今年の2月、株式会社jig.jpが、ARグラスブランド「SABERA(サベラ)」の始動を発表。福井県鯖江市の老舗眼鏡メーカーのボストンクラブ、光学技術の開発企業Cellid株式会社とタッグを組み、日本発のスマート眼鏡ブランドとして開発に着手したという……。
このニュースは当時、大きな話題を呼んだ。それまでグラス型デバイスの開発といえば、北米や中国が先行しており、特にAI搭載のスマートグラス(AIグラス)に関しては、国内で開発を進めているといった声が非常に少なかったからだ。遂に、日本産のグラス型デバイスが登場するかもしれない……そのように期待を持ったユーザーも少なくなかったはずだ。
そして、4月17日「SABERA スマート眼鏡」が発表された。クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で先行発売される予定だ。販売価格は、定価税込9万2,400円。まずは国内中心に販売を展開していくという。
この「SABERA スマート眼鏡」とは一体どのようなデバイスなのか? MoguraVR編集部では、jig.jp本社で製品のプロトタイプ版を先行体験。さらに、このデバイスの開発コンセプトや狙いについて、jig.jp取締役CFO・田中雄一郎氏、jig.jp開発2部スマート眼鏡事業開発責任者・渡邊隆文氏に詳しい話を聞いた。
きっかけは地元・鯖江の縁 暮らしを豊かにするために必要なデバイスを求めて
本題に入る前に、そもそも今回の企画を主導しているjig.jp社とは一体どのような会社なのか、補足が必要だろう。jig.jp社は、福井県鯖江市に本店を構えるモバイル向けアプリの開発企業だ。これまで、ライブ配信プラットフォーム「ふわっち」をはじめ、VTuber事業や子ども向けプログラム教育サービスの提供など、主にソフトウェアの開発・運営に注力してきた。そこには「利用者に最も近いソフトウェアを提供し、より豊かな社会を実現する」という企業理念があり、その方針のもと新たなサービスを模索し続けてきたという。
その理念を実現するために取り組んだのが、この「SABERA」というブランドの立ち上げだったそうだ。
田中:「今回の企画の発端には、創業の地である地元・鯖江に貢献できるような事業をいつか実現したいという想いがありました。弊社は東京を本社としながら、2003年創業時より鯖江に本店を構え『人々の生活や社会をより豊かにしていきたい』という企業ミッションを掲げて、様々なサービスを開発・提供してきました。その企業ミッションに沿うようなかたちでの鯖江にゆかりのある事業や地元への還元というアイデアを以前から考えてきたなかで、偶然Cellidさんと知り合う機会に巡り合い、ARグラス開発の話をお聞きするうちに、弊社と元々繋がりのあった鯖江市の眼鏡メーカーのボストンクラブさんとも一緒に協力していけば『暮らしを豊かにするような眼鏡』の開発が出来るのではないかと考えました」
「SABERA」というブランド名は、眼鏡の生産地として知られる鯖江の「Sabae」と、時代を意味する「Era」を組み合わせた造語だ。そこには、日常的に使えるARグラスを実現し、日本から発信していきたいとの想いがあったそうだ。
なお、話に出てきたCellidは、ARグラス用のディスプレイや光学系技術を提供している日本の企業で、特にウェイブガイド(ARグラス用レンズ)の開発分野で注目を集めている。ボストンクラブは鯖江の名産品である「眼鏡」の老舗メーカーで、そのデザイン性の高さが人気を集めている。ソフトウェア開発のJig.jp、レンズ開発のCellid、眼鏡フレーム製作のボストンクラブ、国内企業3社がそろったことで「SABERA」のブランド立ち上げは可能となったのだ。現在は、東京と鯖江を行き来しながらの開発体制を継続しているという。
そして、2026年のこのタイミングでの発表になったことにも理由がある。
田中:「ただ勝ち筋なく挑戦するというよりは、今のスマートグラス市場の現状を踏まえると、我々が日本の第1号としてうまくやっていけるのではないかと思い、(ブランドの立ち上げを)決断しました。そもそも、当時から現在までの市場をみても、日本でスマートグラスを日常使用しているユーザーはほとんどおらず、競合メーカーと競い合うフェーズではありません。むしろ、競合メーカーと一緒に市場をつくっていくことが重要なフェーズだろうと思っています。そんな状況のなかで、差別化をしっかりやっていけば、プロダクトは着実に広がっていくだろうと考えていました。本格始動したのは、2025年の12月でしたね。経営メンバーで議論していくなかで『今ならいける』という確信が深まっていきました」
