アンチエイジング論文は解釈慎重に 東大の成果を阪大・京大など検証

瀬川茂子

 薬で老化による臓器の機能不全を改善するなどしたという東京大グループの論文について、大阪大や京都大、熊本大などの共同チームが検証したところ、論文を支持する結果が得られなかったと発表した。論文の結果をすべて否定するものではないが、慎重な解釈が必要だとしている。

 チームが検証したのは、東大医科学研究所の中西真・特任教授らが報告した「老化細胞除去剤」。加齢にともなって蓄積する老化細胞を除く効果があり、世界中で開発競争がくり広げられている。

 中西さんらは2021年、米科学誌サイエンスに「GLS1阻害薬」という薬をマウスに投与すると、さまざまな組織・臓器の老化細胞を除去できたと発表した(https://doi.org/10.1126/science.abb5916別ウインドウで開きます)。また病気のマウスでは、肥満性糖尿病、動脈硬化症、非アルコール性脂肪肝の症状を改善できたという。

 22年には英科学誌ネイチャーに、抗がん剤として使われている「抗PD―1抗体」に、老化細胞を除き、生活習慣病を改善する効果があると発表した(https://doi.org/10.1038/s41586-022-05388-4別ウインドウで開きます)。

 一方、大阪大の原英二教授らは長年、老化細胞を研究し、世界中で報告されてきたさまざまな老化細胞除去剤を比較していた。東大グループが報告した2剤も試したが、効果をはっきり確認できなかった。

 原さんは、社会的に関心の高い抗老化(アンチエイジング)分野でもあり、効果は慎重に確認する必要があると考え、複数の研究機関によるチームで検証することにした。

 熊本大、がん研究会がん研究所、京都大、国立長寿医療研究センター、国立循環器病研究センターの研究者と厳密な実験計画をたてた。

 たとえば、細胞を使う実験は3機関でそれぞれ独立して進める。マウス実験は連携するが、先入観などによる偏りがでないように、マウスに薬を与えた研究者は、臓器を取り出して、比較のため薬を与えなかったマウスの臓器とともに、どちらかわからないようにして、解析を担当する別の研究者に送った。

 老化細胞は、P16という遺伝子を指標とした。老化研究で広く用いられている。薬を投与した後、臓器でP16の発現が減っていれば、老化細胞が除かれた証拠とした。2剤それぞれを投与したマウスの肝臓、肺、腎臓で調べたが、P16の低下を確認できなかったという。

 論文は、国際専門誌EMBOリポーツ(https://doi.org/10.1038/s44319-026-00740-5別ウインドウで開きます)に掲載された。

 結果は発表前に中西さんらに送られ、P16の解析方法が違うといった反論(https://doi.org/10.1038/s44319-026-00752-1別ウインドウで開きます)も同時に発表された。

 「違った解析で違うものを見ているので、再現できないという議論はできないのでは」と中西さんは話している。

 社会の関心が高いテーマでは、異なる機関による検証は重要だ。

 たとえば、23年、米コロンビア大などのグループが年齢とともに血液中の栄養素のタウリン濃度が下がること、タウリン補充で加齢プロセスを遅らせ、健康促進の可能性があると米科学誌サイエンスで報告した。

 しかし、この結果を受けた米国立加齢研究所などのチームが、人、サル、マウスの包括的な研究を行い、タウリン濃度は年齢とともに低下するわけではなく、個人差のばらつきが大きいと25年に報告した。

 結果の違いを詳細に検討することで、新たな発見につながることもある。

 米国でカロリーの制限で寿命が延びるか、サルで調べた実験は効果ありと、なしの結果が対立していた。なしとされた結果を、実験開始時の年齢を若年(1~14歳)と中高年(16~23歳)に分けて改めて解析すると、若年は効果なし、中高年は効果がみられたという。

 検証には、費用も時間もかかる。否定的な結果は研究者の業績になりにくく、公表されないことも多い。原さんは言う。

 「薬剤の効果の解釈には慎重さが必要だ。(人に使う)臨床応用に向けては、より再現性の高い厳密な検証が必要なことを示唆している」

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この記事を書いた人
瀬川茂子
くらし科学医療部|大阪駐在
専門・関心分野
生命科学、災害、科学全般
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    鳥海不二夫
    (東京大学大学院教授=計算社会科学)
    2026年4月17日8時0分 投稿
    【解説】

    科学論文は、掲載された時点でただちに正しいと確定するものではなく、その後のさまざまな検証を経て知見として確立されていくものです。その意味でも、再現できなかったという報告があり、それに対して反論がなされるというのは、極めて健全な科学のあり方と言えるのではないでしょうか。 また、このような科学の側面が新聞で取り上げられることも重要であると感じます。科学論文は完全無欠なものではなく、多くの研究者の積み重ねによって、少しずつ確かな知識へと近づいていく慎重なプロセスの中で成り立っています。こうした点を知ってもらうことは、科学への理解を深めるうえでも意義のあることだと思います。

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