「自衛隊の歌姫事件」がどうしても森友学園とダブって見える人が知るべき事実
陸上自衛隊中央音楽隊の鶫真衣3等陸曹が自民党大会で国歌を歌唱した事件が波紋を広げ続けている。制服姿で特定の政党の集会に参加した行為が自衛隊法に違反するのではないかという指摘に対する、政府や自衛隊側の釈明はかなり無理があるものばかりだ。
SNS上では森友学園を連想するという声も増えてきた。
子どもに教育勅語を唱和させる時代錯誤の右翼教育を行う学校に国有地がタダ同然で払い下げられた件について、安倍首相夫妻の関与が指摘された疑惑だったが、安倍首相が「もし関わっていたら総理大臣も国会議員も辞める」とタンカを切ったのちに、つじつま合わせのために泥沼化したものだ。
今回も、小泉進次郎防衛大臣の無理筋な借名が当時の安倍氏と重なるほか、私人の鶫3等陸曹が勝手にやったことにされている。森友学園問題のとき、さんざん学園をほめそやしていた保守勢力が手のひら返しをし、責任がすべて籠池泰典理事長に負わされたことを籠池氏は「トカゲのしっぽ切り」と呼んだが、今度は彼女がしっぽのように切られそうになっているようにもみえる。
代表曲は「教育勅語」寄らば森友の歌姫たち
ただ構図が似ているだけではない。鶫陸曹と森友学園は同じ会場にいたことがある。以下の「防災フェス」におけるステージイベントの午前のプログラムには、当時1等陸士だった鶫陸曹と、森友学園の塚本幼稚園の名前が出ている。
共演こそしていないようだが、同じ舞台上にいたというのだから驚きだ。くしくも安倍昭恵首相夫人が塚本幼稚園で講演を繰り返していた時期のことだ。
大阪防衛協会50周年事業
— acorn St. (@Dongurido_ri) April 14, 2026
大阪防衛防災フェスティバル2015年
出演者
中部方面音楽隊
1等陸士鶫真衣
塚本幼稚園
山口采希
信太菊水太鼓https://t.co/jMN5XGgf37 pic.twitter.com/lWClyc7BfM
ここで気になるのがもう一人の歌姫の存在だ。それは山口采希氏だ。彼女は民間人のシンガーソングライターで、「愛国の歌姫」とか「軍歌の歌姫」と呼ばれている。
関西で発行部数が多いという産経新聞では、「山口采希」を何度も記事に取り上げている。若い美人のお姉さんが戦前の軍歌を歌うというギャップが話題を呼んだ。「教育勅語」を現代式にアレンジした歌が代表曲の人物で、彼女は塚本幼稚園の児童とホントに共演した経験もある。
産経新聞電子版を検索すると2014年7月19日の記事で初登場し、2015年あたりから頻繁に取り上げられている。陸上自衛隊とも多く共演していて、2017年には以下のように軍歌「愛国行進曲」を基地祭で歌唱している。
彼女は民間人であるから、何を歌っても問題はない。どんな思想を発信してもいいし、私的活動だろうがギャラをもらっていようが構わないわけだが、旧日本軍と決別して新憲法のもとで立ち上げた組織のはずの自衛隊が戦前の軍歌を肯定的に演奏するという行為をしていたころ、これが問題なのだ。
自衛隊の発足経緯や国家公務員という性質上、もともと自衛隊音楽隊は隊員個々人の思想はどうであれ右翼色とは距離を置いたし、おかなければいけなかった。
だが、音楽隊にいる「自衛隊の歌姫」と「軍歌の歌姫」が同時期に流行ったことで、ファン層のかぶっているそれぞれがいっしょくたになったいき、きづいたら今のような問題に至ったのではないかと推測ができる。
私は左翼みたいに「これらは軍国思想を広げるための浸透工作に違いない!」と変な陰謀論を主張するわけではないが、森友学園問題が保守勢力のルーズさがもたらした事件だったように、はじめは世間から遠い内輪でやっていたことが分別を失っていき、結果、自民党大会での歌唱に至ったと思うものだ。
ちなみに「軍歌の歌姫」の火付け役であった産経は、森友学園を最初に取り上げた主要マスコミでもあった。ただしそれは教育勅語を教える教育法を美化したもので、これも2015年の記事である。
この時期、森友学園には関西を中心とする保守論客・政治家が講演に訪れまくったが、鶴陸曹も、同じような保守論客の集まるイベントでよくゲストとして歌唱を行っている。保守派はムラをつくって凝り固まる傾向があるので、何かと似て見えるのである。
