に問題がないとされるMODだから問題ない」と「公式が許可していない以上だめだ」が衝突するような場面は繰り返し見られ、この記事が分析しているのはまさにこのようなすれ違いがなぜ生まれるのかという点である。まずこの記事で扱った思想的・文化的背景を踏まえたうえで、MODと海賊版の法的・倫理的な差異といったようなより具体的な議論に進むべきであると考えている。


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