高市早苗首相らが参加して開かれた自民党大会で現職自衛官が登壇し、君が代を斉唱した。自衛隊法が隊員の政治的行為を厳しく制限しているにもかかわらず、政治的中立の原則を逸脱しかねない由々しき問題である。 戦後の安全保障政策が大きな転換点を迎える中、関係者に慣れやおごりがなかったと言えるだろうか。
高市早苗首相らが参加して開かれた自民党大会で現職自衛官が登壇し、君が代を斉唱した。自衛隊法が隊員の政治的行為を厳しく制限しているにもかかわらず、政治的中立の原則を逸脱しかねない由々しき問題である。
戦後の安全保障政策が大きな転換点を迎える中、関係者に慣れやおごりがなかったと言えるだろうか。首相をはじめ党幹部や防衛省側は法的に問題ないとの立場だが、政治利用の疑念が拭えない。自衛隊法の規定は、戦前に政治と軍部が結びつき、国を戦争に導いた反省から生まれた。民主主義の基盤となる文民統制の仕組みを守るためでもある。政治と、実力組織である自衛隊との距離感を間違えてはならない。
音大出のソプラノ歌手である隊員は、陸上自衛隊中央音楽隊に所属する3等陸曹。大会当日は演奏服と呼ばれる制服を着用し、司会から「2014年に陸自で初めてとなる声楽要員として入隊した」などと紹介された。
首相は記者団に、陸曹が特定政党への支援を呼びかけたわけではなく、職務ではなく私人として歌唱したと語り、自衛隊法違反には当たらないと説明した。問題のすり替えと言わざるを得ない。問われているのは政権党の公式行事に、海外では軍人とみなされる自衛官が制服姿で出席した事実である。その不自然さは、例えば野党の党大会に自衛官が制服姿で登場するかどうかに置き換えてみれば明らかだ。
党大会では、憲法9条への自衛隊明記も視野に、改憲原案の国会提出を目指す運動方針を採択。高市政権は防衛費増や装備品の輸出拡大など防衛力強化の方針を推進している。自衛官の出席は、強化策の見返りに党勢拡大へ協力したと勘繰られても仕方がないだろう。現在、衆院で審議中の「国家情報会議」創設法案に関し、新設される国家情報局が政治的中立を保てるかどうかに野党が懸念を示している。権力を握る側が、自衛隊を含む行政機構を恣意(しい)的に政治利用することは厳に慎まなければならない。
首相は会場に着くまで自衛官が出席することは知らなかったとも述べた。事実としても、党総裁で自衛隊の最高指揮官として監督責任は免れない。首相以外の党幹部は式次第を見て、誰も違和感を持たなかったのだろうか。与党として国政を預かる自覚を欠いていたとしか言いようがない。
首相のコメント後、木原稔官房長官は、法に抵触しないとの見解を繰り返した上で「政治的に誤解を招くことがないかは別問題で、その点はしっかりと反省すべきだ」と軌道修正した。事態収拾を急ぐ狙いとみられる。
木原氏は、自衛官出席を巡り、党大会のイベント会社が防衛省に問い合わせたところ法に違反しないとの回答を得たため出演に至ったと説明、省内の報告に問題があるとの認識を示した。小泉進次郎防衛相も事前に自身への報告はなかったと述べた。であれば防衛省・自衛隊の連絡体制を検証し、国会などで改善策を明示すべきだ。業者任せの党大会運営も不適切だった可能性が否めない。
自衛隊を巡っては、3月に現職隊員による在日中国大使館侵入事件が起きたばかりだ。防衛相のコメントが発生3日後まで遅れた経緯がある。災害救助などを通じ、国民が自衛隊に抱く信頼を裏切らないよう組織のガバナンスを高めてほしい。(共同通信・須佐美文孝)