天皇のために死ぬ軍歌「海ゆかば」を平然と歌う自衛隊
2016年には鶴陸曹が制服姿で軍歌を歌唱した出来事があった。これも「産経」が好意的にイベント感覚で伝え、動画まで記録している。
制服を着て官職を明らかにして政治的な集会に参加し、軍歌「海ゆかば」を歌唱している。これは天皇の側で死ぬのなら後悔なんてないという歌詞の曲だ。
ただの軍歌の時点で公務員にふさわしくないが、天皇の私兵集団だった旧日本軍の象徴のようなものであり、現役の国家公務員が歌うだけでも大問題だったがいままで10年間、NHKや朝日新聞などがこの件を報じることはなかったのだ。
なので本件をこんなふうに「上官に利用されて仕方なくやっている」と推察する良識派論客の見解は誤りといえる。鶴陸曹は、いままで普通の曲目演奏ばかりしていて、たまたま自民党大会での歌唱を命じられた不運な自衛隊の音楽隊メンバーというわけではなく、もともと右派のステージにしょっちゅう出ていたのである。
この「海ゆかば」は鶴陸曹の持ち歌になっていて、去年には白山比咩神社(石川県)で、慰霊を込めての独唱をしている。
ここでは海上自衛隊もタッグを組んでいるが、余談ながら海自にも歌姫は存在する。三宅由佳莉2等海曹で、2011年に「ニコニコ動画」で話題になって、一部でカルト的な人気になった。
海の自衛官なので、当然「海ゆかば」は彼女も歌唱を行っていて2023年には東郷の杜音楽祭でアンコール歌唱を行っている。
その彼女は、2023年に「歴史通」という雑誌にも登場し、そこではあの森友学園問題でおなじみの安倍昭恵首相夫人と対談を行っている。それにしても、自衛隊公式アカウントが「狂韓国」なる記事を特集にするような雑誌に隊員を出演させ、その表紙を堂々と広報アカウントで流すという時点で相当タガが外れて見える。
そんな風に、陸上自衛隊に限らず海上自衛隊をも、政治・宗教と自身の活動の分別がついておらず、普通は近寄らないはずの右翼的空間と一体性を帯びているのが過去10年の流れである。
前回もふれたが、陸上自衛隊では、靖国神社の地方版である「護国神社」の宗教行事で海ゆかばを演奏したことだってある。ここまで、リベラルとされる朝日新聞や毎日新聞などもほとんど無視し続け、赤旗が玉に取り上げる程度でしかなかった結果、行きつくところまで行った感はある。
森友学園が大阪問題なら、自衛隊の歌姫は石川問題
以前、森友学園を追いかけてたリベラル系なら、森友が大阪問題であるということはよくお分かりだろう。
キー局ではほとんど起用されない大阪ローカルテレビ局の放送する右翼的なバラエティ番組の雛壇にいた保守論客がそこで講演を繰り返した。関与が疑惑された政治家は自民・維新の関西の保守系の政治家だった。
保守派の特徴として、特定の地域でつながりが強固になるというものがある。森友学園が大阪問題なら、鶫陸曹は石川問題である。彼女は2024年に石川県観光大使に就任している。
さらに鶫陸曹が白山比咩神社で「能登地震復旧への感謝」のためのコンサートを行い、地元のテレビ金沢が取り上げている。
このコンサート自体は政治色はなく美談ではあるし、彼女は制服姿ではない。しかし、現役の国家公務員が特定の宗教団体である神社本庁に帰属する神社で演奏を行うという行為は中立性を欠いている。それなのにこれが「アリ」としてスルーされた翌年、彼女はこの神社で軍歌の海ゆかばを歌ったのだ。
当たり前のことだが、石川県民の中には鳥居をくぐれないキリスト教徒や創価学会員もいる。戦前の軍国主義にアレルギー反応がある共産党員だって県民である。このコンサートではなぜか和服姿で讃美歌のアメージング・グレースを披露したそうだが、地上波の公共の電波であるテレビ金沢にはクリスチャンがどう思うかまで想像力を働かせる必要があったはずだ。
だが、無理もない。もともとテレビ金沢は護国神社で「大東亜聖戦祭」を県紙・北国新聞とともに後援した過去もある。ちなみに北国新聞は県内で絶大なシェアを誇り「産経より右」の論調で知られる。
