うごめく「神仏の売人」、JKリフレや占いビジネスも経験したブローカーが明かす舞台裏 相場は3000万~1億円、地面師も登場?魔手にかかった住職の末路は…

宗教法人の販売情報が載っている山本氏のウェブサイト

 「滋賀県 重要文化財の仏像あり 2億8千万円」「北海道 超有名神社 おさい銭収入あり 特別セール5千万円」―。とあるウェブサイトを開くと、100件以上の寺や神社などの名前とともに、こんな文言が目に飛び込んできた。
 ここで売り買いされているのは、宗教法人だ。なぜ宗教法人が売買対象になるのか。その秘密は、税制優遇にある。一般企業とは違う公益性の高さを理由に、寄付やお布施などの宗教行為による収入は非課税となっている。
 買い取った宗教法人に寄付金名目で財産を移して課税を逃れようとする人が近年増加。インターネット上を中心にブローカーがうごめいている。
 「売買自体は違法ではない。あくまで脱法行為だ」。共同通信の取材に応じたブローカーはこう強調。取引の実態や寺院が買い手に人気の背景など、ベールに包まれた“宗教ビジネス”の内幕を明かした。(共同通信=斎藤修真)

ブローカー業を営んでいる山本隆雄氏=2025年12月、大阪市

▽3千万円超取引も「証拠残しちゃいけない」

 観光客でにぎわう繁華街・ミナミにほど近い、大阪市浪速区の雑居ビル2階。細く薄暗い階段を上ると、事務所で青いポロシャツ姿の初老の男性が笑顔で出迎えた。
 宗教法人を売買するサイトの主、山本隆雄氏(66)。活動実態のない宗教法人のブローカー業を営む、いわば「神仏の売人」とも呼べる人物だ。

 「昔はJKリフレ(女子高生を装った性風俗店)のあっせんや、霊能者を集めて占いのビジネスをやっていました」
 山本氏は長年「裏稼業」に身を置き、宗教法人の売買仲介を始めたのは6~7年前からだという。売買募集をするためのサイトを開設したところ、売り先を探す宗教法人の代表役員や、購入希望者からの問い合わせが相次いだ。
 「買いたいという人からの相談は年間で数百件くらい。売却を希望する宗教法人の情報は、他のブローカーからも流れてきます。ブローカーの中には墓石屋とか、宗教関係者と付き合いのある奴がいますから」

 山本氏は、法人格を管理する代表役員の交代は「法人名義の実印さえあればいつでもできる」と明かす。実際の取引は事務所において対面で行われ、実印と現金を交換する。
 訴訟リスクを回避するため、契約書や領収証は一切残さない。「証拠を残しちゃいけない。だから銀行振り込みもダメなんです」。
 相場は約3千万円~1億円で、“成約”は多くても年間5件程度。売却価格のうち、500万円~1千万円ほどが仲介手数料として山本氏の手元に入ってくる。

山本氏の事務所が入るビル=2025年12月、大阪市浪速区

▽吉田兼好ゆかりの古刹も標的に

 宗教法人側が買い手を探す理由はおおまかに二つある。
 一つ目は後継者がおらず、境内や社殿の管理が難しくなるケース。そして、もう一つは借金などで経営が立ちゆかなくなってしまったケースだ。
 「あそこはブローカーの中でも『地面師が絡んでいる』という話が出回っていましたよ」
 山本氏が話すのは、大阪市阿倍野区にある正円寺。創建は939年で、『徒然草』の作者として知られる吉田兼好にゆかりがあるとされる古刹だが、かつて山本氏のサイトに販売情報が掲載されていた。

 2023年、この寺の元住職が、寺の土地の所有権を移転したとする虚偽の登記を申請したなどとして、電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で逮捕、起訴された。元住職は共に逮捕された会社役員の男らと共謀して、寺が所有する土地を会社側との間で売買し、所有権を移転したとする虚偽の登記を大阪法務局に申請し、記録させるなどした。
 2024年10月に大阪地裁で懲役2年6月の実刑判決が言い渡され、その後確定した。判決などによると、寺の敷地内に老人ホームを建設していたが資金繰りが難航。会社役員の男からの提案で、土地の差し押さえを逃れる名目で虚偽の所有権移転を図った。寺は現在、第三者による破産手続きを経て、再建を目指している。

