自衛隊の中立性を揺るがし、国民の信頼を損ねる政治利用だ。
自民党大会で国歌斉唱が行われた際に、陸上自衛隊中央音楽隊のソプラノ歌手である3等陸曹が登壇していた。自衛官の政治的行為を制限する自衛隊法に抵触する疑いがある。
小泉進次郎防衛相は、3曹が私人の立場で参加しており、国歌を歌うこと自体は政治的行為に当たらないと釈明した。党総裁の高市早苗首相も「党への支援を呼びかけたわけではない」と述べ、問題はないとの認識を示した。
明らかに無理のある説明だ。3曹は政府式典などで用いられる特別な制服を着用しており、陸自所属であることも紹介された。上司も同席していた。自衛隊を代表する形での参加とみなされる可能性は高い。
自民の最高機関と位置付けられる党大会は、党勢拡大を図るための場である。首相は自衛隊明記などの憲法改正や「国論を二分する政策」の推進を訴えていた。自衛隊が組織として、特定の政党、しかも時の政権与党に肩入れしていると受け取られかねない。
憲法は公務員を国民全体への奉仕者と定め、国家公務員法は政治的行為を制限している。実力組織である自衛隊には一層厳格な中立性が求められ、自衛隊法で重ねて制約をかけられている。
にもかかわらず、安易に参加を認めた防衛省の対応は浅はかだと言うほかない。陸自ではトップの幕僚長まで事前に報告が上げられていたが、問題視されなかった。小泉氏には報告すらされず、防衛省の担当部局が了承していた。
自民の責任も重い。党大会の運営業者の提案に乗って招待し、業者経由で防衛省に可否を確認しただけだったという。文民統制(シビリアンコントロール)に関わる当事者としての意識が欠如しており、極めて不見識だ。
自衛隊の政治利用は過去にも問題化している。2017年の東京都議選では、当時の防衛相が自民の応援演説で「防衛省・自衛隊としてもお願いしたい」と発言した。
自衛隊に不信の目が向けられれば、厳しい安全保障環境に直面している現場の負担が増すことにつながる。政権は猛省し、再発防止を徹底すべきだ。