コラム・寄稿

たどり着けない生活保護 記者が感じた、あふれる誤解や中傷の弊害

永田豊隆

 それほど苦しかったのに、生活保護の利用は考えなかったのですか?

 私がそう問いかけると、男性(53)は「生活保護って、貯金も年金もないお年寄りが受けるもんだと思っていた」と答えた。

 男性は2021年、統合失調症の診断を受けたが、医療費を支払えずに治療が中断。23年には生活保護利用へのハードルとなる住宅ローン付き持ち家を処分したが、「まだ50代の自分には受けられない」と思い込んだ。

 実際には年齢は問われないし、現実的にも生活保護以外にくらしを立て直せる方法はなさそうだった。男性は1年3カ月ほど幻聴や不眠に苦しみ、最終的に生活保護を申請した時には借金が約300万円まで増えていた。

 こんなやりきれないケースをどれほど見てきただろう。

 生活保護ほど誤解や中傷にさらされている制度はない。「親族がいると無理」「年金があるとダメ」「ほとんどが不正受給」「ギャンブルに使う人が多い」。最近ではSNSの影響で、「外国人が優遇されている」というデマも拡散された。

 こうした「世間の声」を、生活困窮者は内面化しがちだ。「生活保護だけは嫌」と負のイメージを強めて、「自力で何とかしなければ」と過剰な自助努力を重ねる。

 その結果、病状を悪化させる人もいれば、借金を増やす人もいる。性風俗店で働かざるを得なくなった女性もいた。自信や尊厳を奪われ、自死に追い込まれる人もいるだろう。

 生活保護ですべてが解決するなどと言うつもりはない。物価高に対応できていない今の保護費では、生活は相当に厳しい。しかし、国の統計では生活保護基準以下の低所得世帯のうち制度を利用しているのは推計2割程度。つまり、現実にはそこにすらたどり着けない人がほとんどだ。

 誤解やデマが流され続けるこの社会で、制度利用にたどり着けなかった人に罪はない。国や自治体は権利としての利用をもっと呼び掛けてほしい。

      ◇

 ながた・とよたか 岡山総局を経て、2005年から大阪本社で勤務。「生きのびるための生活保護」をデジタル版で連載中。

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この記事を書いた人
永田豊隆
ネットワーク報道本部|大阪駐在
専門・関心分野
貧困問題、社会保障、精神科医療、依存症
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    鈴木江理子
    (国士舘大学教授=移民政策)
    2026年4月18日7時17分 投稿
    【視点】

    生活保護は憲法第25条に規定された生存権を保障するためのものであり、必要とする人間が受給することは「権利」であるはずだ。  けれども、残念ながら、権利の行使を妨げる誤解やデマが浸透し、生活保護受給者に対する言われなきバッシングが横行している。受給することに対するスティグマや不正受給を防ぐための水際作戦によって、生活保護を受給できていない人も少なくない。  記事にあるとおり、「国や自治体が権利としての利用」を積極的に呼びかけることに加えて、学校教育においても、生活保護をはじめとする権利について学ぶ機会が必要ではないかと強く思う。  それは、自らが権利を行使するためだけでなく、他者の権利を尊重することの重要性を理解する機会となるはずである。

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