比鷺の濡れた睫毛の震えを、夜帳は見つめていた。わずかに跳ねるその繊細な刻みは、萬燈夜帳という絶対的な盤面に組み敷かれているという、逃れようのない事実に対する、比鷺の魂の震えそのものだ。
かつては剣のように鋭かったその眼差しが、今はただ、夜帳という存在に侵食されることを、深い悦楽とともに受け入れている。 夜帳は、その震える端を親指の腹でそっとなぞった。指先に伝わる湿り気と、微かな熱。
この男が、抱かれることを拒絶していた過去を、夜帳はあえて手放さない。峻拒(しゅんきょ)していた男が、今や無防備な鳴き声を上げ、悦楽に涙を溢れさせている。その劇的な変貌を慈しみ、愛でることこそが、夜帳にとっての責務だった。
comment
0ログインするとコメントが投稿できるようになります