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国立国会図書館館長・倉田敬子氏「問いを投げかける異分子に」

私のリーダー論(上)

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国立国会図書館は今、大きな変革期にある。デジタル化で情報環境が劇的に変化し、図書館に求められる役割も変わってきているからだ。そんな時期にこの国内最大の図書館を率いているのが倉田敬子館長(67)。情報学の研究者から転じ、3年目に入った。「成果を検証されるのは10年後」という超長期のミッションに取り組むリーダーだ。

――研究者としてのご専門は学術情報流通ですから、館長就任はわが意を得たりだったのではないですか。

「いいえ、全くそうではありません。審議会の委員を務めた経験はあったのでここがどういう図書館であるかは知っているつもりでしたが、表面的な理解でした。中に入ってみると本当に多様な仕事をしていることがわかり、驚くことばかりです」

「その最たるものが『国会』図書館であるという点。私たちの重要な業務に国会議員の補佐があります。議員などからの依頼で様々なことを調査・分析しますが、2024年度は3万3000件の問い合わせがありました。それだけではありません。記事を出したり雑誌を出したり、政策セミナーを開催したりと本当に業務の幅が広いのです」

ここは本当にこれでいいの?

――勝手のわからない組織でトップを務めるご苦労が想像されます。

「就任後、まずこの組織をよく知ることが必要だと考え、約900人の全職員と非常勤職員に会って話をすることにしました。10人ずつのグループに分け、彼らが何を考えて仕事をしているのかを聞いていった。時間が限られた中での対話ですが、この組織の温度を実感できました」

「国会図書館の職員は非常に優秀です。専門的な仕事を、しかも大量におこなう人たちなんですね。でも少し物足りないと感じるところもありました。自分の責任の中に閉じこもりがちで、そこを突破していく人は少ない。現業が多忙だからすぐにはできなくても、これから何を目指すのかということを考えてほしいと思いました」

――ご自身はどんなリーダーだと思いますか。

「私はスローガンを打ち出してみんなを引っ張っていくというタイプではない。むしろリーダーを支える役割の方が向いています。しかし館長となった今の自分は『問いを投げるリーダー』なのかなと思っています」

「外から来た私は国会図書館の中では異分子です。ただし図書館というものについてはよく知っているわけで、部局長クラスの人たちから見ると面倒くさい異分子でしょう。そういうトップがいろんな問いを組織の中に投げかける。『それは国会図書館の常識かもしれないけれど、ちょっと違うんじゃない?』と問う役割ですね」

「もちろん現場は様々なことを考え最善と思う結論を上げてくるわけで、上の立場の人はそれを簡単に『違う』と却下していいのかという自問は必要です。しかし組織の外の視点からその判断の当否を判断することも重要なのはいうまでもありません」

「国会図書館のように多くの人が専門的な業務に当たっている組織では、基本的に仕事は現場に任せるしかない。でも『ここは本当にこれでいいの?』と問うことはできる。それがリーダーのやるべき仕事なのではないかと私は思っています」

「強く主張する」より「同意してもらう」

――長年慶応大学に勤め、文学部長も経験されました。そのことが今の館長の職務に生きている面はありますか。

「大学とこことではあまりにも組織の性質が違うので、自分の過去の経験が生かせていると簡単には言えません。大学はある意味、社会に対して成果を売っている組織です。研究成果を社会に還元し、よい学生を育てて社会に送り出します。その点では成果主義というか、自らが立てた目標を達成すれば評価される。とても自由です」

「でも国会図書館は違います。立法府に属する機関ですから、何をするにもまず説明し、予算を認めてもらわなくては次につながらない。大学では予算のことなんて考えずにすみましたから、ここに来た当初は『これはどういう世界なんだ』と戸惑い、慣れるのに苦労しました」

――研究者として培った情報学の知見は図書館運営に反映していますか。

「私の専門は学術情報流通ですが、学術情報という面では国会図書館はまだまだだと私の目には映っています。周りの研究者は『倉田が行くのだから何かやるだろう』と思っていたようですが、これだけ大きな組織ですから一研究者の知見を生かすなど実際には難しい。むしろ私が強く主張することよりも、ここで働く職員たちに『たしかにそうだ』と同意してもらうことが大事です」

――国会図書館の目下最大の課題はなんですか。

「それはやはりデジタル化ですね。新型コロナウイルス禍は大きなきっかけでした。当時しっかりと補正予算を付けてもらったことで、2026年3月までに491万点の資料をデジタル化しました。当初は明治時代など近代の資料のデジタル化が先行しましたが、今は2000年ころの資料までが対象になったので一般の利用者へのインパクトが大きい。一時、利用者登録が2万人待ちという状態になり、業務が滞ってしまったことがありました」

「当館の役割は国内で刊行・公開された資料を次の世代に受け継ぐことです。私たちは今持っている資料を100年後に持って行く意識で仕事をしていますが、この『100年後』は比喩ではありません。本当に100年間保管しなくてはならないのです」

「『デジタル対応のために業務が滞った』と言いましたが、その事実が今の国会図書館の課題を象徴的に示しています。紙の本を大切にする一方で、デジタルという新しい情報環境に即した国会図書館の姿を模索せねばならない。守りつつ変わっていくという大変難しい課題に私たちは取り組んでいるのです」

(編集委員 干場達矢)

趣味は読書、漫画も大好き


1958年東京生まれ。81年慶大法学部を卒業後、大学院文学研究科に進み博士課程単位取得退学。同大文学部の教員となり、2001年教授。21年から文学部長を務めた。24年に退職し名誉教授。同年、国立国会図書館館長に。
専門は図書館情報学。著書に「学術情報流通とオープンアクセス」、編著に「電子メディアは研究を変えるのか」など。
執務時間はきっかり9時から5時45分までで、残業はしないと決めている。帰宅後は研究をしたり、原稿を執筆したりと夜も忙しい。趣味も読書で、最近読んで面白かったのは高田大介の「図書館の魔女」シリーズ。漫画も大好きで萩尾望都や大島弓子をリアルタイムで読んできた。「鬼滅の刃」のファンで原作漫画もアニメもしっかり履修済み。

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