AI小説の現在地 〜品質と量産の間で〜
AI小説。
この言葉を聞いた時に、その意味するところを正確にイメージできる人が果たしてどれだけいるだろうか?一般的には、生成AIと聞くと、プロンプトと呼ばれる生成AIへの指示を入力すれば、その指示に沿った結果が出力されるものと考えられている。
そして、この指示を繰り返した経験がある人は、 生成AIはハルシネーション(要は嘘をつく)を起こすし、以前の指示を的確に覚えていないし、過去の出力と整合しないといった経験に出くわしているはずである。
その経験は、AI小説への理解にも応用されているはずで、結果として生成AIは記憶力に問題があるし、学習したデータから正確な情報を引くこともできないため、書けたとしても世界観と呼べるものはほとんど有していない短編止まりという理解に落ち着く。それはそれで道理だと思うが、一方でAI小説を書こうとする人たちの情熱を甘く見過ぎだとも思う。与えられた制約条件下で、よりベターな結果を出すにはどうすべきかを試行錯誤する。その行為自体に価値を見出す尊敬すべきエンジニアは、どの分野にも存在する。AI小説も然りだ。
好奇心の赴くままに行われる彼らの徹底したトライアンドエラーと、生成AIのバカみたいな進歩のスピードがうまく噛み合った結果、AI小説分野は、すでに上記の想像からは全くかけ離れた次元に到達していると言っていい。
それを今回の記事では実感してもらいたいと考えている。
AI小説に適したプラットフォーム選び
多くの人は、生成AIと聞くと、OpenAIのChatGPT(最近はチャッピーと呼ぶ人もいる)か、GoogleのGeminiを思い浮かべるのではないだろうか。しかし、AI小説を作る人がメインで使うのはおそらくClaudeである。
これは最近いわゆるITエンジニアの間でもてはやされている生成AIで、中でもClaude Codeというプログラムのコーディングに特化したものは有用性の面で飛び抜けている。ただコードを書くだけでなく、あらかじめ書いておいた様々な「設定」や「情報」に基づいて、Agentと呼ばれるAIが計画を立てたうえで、様々な手順や処理を自動で実行してくれるのだ。そして、この仕組みは、Web上のチャットウインドウ上でもある程度再現できる。これは「プロジェクト」と呼ばれている。プロジェクトにあらかじめ「設定」や「チェックリスト」を登録しておき、プロジェクト内に定義した「手順」に沿って処理を実行することができる。
似たようなことは今のGeminiもできる。これはNotebookLMと呼ばれる機能と接続することで実現する。予め「正確な情報」を登録しておけば、その情報に基づいて応答を返してくれるのだ。これは技術的には簡易的なRAG(Retrieval-Augmented Generation: 検索拡張生成)のようなものであり、Claudeのプロジェクトに比べると経済合理性の面で優れている。この辺りの技術的な話は今回の目的とはズレるので詳細は省くが、ClaudeにせよGeminiにせよこちらが用意した任意のデータに基づいて出力を返すことができるようになったということである。
ただし出力される文章は、Claudeが頭一つ抜けており、ChatGPTやGeminiを凌ぐ自然なものであると高い評価を得ている。ゆえにAI小説出力を目的とした場合は、Claudeを選択するのが合理的ということになる。
なお、今回は紹介のみにとどめるが、海外のスタートアップでは、先ほど紹介したNotebook LMのような簡易的なRAGも提供する執筆専用のプラットフォームがいくつかある。例えば、Sudowriteだったり、NovelCrafterだったり、NovelAIだったり。特にNovelAIは日本語対応もしているようなのでいつか試してみたい。
AI小説生成のワークフロー
入力編
ここまで読んでいただいた方はすでにお気づきかもしれないが、この記事で言及しているAI小説は、巷に出回っている「AIポン出し」小説とはまるで異なる。いわゆるAI小説ガチ勢の人たちのやり方となる。
AIポン出し小説とはChatGPTやNano Bananaでジブリ風イラストを出力させるようなレベルのものでしかない。それはただの粗製濫造だ。そんな粗製濫造に走る人たちの動機は「小説」そのものではなく、その小説から得られるPVインセンティブのようなお小遣いであり、AI小説ガチ勢とは根本的な動機が違うと言って良いだろう。
