沖田さんから受け取ったものをまじまじと見つめる
これは…
私「豊玉発句集…?」
沖田「クスッ…あの鬼の副長と恐れられている土方さんが書いたものですよ。意外でしょ?」
私「え、ええ…それで…これをどうするつもりですか…?」
嫌な予感がする
沖田さんの笑みが深まる
沖田「一緒に読みましょう」
やっぱり…
此奴、この状況を楽しんでるな…
仕方ないか…暇だし乗ってやる
まあ私も探してたしな
パラパラとページをめくる
私「うわ…達筆…」
沖「ふふ。さて、どれにしますかね。これなんてどうです? 春の草 五色までは 覚えけり〜」
私「ぷっ…」
沖「さ、次は一緒に読みましょう。梅の花」
私沖「壱輪咲ても梅はー」
すごい勢いで廊下を走る音が聞こえた
そして、土方さんが襖を思いっきり開けた
「総司ィィ!! こいつに余計なこと吹き込むんじゃねぇ!! あと、そいつを返せ!!」
鬼の怒鳴り声が屯所中に響いた
私「五月蝿いな…頭からツノ出ちゃいますよ」
沖「あはは。ですって、土方さん。そうしたら、本物の鬼になっちゃいますね。それじゃあ、僕は失礼します。お2人の間を邪魔するわけにはいかないので(ニコリ)」
ちょっと待てええ
置いていくなよ
つーか置いてくなら豊玉発句集置いてけ
そもそも2人の時間って何だよ!!
私達は恋仲じゃないぞ!!
勘違いするなよ!!
その場に残された私は、土方さんの方を恐る恐る見上げた
土方さんは眉間にしわを寄せて立っていた
土「はあ…ったく総司の奴…お前もアイツにあんま構…へっくしょんっ」
私「…」
さて、どうしたものか…
土方さんが居なくなった今、下手にウロつくわけにもいかない
何もすることがない
…ん?
確か発句集を書いてなかったか、あの人
確か豊玉発句集だったはず…
探してみるか
見つからなかったら見つからないでいいし
あとは…
上を見上げ、声をかける
私「一応釘を刺しておきますが、着替えは覗かないでね、山崎さん」
そう声を掛けると、天井がガタッと動いた
どうやら動揺したらしい
確実に覗いていたな、彼奴
私「あと、盗み聞きしてた?」
そう問うと、天井の板を外し、降りてきた
山「ああ…信じ難いが、嘘をついてるとは思えない」
山崎さんは、一見無表情だが、少し困惑しているように見えた
私「今から言うことは独り言です。8月18日の長州の動きに注意してください」
山「!? それは…いや、心得た。副長にはそのことは伝えたのか?」
私「まだです」
山「そうか…副長にも伝えておけよ。俺は戻る」
私「何も聞かないんですか?」
山「…先程話を聞いていた。お前自身、自分の身に何が起きたかわからないのだろう。なら、余計な詮索は不要だろう。俺は戻る」
そう言い残し、山崎さんは天井裏に消えた
しばらくして、襖が開いた
土方さんかなと思ったら、沖田さんだった
沖「コレ見ます?」
そう言って、彼は本のようなものを放って来た
土「150年先の未来か…10年か…」
私「は…? 何がですか…?」
今の私の話聞いてなかったのか?
鬼さんちょっと…
訝しんでいるのに気付いたらしい土方さんがずいっと近寄ってきた
驚いて固まっていると、すぐに土方さんは離れた
土「違うか…」
私「何がだよ!! 私の顔を見てがっかりするなよ」
土「いや、あの女じゃないなと思ってな…」
ん? あの女…?
私「名前、覚えてないんですか?」
土「名前どころか、顔も覚えてねえ。ただ、あいつの体温は忘れてねえ。いや、それだけは忘れねえ」
土方さんってたらしなイメージだったけど、意外と純情派か?
沈黙がしばらく続き、土方さんはコホンと咳払いをした
土「まあなんだ…とりあえず今はこの時代で出来ることをしろ。しばらくは面倒見てやる」
私「はい…お世話になります」
土「とりあえずは休め。俺が来るまで中で静かにしてろよ。あ、あと、お前は俺の小姓だからな」
そう言い、土方さんは出て行った
は…え…?
”俺の小姓”って言った…?
マジかよ…
いや、待てよ…
土方さんは、逆タイムスリップをした
そのことを知っているのは私だけ
そして、私がタイムスリップをしたのを知っているのも土方さんだけ
きっとあの人は私のことを他の人に話したりはしない
私もしない
危険が及ばぬよう、気を使ってくれたのか…?