現状、日本市場ではEven Realitiesの「Even G2」や、Rokiの「Rokid Glasses」などのAIグラスが展開を開始したばかり。北米をはじめ世界中で驚異的な売上を記録しているMetaの「Ray-Ban Meta」は、日本での展開に出遅れている状況だ。そんな中であれば、国産のAIグラスに興味を抱くユーザーは確実に出てくる。本格事業化する以前からコンセプトを着実に固め、タイミングが出てくればすぐに実現に掛かる。そのようなところにも、jig.jpの企業文化がうかがえる。
田中: 「弊社の企業文化として「新しい技術が出たらすぐに試してみる」というのがありますね。実際、2年ほど前に、Apple Vision Proが発表された際も、すぐにアプリ開発に着手しました。 先端技術に触れられる環境になっており、グラス型デバイスという新しいプロダクトに触れることに、弊社のエンジニアもやりがいを感じて楽しく取り組んでいる印象ですね」
キーワードは「日常使い」普通の眼鏡としての完成度を高める
あらためて新製品「SABERA スマート眼鏡」を見ていこう。気になるのは、その外観。正直に言えば「普通の眼鏡」だ。フレームのテンプル(つる)の部分の膨らんだ形状こそ、一般的な眼鏡とは異なるかもしれないが、それ以外は一般的な眼鏡とほぼ変わらない。
装着しても重さや装着感に違和感は感じられない。多少大きめのフレームの眼鏡と言えるだろう。スピーカーやカメラといった機能は無し。物理ボタンも無く、ツルの部分をタップする操作が基本となっている。
このデザインにも、確固たるコンセプトがある。キーワードは「日常使い」だ。
田中:「普通の眼鏡としてのオシャレさ、見た目の良さは重視しました。そうしなければ、誰も日常ではかけてくれなくなってしまうので。また、誰もが使いやすい設計にすることも重要ですので、見た目と機能性のバランスについてはかなり議論しましたね。第一号としては、男女とも使えるデザインに決定しました。この部分に関しては、ボストンクラブさんのお力が全てというかたちで、あとはCellidさんのウェイブガイド技術を搭載できるように調整していただきました」
商品名を「スマートグラス」や「AIグラス」ではなく、「スマート眼鏡」としたのも、一般のユーザーでもコンセプトが分かりやすいことを狙っているそうだ。
眼鏡の軽量感・日常使いのためのこだわり
今回の「SABERA スマート眼鏡」は、緑色の文字や記号を眼鏡のレンズの片方に表示するAIグラスだ。写真や動画の映像表示ではなく、最低限の文字情報のみを表示するタイプで、近年AIグラスの形式としてよく見られるようになったものだ。このスタイルを選択したのも、日常での使い勝手を良くすることを優先した結果だという。
デバイスの基本スペックは下記のとおりだ。
| 光学系 | ウェイブガイド(プラスチック) |
| カラー | 単色(緑色) |
| 表示 | 片目 |
| 視野角 | 30度 |
| 重さ | 40g(見込み) |
| 解像度 | 640×480 |
| 搭載AI | Gemini+自社開発AI(切替可能) |
| 視度調整 | 別途、矯正レンズを追加 |
注目すべきは文字情報を表示するウェイブガイド技術だ。従来のグラス型のデバイスでは、この部分の素材にガラスが採用されることが多かったが、Cellidの提供したのは、プラスチック製である。Cellid担当者の方の話によれば、そもそもウェイブガイドは、映像の光を屈折させながらロスなく反射させる技術だが、ガラスを採用すると、その屈曲のためにレンズの厚さがある程度必要になってしまい、極限まで薄くすることが難しくなるそうだ。その点、Cellid考案の技術であれば、プラスチックでさらに薄いレンズが実現可能になる。またプラスチックはガラスに比べると破損などによる影響が小さく、安全性が高い。さらに、外側から見た際の光の反射も分かりにくいという利点がある。
また、ディスプレイを片目のみにしたのも理由がある。
田中:「ひとつはコスト面です。今回の眼鏡を多くの人に手に取っていただくうえで、買いやすい価格帯に押さえたいという意図があり、今回は片目のみを採用しました。また、両目表示では目が文字情報にピントをダイレクトに合わせてしまうため、例えば移動中などに注意がデジタル情報の表示の方に向いてしまいます。片目であれば、視界の邪魔にならず、安心安全に使うことができます。あくまで日常に寄り添うデバイスとして設計しているので、情報は補助的に見える程度で良いというかたちにしています」
デバイスの中に何を追加し、何を追加しないか、その選択には非常に苦労したそうだ。その中でSABERAが優先としたのは、軽量感と日常使いのしやすさだ。そこにも、このデバイスの設計哲学が垣間見える。
日常で使いやすい機能を中心に搭載。ユーザーの需要に合わせたアップデートを目指す
「SABERA スマート眼鏡」を使うと何ができるか? 主な機能は下記の通りだ。
- 通知機能(メール・SNS・カレンダー等とスマートフォン連携)
- リアルタイム翻訳機能
- テレプロンプト機能(原稿表示機能)
- AI アシスタント機能(生成AIによる情報支援)
- ナビゲーション機能(地図機能)
