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【米国最新情報:66】危機に直面する米国の私立大学:25%の私立大学は経営不振で閉鎖を迫られている

ジャーナリスト
大学生活は青春時代の花である。マーチングバンドのリーダーが踊る中、ノースカロライナ州グリーンズボロで行われたホームカミングの祝賀行事。ノースカロライナ農工州立大学の学生たちがパレードを行った写真:ロイター/アフロ

2回連載の1回目

【目 次】(総字数:4000字)

■週1校のペースで大学は閉鎖/■在学生に深刻な影響/■最大の要因は学生数の減少/■経営危機は有名大学も例外ではない/■留学生の減少が経営悪化を加速/■需要と供給のだけの問題

■週1校のペースで大学は閉鎖

 現在、米国の多くの私立大学が危機に直面している。『The Hechinger Report』によると、全米にある1,700の4年制私立大学のうち442校が今後10年以内に閉校するか、統合されるリスクに直面しているという(2026年4月13日「More than a quarter of private colleges are at risk of closing, new projection shows」)。実に25%の私立大学が経営問題を抱えているのである。米国教育評議会の調査によれば、大学の学長の86%が自校の長期的な財政的な持続可能性に不安を抱いている。ある調査では、学長の5人に1人が他校との統合について真剣に議論した経験があると答えている。

 大学進学者数の長期的な減少が既に大学経営に深刻な影響を与えている。過去10年間で500校以上が閉鎖されている。大学に統合された数を勘案すれば、その数はさらに大きくなる。2022年から2024年の間だけで73校が閉校し、17校が他大学と統合している。『The Scholarly Kitchen』は「2024年の前半だけで、米国の大学が週に1校のペースで閉鎖されており、減速の兆しはほとんど見られない。ペンシルベニア州では、2024年1月以降だけでも、8つの大学が閉鎖・統合、またはその計画を発表している」と、状況の深刻さを報告している(2024年9月5日「College Closures and the Implications for Libraries and Vendors」)。マサチューセッツ州高等教育行政官協会は「昨年(2025年)は月に平均2校強が閉鎖または統合していたが、今年に入って平均で週に1校の大学が閉鎖または統合している」と、状況はさらに悪化していると発表している。

■在学生に深刻な影響

 『Washington Post』は大学閉鎖の学生に与える影響について報告している(2024年4月26日「Colleges are now closing at a pace of one a week. What happens to the students?」)。同記事は「4,000万人以上にのぼる人が、学費と時間を費やして大学に通いながらも卒業できていない」状況に置かれていると伝えている。さらに「閉鎖した大学の学生の多くは、最終的に学業を完全に断念してしまう。転校できたのは半数未満であり、さらにそのうち半数未満しか学位取得まで至らない」と、大学閉鎖が学生に深刻な影響を及ぼすと指摘している。

 同記事は、次のような例を報告している。ボストン近郊にあるニュー・ベリー大学の入学者数は過去20年で5,300人以上であったが、現在は約600人にまで減少している。学生数の減少で、郊外キャンパスと最寄りの公共交通機関の駅を結ぶシャトルバスが減便され、さらに学生数の減少を招いている。大学の関係者は「シャトルバスが来なくなって、大学が見捨てられたと感じるようになった」と述べている。そして最終的に同大学は閉鎖に追い込まれた。

 大学から一方的に閉鎖を告げられた学生は「本当に許せなかった。既に多くの金を教育に注ぎ込んでいたし、家族にも余裕はなかった。大学が閉鎖されたら、投資をどう未来に活かせばいいのか分からなかった」と語っている。「ある女子学生は、バージニア州のストラトフォード大学の看護プログラムで期末試験の勉強をしていたとき、大学は突然閉校すると発表した。学生は成績証明書を取得するために1か月の猶予が与えられたが、発表の翌日には電話とメールが停止した。その学生は『パニックになりました。何時間も泣きました』と語っている」と伝えている。彼女は取得した94単位を失い、3万ドルの学生ローンを抱えた。

 『The Hechinger Report』によれば、「多くの大学がほとんど予告もなく突然閉鎖され、その学生のうち転校して教育を継続できるのは半数未満に留まっている。転校した学生の多くは、追加的な授業料も支払った上に、既に取得した単位も転校先の大学で認められず、最終的に学位を取得できるのは半数にも満たない」と報告している。同報告は「米政府監査院の最新の包括的調査によれば、転校時に失われる単位は平均43%にのぼる」と、転校に成功しても、学生が大きな負担を負うと指摘している。

 影響を受けるのは学生だけではない。米国には「ユニバーシティ・タウン」や「カレッジ・タウン」が多い。大学を中心にコミュニティが形成されている。大学が閉鎖されると、学生が利用していた様々な店舗が影響を受け、雇用が失われる。さらに卒業生の多くがこの地域から去り、地域経済に大きな影響を与える。