右翼でも左翼でも偏った思想空間と公的空間を切り分けるとか、多様な宗教に配慮するというような発想は、いくら知事が小池百合子や石原慎太郎だったとしても東京では当たり前だが、地方ではそうでもなくなる。
「保守派が強い地方」では、保守の常識、保守のルールが優先され、ゾーニングがあいまいになってしまうということである。御存じの人もいるかもしれないが、メディアもそうなら、石川県は新人研修を靖国神社で行う飲食店や、田母神論文のビジネスホテルの本場でもあり、地元企業も右派である。
さらには「神の国」発言の森喜朗元首相のおひざ元で、自民党が日本で一番強い地域だ。全国であれほど自民系が惨敗した民主党政権発足時にも森元首相が当選し、震災でひどい経験をした能登の選挙区でも自民党が強い。
そして石川県は1963年から2022年までの60年間で県知事が3人しか変わっていないほど、長老保守政治家が強い特異な地域性を持つ。鶫陸曹を県の観光大使に選んだ当時の馳知事は、自民党員で維新の顧問でもあり、さらにいえば五輪汚職では森元首相とともに渦中の人となった。
自民党はそのような保守的な田舎のムラ社会のボスの集団であるから、そんなおじいさんたちが結集する党大会で彼女を呼んでも構わないというノリになるのは容易に想像がついてしまうのも事実であるのだ。
ちなみに田舎の保守派、石川県の政治の常識に興味がある人は五百旗頭幸男監督による「裸のムラ」の視聴をお勧めする。いい映画なので絶対に見てほしい。
マスメディアに求められる「点と点を線でつなぐ」こと
このように振り返ると、鶫陸曹が自民党大会で制服姿で国歌を歌ったという背後に、2010年代以降からの異様な流れがわかる。誰がどの場面に出てきたとか、そこには近い存在で誰がいたとか、それらは証拠がいくらでも残っている。
それも、公人本人のネット発信のほか、自衛隊のような公的機関の広報発信だったり、嘘をつきようがないYoutubeの動画などでだ。産経新聞やテレビ金沢のように好意的に何かを取り上げた報道だってある。
だがそれらが点でバラバラだった結果、中立性が求められる自衛隊がこんなに産経言論人系の右翼政治や、日本会議・神社本庁系の右翼宗教と一体化していたことが、一切世間のそに気づかれなかったのだ。
マスメディアにはあらためて、その点と点を「線」としてつなぐ役割が求められる。幸いにも陰謀論者の空想ではない確かなファクトはいくらでもネット上に転がっている。それでも足りない部分を知るために、記者会見や取材という行為があるのではないか。
しかし現実には、鶫陸曹が右派思想の政治的な集会で制服姿で軍歌を歌った件は10年誰も問題視しなかったし、近年起きた自衛隊のおかしな事例も1つ1つを報じこそすれ、その地下茎までたどって深層まで探ろうとせず、ただただ単品の話題として切断処理し続けてきた。
これらはみな第二次安倍政権以降10年ちょっとで一気に進んだ「自衛隊の右翼化」という大きな流れの中で発露した事例ではないのか。そんな昔ではない2009年には、在特会らが防衛大学の五百籏頭眞校長(当時)の「反日・媚中」に抗議する街宣行動をやっていたくらい、自衛隊と右派は大きな隔たりがあったのだ。それがこうなるまではあっという間のことだった。(なお、眞氏は奇遇にも先にふれた幸男監督の叔父にあたる)
その間、せめてまともなマスメディアが、仕事をちゃんとしていれば、自衛隊はここまでおかしくならなかっただろうし、極端な話、森友学園問題で人が死ぬ自体も防げたんじゃないか。ネットで「歌姫の追っかけ」が撮影しているYoutubeや日本会議・在特会の政治活動家の当時のブログや活動記録あたりを検索すれば一瞬でわかる程度の事実さえ報じないのである。
今回の自民党大会も、NHKでさえ昭和の歌手の替え歌演奏を面白おかしく映像付きで報じた翌日、ネットの炎上があってはじめて主要マスコミは伝えた。現場に取材に訪れ、国歌を聴いて撮影した記者たちがいたのに、その問題に気付かなかったのだ。
今回の歌姫問題が泥沼化しないためにも、朝日新聞やNHKがその大組織の取材力をフルに発揮して、しかるべき立場のトップの首をとりにいかなければいけないだろう。


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