(インタビュー)旧統一教会問題への不作為 宗教社会学者・桜井義秀さん

 高額献金や霊感商法の問題が長年、指摘されてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に東京高裁が3月、解散を命じた。教団について約40年、研究してきた宗教社会学者の桜井義秀さんは、行政や捜査機関などがすべきことをしなかった「不作為」を指摘している。社会は何を見過ごしていたのだろう。

 ――旧統一教会の問題は長い間、指摘されてきたものの、安倍晋三元首相の銃撃事件まで、目立った対策がとられてきませんでした。

 「1980年代からカルト宗教を研究してきましたが、宗教界を中心に、ほとんどの人はこのテーマに関わりたくないと思っています。カルトがもつ独善性や、自由を奪い規律で人を縛る仕組みなどは、宗教自体の特徴と通じるところもあり、宗教の負の面を見たくない、ということなのかもしれません」

 「2010年に旧統一教会の研究書を出版した時も、社会的インパクトはほとんどなかった。その一方で私は、調査対象とした教団からネットでの誹謗(ひぼう)中傷を受け、訴訟のリスクを常に抱えてきました」

     ■      ■

 ――それでもなぜ、研究を続けてきたのでしょうか。

 「私自身が還暦で出家した日蓮宗僧侶であり、主体的な宗教研究への思いがあるからです。北海道大学ではカルト問題の相談を三十数年間、続けてきました。困っている学生や保護者がいれば、見捨てることはできません。元首相銃撃事件の後、自分の研究が社会の参考に少なからずなった、という実感はあります」

 「日本は『現状維持』をしたがる社会です。自ら変えようとする動きはあまり見られません。旧統一教会の問題とは、信者やその家族ら、一般市民の人権が守られていなかったということです。霊感商法や高額献金の問題が広く知られていたにもかかわらず、自民党の議員たちは選挙で教団を利用していました。メディアはその実態を報じず、国民もこうした政治家を支持してきました。教団が社会的に認められてしまうという絶望、危機感が背景にあったのが安倍元首相の銃撃事件でした」

 ――東京高裁が3月、教団に解散命令を出し、教団側は最高裁に不服を申し立てています。

 「献金、勧誘、布教行為は信教の自由に基づくという前提がある中で、今回の決定は、信者の財産、家族への影響などから見ても、社会的相当性に照らし悪質で組織的な不法行為であると、明確に打ち出しています。非常に評価できますが、遅きに失した感は否めません」

 「09年に教団が『コンプライアンス宣言』したきっかけは、信者たちが印章などを売りつけた事件でした。なぜ当時、捜査機関がもっと踏み込まなかったのでしょう」

 「今回の解散命令に先立って、文部科学省は教団に質問権を行使し、解散命令を請求しましたが、質問権の行使についてはもっと前にできたのではないでしょうか。私は20年以上前から文科省主催の宗教法人対象の研修会において教団の問題性を指摘していました」

 「もちろん、戦前・戦中にあった宗教統制や弾圧の歴史を顧みれば、宗教に国が安易に介入すべきではないし、管理も実質的にできません」

 「ただ、国が宗教団体を宗教法人として認証するということは、非課税という、いわば特権を与えて公益法人として認めることです。そうである以上、法人が宗教活動に専心し、公益活動も行うという宗教法人本来の認証目的にかなっているのかどうか、これをチェックするという意味での質問権行使は、所轄庁として当然すべきことだったと考えています」

 「知っているけど、何もしない――。こうした『不作為』の深刻さを明らかにしたのが、元首相銃撃事件だったと思うのです」

 ――銃撃事件の地裁判決も1月にありました。山上徹也被告の母親は教団の信者で、事件を機に「宗教2世」の問題に関心が集まりました。

 「宗教2世の問題が一定程度認識された一方で、宗教被害の問題が理解されたとはいえません。判決では、自由意思や規範意識をもっている個人を前提にしますが、宗教2世は成育期における『宗教虐待』の影響を青年期以降も受け続け、自由な意思決定や世間常識すら奪われているケースが多いのが現実です」