生成AIの特性を理解したガチ勢は手間を惜しまない。だから入力と出力の品質を予め高めておくためにまず最初に各種ファイルの作成から行う。
今回はファンタジー作品を例にして解説しよう。
まずは入力。ファンタジーに欠かせないものといえば、世界観と言えるだろう(もしかしたらファンタジーに限らない話かもしれないが)。とにかく、それをまず記述する。
人によると思うが、私が生成AIとともに作った世界設定ファイルは27000文字だった。この世界観を生み出す世界設定ファイル自体は、予めAIとの壁打ちで取り決めておいた世界設定生成ガイドライン群に基づく。世界設定生成ガイドライン群と、命名規約と、どのような世界・どんな物語を作りたいかの入力があれば、バリエーション豊かな世界設定を出力することができる。
なぜ「群」なのかというと、世界設定のガイドラインを管理しやすいように「国家情報ガイドライン」「種族情報ガイドライン」「上位存在情報ガイドライン」「神秘情報ガイドライン」「歴史情報ガイドライン」「登場人物情報ガイドライン」「ガイドライン連動マップ」に分割しているからだ。これらをまとめて入力に使って、1つの世界設定ドキュメントを出力している。
なお余談だが、生成AIを使った世界設定だと、Qveriaという世界設定を生み出したkoguさんの記事は一読に値すると思うので紹介しておく。この作品は約20万文字のテキストをもとに生成した事典であるらしい。
実際生成されたものはコチラ。
次に世界設定ファイルと並んで重要になるのが、「文体」である。これも予め入力用ファイルとして用意しておく。
この文体ファイルは、私の場合は文体ガイドラインに基づいて作成している。ファンタジーを書いたことがあれば、自分の作品をAIに読み込ませて分析させガイドラインに沿って出力させることで文体ファイルを簡単に作ることができる。
しかし私にはそう言った積み重ねはないため、パブリックドメイン扱いとなった過去の文豪等の作品を分析してファイルを作成している。ファンタジーであれば、海外の作家になるが、バローズ、エディスン、ウィリアム・モリス、ダンセイニ、ラヴクラフト、ハワードあたりが射程に入ってくるだろう。ただ、当然としてそう言った作家の文体で表現できるファンタジーは古典的なものなので、世界観や登場人物の造形もそれに合わせて調整した方が良いと言える(そのうち自分自身の文章で文体ファイルを埋めたいところではあるが)。
そして最後に「物語設計ドキュメント」である。この中には物語を出力する上でどういった構成にするかがまとめられている。AI小説を作っている人の間でも意見は分かれるところではあるが、いわゆる三幕構成のような脚本由来のフレームワークは、AI小説には不向きという説があり、それに従って私の場合は、アークとエピソードの単位で物語を調整するようにし、加えて冒頭をどのように設計するべきかもまとめている。
なお、文字数指定を守らせようとすると、生成した文字数が少ない場合に何回もバックグラウンドで文字数水増しが実行されてしまったりと、まだまだ改善の余地が残った状況である。
以上が入力時に使用するファイルである。つまり世界設定ファイル、文体ファイル、物語設計ファイルを事前に用意し、それをAIに渡すのである。プロンプトは、「1話目を執筆して」の一言で終わる。
ちなみに、人によっては先に物語全体のアウトラインを作り、エピソードごとのおおよそのあらすじを記してAIに渡している。おそらくそちらの方がメジャーで、なぜなら物語を通じての破綻が少ないからである。
出力編
出力では、単純に物語を出力すれば良いと考えている人が多いかもしれない。しかし、AI小説の品質は出力をどのように工夫するかでほぼ決まると言って良い。AIガチ勢はここで検証チェックリストを用意して、最終的なアウトプットを行う前にAI側でチェックをさせるようにしている。
まずは、禁則チェックリスト。文章上やってほしくないこと、ファンタジー小説においてやってほしくないことが対象となる。
前者に属するものとしては、同じ接続詞の繰り返しや、会話文の後に「と言った」を繰り返すのを禁止したり、「この老人は第一話と同一人物である」のように話数で指し示すのを禁止すると言った比較的単純なケースが対象となる。一方後者に属するのは、現代的な「時制」の禁止。「3秒ほど間を開けて」といった表現は、古典的ファンタジー世界では雰囲気をぶち壊す可能性があるので避けるよう指示している。