- 議事録機能(音声をテキスト化して表示・要約する機能)
注目したいのは、映像コンテンツやゲームなどの没入感を高めるような機能は無く、文字情報の掲載のみで完結するような必要最低限の機能に絞られている点だ。内蔵マイクで音声こそ取り込むものの、それ以外の入力機能が無いため、スマホやPCのようにずっと操作し続けるデバイスではない。あくまで、日常生活の補助として使う機能のみに特化している。
今回、残念ながらプロトタイプ版のため、デバイスのAI機能を実際に試すことはできなかった。AIにはGoogleの「Gemini」を採用しているとのことだが、実際の使い心地については発売後にあらためて検証したい。そのうえで、アプリ開発のコンセプトについて、渡邊氏に話を聞いた。
渡邊:「『SABERA スマート眼鏡』は、普段のメガネにとって代われるような存在を目指した設計となっています。つまり普段からずっと装着しつけられるようなもので無ければなりません。そのため極力、日常生活にあれば使いやすい機能のみを取り入れています」
客観的にみても「SABERA」というブランドの立ち上げから開発までの期間は非常に短い。そのなかで、コンセプトから具体的な機能の実装まで高速で実現できたのは、これまでjig.jpが様々な領域でのソフトウェア開発を続けてきた経験と、実際にかたちにできる技術力の高さがあったからだという。
渡邊: 「弊社のなかでも、開発メンバーだけではなくデザイナーの方や企業の方など、チーム全員で実際にデバイスを試してみて『こういう機能があると良さそう』や『こうすればもっと使いやすいよね』といったコミュニケーションをとりつつ、日常で使いやすい機能へ落とし込んでいくことに注力してきました。」
もちろん、機能に関しては上記のものが全てではない。今回実施されるクラウドファンディングで様々なユーザーの方に触れてもらう機会を設け、そこからの意見を踏まえて順次機能を実装していく予定だという。
田中: 「正直、スマートグラスという分野自体がまだ黎明期のため、どのような機能が正解なのかはまだ分からない状況です。だからこそクラウドファンディングをきっかけに、ユーザーの方々から意見を踏まえてアップデートしていきたいと考えています。公開後にアップデートで使いやすさを向上していけるところがソフトウェアの強みだと思うので、当初の機能から変わって、より良くなる、使いやすくなるようにしていきたいところです」
目指すは、スマートフォンの次のデバイスになること
(クラウドファンディングで数量限定でオプション販売されるサングラスアタッチメント)
「SABERA スマート眼鏡」のクラウドファンディングは4月20日からMakuakeで開始される。まずは、最新ガジェットに興味のあるユーザー層に触れてもらい、その後、ポップアップショップや展示会などを展開しながら、普段から眼鏡をかけていないユーザーにも気軽に体験できる機会を設けていく予定だ。
田中:「目指しているのは、スマートフォンの次のデバイスの位置付けになることですね。情報を取得するものが携帯電話から眼鏡へと移り変わり、誰もが持つのが当たり前になっている状態が最終ゴールだと思います。そのなかで、まずは一般の方に触れてもらう機会を増やしていき、ビジネス層にも興味を持ってもらうような施策も広げていきたいと考えています」
また「SABERA」は、今後の第一作リリース後も様々なバージョンのプロダクトを提供していくことに意欲的だ。たしかにボストンクラブのデザインする様々なバリエーションのスマート眼鏡が手に入るようになれば、興味を強く持つユーザーも増えていくだろう。
田中: 「まだ正解の見えない領域ではありますし、技術的な課題もありますが、ユーザーの需要に合わせて様々なバリエーションを展開していきたいと思っています。例えば、両目でのディスプレイ表示や、複数カラーでの文字表示、カメラ機能の追加など、機能を拡張していったり、スペックを最大限に生かせるような改善をしたりと、出来ることは実現していきたいですね」
国内企業から登場した「SABERA スマート眼鏡」が、日本ユーザーにとって身近な存在のデバイスになっていくのは間違いない。今後ユーザーにどのような体験をもたらして、暮らしや社会を変えていくのか、注目していきたいところだ。
クラウドファンディング情報
| 製品名 | SABERA スマート眼鏡 |
| 販売価格 | 通常価格 SABERA スマート眼鏡+クリップオン式サングラス:99,990円 SABERA スマート眼鏡:92,400円超早割価格 SABERA スマート眼鏡+クリップオン式サングラス:70,990円 SABERA スマート眼鏡:64,990円 |
| Makuake HP | https://www.makuake.com/project/sabera_smartglass/ |
| 販売期間 | 2026年4月20日(月)11時 ~ 6月29日(火)22時 |