大阪市阿倍野区の正円寺=2023年10月

▽一番人気は「単立宗教法人の寺院」、脱税以外の目的も

 では、購入希望者の目的は何だろうか。

 山本氏は、多くが「脱税」目的だと断言。買い取って代表役員になった宗教法人に寄付金名目で財産を移管すれば、課税を逃れることができるためだと説明する。 

 さらに、買い手に人気なのが、寺院だ。その背景には、脱税目的以外に特有の理由があるという。
 「墓地経営をしたいという問い合わせが多いです。供養代だけでなく、維持管理費で莫大な収入が見込めますから」

 山本氏の解説はこうだ。
 宗教法人は、物品の販売や駐車場の運営といった収益事業にかかる税率が一般企業より低い。しかし、墓地の運営は、収益事業に該当しないため、税金が低いどころか、非課税だ。だが、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)は、墓地や納骨堂を経営するには都道府県知事などの許可が必要だと定められている。経営主体は、地方公共団体と宗教法人、公益法人等に限られており、一般人が参入するハードルが高く、需要があるのだという。
  
 「うちから見れば買う方も、売る方も宗教活動をやろうと思っている人なんていません。みんなお金のためですよ」。そう苦笑する山本氏の元には、取材中も売買相談の電話が何度もかかってきた。

 宗教法人は大きく分けて、宗派や教派などのように複数の神社・寺院・教会などを傘下に持つ「包括宗教法人」と、自ら礼拝の施設を備える「単位宗教法人」の2種類に分かれる。さらに、単位宗教法人のうち包括宗教法人の傘下に入っておらず、完全に独立した存在は「単立宗教法人」と呼ばれる。
 数ある宗教法人の中で最も人気なのが「単立宗教法人の寺院」だ。独立した法人は、傘下に入っている法人と比べ、代表役員の変更手続きが簡単なのだという。

▽文化庁が実態調査へ

 国は現状を放任し続けるつもりはないようだ。

 宗教法人を所管する文化庁によると、全国の不活動宗教法人の数は2024年末時点で5019ある。ブローカーによる売買が横行するのは、宗教法人法が第三者が法人格を取得して宗教活動以外の目的に利用する事態を想定しておらず、売買を制限する条文はないからだ。

 文化庁は、脱税や資金洗浄(マネーロンダリング)といった犯罪行為に悪用されるのではないかと、危機感を募らせ、近く不正利用の実態調査に乗り出す。
 宗教法人へのアンケートなどを通じて実態を把握した上で、検討会で不正利用の事例や、売買を持ちかけられた場合の関係機関との情報共有の在り方を盛り込んだガイドラインを策定する予定だ。

 宗教法人への税制優遇は、税務調査のような国の関与を最小限にすることで、憲法の定める信教の自由を保障するための措置だとされる。1995年のオウム真理教事件を契機に、一定以上の収入がある宗教法人には収支報告書の提出が義務付けられるようになった。しかし、文化庁は2004年、信教の自由を理由に、報告書への情報公開請求があっても原則不開示とするよう求める通知を都道府県に出したため、収支が一般に公開されず不透明な部分が多い。

オンラインでの取材に応じる近畿大の田近肇教授

▽法律による制限は難しい?
 宗教団体法制に詳しい田近肇・近畿大教授(憲法)は「宗教法人による代表役員の変更は宗教的結社の自由で保障されており、法律による制限は難しい」と指摘。一方、過疎化や高齢化によって不活動宗教法人の数は将来的に増えていくと推測する。
 田近氏によると、単立宗教法人を所轄する都道府県の職員の数は多くても4~5人程度だ。しかも専任ではなく他の業務と兼任しているケースが多いという。
 田近氏は「宗教法人の売買はまだ実態が不明な部分が多い」とした上で、調査のためのさらなる人員の確保と予算の充当が必要だとした。

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