 「これまで複数の教団の宗教2世を調査してきましたが、宗教を背景にした子どもへの虐待には、信教の自由を理由に周囲が介入をためらいやすく、本人も困りごとを誰にも話せず孤立しやすい。また、虐待を受けた子どもは、信仰を継がなくても、親の認知的な偏りや教団の世界観の影響を受けやすい傾向も見られました」

 ――山上被告を拘置所に訪ねて10時間以上面会を重ね、裁判には弁護側の証人として出廷されました。検察側の求刑通りの無期懲役の判決を、どう受け止めましたか。

 「人の命を奪うことは、絶対に許されません。他方で、判決の内容は、無期懲役という量刑の重さに比して、論拠が浅いと感じました」

 「山上被告は、母の献金や信仰に強く反対する祖父や兄をなだめ、本来親が担うべき家族のバランスを保つ役割も担ってきました。被告の置かれた境遇は、厚生労働省が定めるネグレクトの『宗教虐待』にあたると、私は主張してきました。判決は量刑の理由として『不遇な生い立ちは犯行に大きく影響しておらず、酌むべき余地も大きくない』としていますが、母親の宗教被害と子どもたちへの虐待がなければこの事件は起きなかったと思います」

     ■      ■

 ――検察側は「宗教学の知見は不要」との立場でした。

 「検察側は、被告自身が信者だったわけではないとして、『教団の問題やその活動内容の当否まで踏み込むのは極めて不適切だ』と主張しました。しかし、自民党と教団の密接な関係がなければ、教団による被害を防げたかもしれないし、安倍元首相も標的にはならなかった。その関係の立証を検察側が避けたのは、あまりに不自然だと思いました」

 「刑事裁判では犯行に関することのみが審理され、教団にまつわる問題がすべて解明されるわけではありません。司法以外の場での真相解明が不可欠だと思います。例えば、独自の取材に基づく調査報道が求められますし、研究者もそれぞれのフィールドでできることがあります。また、真相の解明だけでなく、問題を未然に防ぎ、被害の回復には何が必要なのかを発信していくことが必要だと思います」

 ――教団の問題はこれからどうなりますか。

 「解散命令が出ても、旧統一教会の問題は終わらないでしょう。宗教法人ではなくなっても信仰を続ける多数の信者がいるでしょうし、それは憲法で保障されています。実際、宗教活動を続けていくために、新団体の設立が検討されています」

 「宗教2世の問題も解決するわけではありません。神社や寺、教会などを世襲する時代ではなくなり、信者も自分の信仰を子に継承させる難しさを感じています。子どもたちの声に耳を傾け、信教の自由や信仰のあり方などを、どの教団も真剣に議論しなければなりません」

     ■      ■

 ――同様の被害を起こさないためには、何が必要だと考えますか。

 「宗教者、児童相談所のスタッフなど、現場にいる人々に関わってもらうことです。介入の難しさや孤立のしやすさを前提にして、相談できる場所、支援する人を増やしていく必要があります」

 「『宗教のことだから』『信教の自由があるから』といって思考停止するのではなく、何かおかしくないか、何か自分にできることはないか、そういう手を誰もがさしのべる必要があるのではないでしょうか」

 「事件後、私は国の科学研究費助成を受け、宗教2世の支援モデル構築をめざす共同研究に取り組んでいます。カウンセリングや福祉の関係者に対して、旧統一教会、また宗教を背景にした虐待をテーマに、研修やセミナーも開いています」

 「社会に大きな影響を与える出来事が起きても、誰も責任をとらないということが繰り返されてきました。元首相銃撃事件も、旧統一教会の一連の問題も、この国が自分たちで問題を解決しようとしなかったことの表れではないでしょうか。何かしなければ、と考え、行動を起こす人間が出てくることを待つしかありません。私自身は間違いなく、その一人になろうと思います」(聞き手・島崎周)

     *

 さくらいよしひで 1961年生まれ。北海道大学大学院特任教授。カルト問題を調査・研究。著書に「統一教会 性・カネ・恨(ハン)から実像に迫る」など。

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験