伊達に副長じゃないってわけね…
私は土方さんが去った後、襖に向かって静かに頭を下げた
着替え終わり、彼を呼ぶ
私「土方さん、終わりました。で、未来に行ってたとは…どういう…」
土「(ちゃんとさんづけで呼んでくれてるな) よくは覚えてねえ数日だけ、未来に行ってた」
数日だけ…?
ってことは私も数日で帰れる?
私の考えを察したのか、彼は首を横に振る
土「いや…俺は長い間居たはずなんだ。どこか遠い地で自分が死ぬ夢を見た。その後、未来で世話になった」
私「私に…? もしかして、川で溺れて…」
土「お前かどうかはわからねえ…溺れてはいねえが…まあ似たようなもんだ」
自分が死ぬ夢ってことは、函館でってことだよね
ただ、まだこの時の彼は知らないはず…
そもそも、私は、こんな仏頂面拾ったことないぞ?
川に飛び込んだこともない
知らん。絶対私じゃない。人違いだ
土「可笑しな話だろ? まあお前じゃねえよ。お前よりもっと大人びてて綺麗だった」
私「どうせ子供ですよ!! 綺麗じゃなくてすみません」
土方さんはため息をつく。
土「まあ話は最後まで聞けよ。毎日平和で、侍がいねえ時代だった。その女に気付いたら惚れてたよ。だが、突然に別れの時が来た」
切ないねえ…時代を超えた恋とか萌えるじゃない
土「いつも通り一緒に寝てたんだ。気付いたら、橋の上にいて、お前が溺れてんのが見えた。しかも、景色がガラッと変わっててよ、驚いた。だが、次の瞬間には身体が動いてた。それで、今に至るってわけだ」
なるほど…
溺れてって…もういいや…
ちょっと待てよ…?
どうやって帰って来たの?
ってか…助けてくれた人と恋仲になってたの?
芹沢さんがやらかしてる間にあんたは女抱いてたの?
私「待って…つまり、こーいうこと? 女に助けられ、女抱いてたら、この時代に帰って来てて、私を助けたと? …誰かに言ったの…?」
土方さんは苦笑した
「斎藤に、吉原に通うのはいいが、程々にしてくださいって言われたよ。誰にも言ってねえよ。みんな俺がいなかったのは数日間だけだってんだから驚いたよ」
まあそうなるわな…
ってかこの時代の人間助ける現代人って…大した奴だよ
刀持ってるし、こんな仏頂面…まあイケメン拾って帰るのも悪くないか…
そもそもあんたは何しに行ってたんだよ
女抱くならこの時代でいいだろ
私「私のことは襲わないでくださいね?」
土「襲わねえよガキ。で、お前は何処から来たんだ?」
私「ガキじゃないし…私は18です。150年先の未来ですよ」
”この時代の人間じゃないから”
その言葉に土方は驚いた
土(あの時、感じた感覚…アレはやはり間違いじゃなかったわけか…)
返事が返ってこない
当たり前か
私は着替え始めた
昔から着物は着慣れている
道着も着るしね
本当に何も言わないのかな
信じてないのかな
そりゃそうだよね…
信じられるわけがない
信じてもらえるわけがない
言っても無駄
そんな気がした
土「そんな気がした。俺は昔未来に行ってたことがある。だから、そんな気がした」
予想だにしてない言葉ば聞こえ、私は着替える手を止め、襖を開けた
は?
此奴、”未来に行ってた”とか言わなかったか?
昔っていつだ!?
土方は私の手を取り、中に連れ込み、襖を閉めた
次の瞬間には土方の顔が眼前にあった
「俺はお前を知ってる。そんな気がするんだ。お前は誰だ? お前は何者だ? 何故俺の心をかき乱す?」
そう言って、土方は私の頰を撫でた
私「え…何故…? 未来って…えっ…」
ドキンッ
もしかして、私が探してた人って…
いやいやいや…ないわ
うん、こいつはない
だってこんな髪長くないし
そもそも、会ったことないし
ありえない…こともないのかな…
私が過去…幕末にタイムスリップしたのと無関係とは思えない
何か手掛かりがあるはずだ
私「あの…」
土「悪い…着替え中だったな…」
そう言って、彼は出て行く
私「へ…あ…え…」
土方が出て行くのを呆然と見送り、私は着替えを再開した