■最大の要因は学生数の減少

 なぜ、こうした事態が起こっているのか。『The Hechinger Report』は、「大学が存続の危機に直面している背景には複数の要因が重なっている。既に学生数は2010年と比べて230万人減少している。同じ頃に始まった出生率の低下により、少なくとも2041年までは18歳人口がさらに減少していく見込みだ」と、学生数減少の理由を説明している。さらに「高校卒業生のうち大学へ進学する割合も低下しており、大学進学率は2016年の70%から2023年には61%まで下がっている。留学生に発給されるビザの数は今年(2026年)、約10万件、率にして36%も急減した」と指摘している。

 2008年のリーマンショック以降、高校生の大学進学率が低下している。長期にわたる不況で、大学の学位が授業料に見合わなくなっていることが背景にある。学生ローンを借りて大学に進学しても、卒業後の収入でローン返済ができない。完済するまで、長期間かかる。4年制大学に進学するよりも、専門学校や職業訓練学校、オンライン学習など代替的なルートを利用し、職に就く傾向が強まっている。大学がかつてほど魅力的でなくなっている。

 高等教育のコンサルティング会社EABは「これまで私立大学は入学者数の減少やコスト増に耐えてきたが、現在は主要な収入源と支出項目のすべてから圧力を受けている」と、厳しい状況を説明している。全米の私立大学のほぼ3分の1が、2024年に赤字を計上している。ある分析は、ニューイングランドの比較的小規模な44大学のうち3分の1以上が運営資金の枯渇に直面していると指摘している。

■経営危機は有名大学も例外ではない

 経営危機は無名の小さな私立大学に限らない。『The Hechinger Report』は、「南カリフォルニア大学は900人以上の従業員に解雇通知を出した。スタンフォード大学は少なくとも363人を解雇した。ノースウェスタン大学は425の教授のポストを削減した。デポール大学は114人の職員を解雇し、美術館を閉鎖した。その理由として、留学生の大学院生の大幅な減少と福利厚生費の急増、奨学金需要の増大が挙げている。ジョージ・ワシントン大学は今年3月にバージニア州にある科学技術のサテライトキャンパスを売却したと発表した。その売却額は4億2,700万ドルだった。ニューヨークのニュースクール大学は、職員数を20%削減すると発表した。ニュージャージー州のライダー大学は2月、キャンパスの5分の1を売却し、一部施設をリース・バックすることで財政危機を回避するために必要な約1,000万ドルを確保する合意に達した」と、影響はトップ大学にも及んでいると指摘している。

 危機は4年制大学に限らない。地方社会の基礎となる2年制のコミュニティ・カレッジも例外ではない。コミュニティ・カレッジには約560万人の学生が在籍しているが、財政基盤の弱いコミュニティ・カレッジは、変化に適応したり、対応する能力が弱まっている。コミュニティ・カレッジは日本の短大に相当し、4年制大学より授業料が安く、低所得層の子供たちや社会人学生が学んでいる。また優秀な学生には4年制大学に編入する機会もある。だが、コロナ禍で大幅に学生数が減少し、現在も学生数は回復しておらず、授業料収入の減少の直撃を受けている。ただコミュニティ・カレッジの75%から80%は、公的資金の援助を受けているので、今のところ経営危機は表面化していない。

■留学生の減少が経営悪化を加速

 1980年代、米国の私立大学は学生数の減少で経営危機に直面した。それを救ったのが、留学生の増加であった。だがトランプ政権は移民規制の一環として留学生に対するビザの発給を制限している。現在、約39か国を対象に留学生のビザの発給が停止されている。さらにビザの有効期限も短縮化されている。卒業後の就労ビザの発給も制限されるか、廃止される見通しである。こうした措置によって、米国は留学先として魅力がなくなりつつある。現在、私立大学の留学生の比率は5%から30%を占めている。授業料収入に占める割合は全体の10%から40%に達している。私立大学にとって、授業料を全額払ってくれる留学生はありがたい存在である。奨学金を準備する必要がなく、多くの留学生は卒業後、帰国するので、就職を斡旋する必要もない。大学院では留学生が学生の半分以上占めている私立大学が多い。留学生の減少は大学経営の悪化に直結する。

■需要と供給だけの問題か

 米国では、毎年、3,500億ドルから4,000億ドルの公的資金が大学に使われている。授業料収入は大学経費の30%から40%を占め、残りは公的資金や寄付による。トランプ政権は大学への補助金を削減する方針を明らかにしている。教育省も縮小し、廃止を提案している。こうした政策も、大学経営を悪化させている。政府の支援がなければ、多くの大学は存続できないのが実情である。

 米国の専門家は、大学の危機は「需要と供給の問題」であると指摘している。供給が需要を上回れば、解決策は供給を減らすしかない。閉校か統合である。現実問題として、そうした主張を批判するのは難しい。大学も事業体であり、収益を上げられなければ、市場から退席すべきである。ただ大学は事業法人とは違う使命を持っている。「市場原理」だけで説明すべきなのか。大学は研究機関なのか、教育機関なのか。知的教育の場か、就職訓練の場か。かつて大学は知的な創造の場所であった。しかし大学の大衆化で、そうした側面は希薄になっている。私立大学が利益動機に基づくものなら、どこまで公的資金を使うべきかという問題もある。大学閉鎖問題に対処するには、こうした問題に対する解答が必要だろう。

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ありがとうございます。
ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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