これと併せて行なっているのが世界設定や物語設計との矛盾の確認である。以下のようなものがリストに挙がっている。
この辺りは秘伝のタレみたいなところがあり、AIの出力を実際に目で確認した時に、AI側の見落としに気付いてはチェックリストに追加するといった形で継ぎ足していくことになるだろう。
そうして、チェックが通ったらエピソードが出力されるわけだが、ここではエピソードのみならず、状態・伏線管理表をセットで出力させている。
そのエピソードの進行によって各登場人物の状態がどのように変わったのか、またこの過去のエピソードから積み重ねてきた伏線の状態を管理していて、回収した伏線、追加された伏線をリストアップしている。これは、エピソードを読んでチェックする際の補助として機能しているほか、次のエピソードを作成する際の入力としても使うものである。これにより、エピソードの間での矛盾を極力排除できる仕組みになっているのだ。
AI小説の現在地
以上が私の実践しているワークフローだ。私自身はかなり早い段階からAI小説の情報収集を継続して行なっていたものの、実践を始めたのはここ2週間なのでまだまだ詰められるところは沢山ある状態と考えている。
本業がエンジニアなので、わざわざブラウザ上であれこれ操作するよりは、テキストエディタとCLIでもっと効率的に管理するところまで持っていくべきだろうなと思ったりもしている。
つまり実践者としてはまだまだ初心者なわけで、何年も研鑽を続けているAI小説ガチ勢は、さらに合理的かつ高品質な小説を再現するワークフローを構築していることは想像に難くない。実際以下のように時給換算で1時間800円ほどの収入でしかないものに相当な時間を費やす人もいるのだから。
昨今カクヨムや小説家になろうでは、お世辞にも品質が良いとは言えないAI小説が大量に投稿されて新着一覧を荒らしていたり、ランキングに顔を出してかなりのPVインセンティブを得ている実情がある。
それはおそらく、生成AIを使わず、あるいは補助的な運用でとどめている書き手の方々から苦々しく思われていることだろう。しかし一方で、今回のように小説の品質にこだわってAI小説のワークフローに取り組んでいる人間もいるという事実も覚えておいてほしい。
いわば、小銭稼ぎ目当てで大して研鑽もせずに、何なら情報商材屋の受け売りそのままの雑なワークフローで投稿される小説が、AI小説の現在地であると思ってほしくない。実際はそれより遥か先まで研究は進んでいるのだ。
最後に
私の実践経験に則したAI小説のワークフローについての解説は以上である。AI小説や記事を書いている人にとっては既知の内容だし、もしかしたらレベルの低い内容だったかもしれない。一方で、AI小説ときいてプロンプトで指示を出してせいぜい短編ぐらいが関の山と思っている人にとっては、新鮮な情報だったのではないかと思う。
今回の記事が、そのような人たちの認識のアップデートに繋がることを願っている。
おまけ
今回の記事を執筆するにあたり、私が参考にしているAI小説関連のユーザーや記事、スレッドを紹介しておく。
アカウント
記事
あとは5ちゃんねるの文芸サロン板にも専用スレッドがある。そちらは開くとアレな広告が沢山表示されたりするので、スレッド名だけ紹介しておく。
【ChatGPT】AI執筆技術スレ【Gemini/Claude】
【ChatGPT/Grok】なろうカクヨムAI執筆雑談スレ【Gemini/Claude】
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今後もたくさんの記事を投稿していこうと思っています。もしチップをいただくようなことがあれば、記事のインプットになる書籍やnoteの購入に充てさせていただきます!




非常に興味深い記事でした。 私は現在医師として勤務する傍ら、連載小説『隣人AI』(生成AI:Geminiとの実際の対話ログをベースにしている)の執筆をしていますが、ここで示されるようなAIを駆使して小説を執筆する方法やそれを取り巻く出版プラットフォームなどの状況には疎いので非常に参考になります…
お読みいただきありがとうございます!これを皮切りに他の方もnoteでワークフローや理論を公開してくださったりしているので、そちらもぜひご覧ください!