(社説)自民党と自衛隊 揺らぐ政治的中立性
現役の隊員が一政党の大会に参加し、場の盛り上げに一役買った。自衛隊の政治的中立性が疑われて当然である。自民党側も防衛省・自衛隊側も、そこに思いが至らなかったとは驚きだ。
自衛隊法61条は、選挙権の行使を除き、隊員の「政治的行為」を厳しく制限する。戦前、政治と軍が一体化して、国を破滅に導いた反省に立ったものだ。実力組織の自衛隊が特定の党派に偏らないことは、民主主義を支える重要な規範のひとつでもある。
陸上自衛隊中央音楽隊に所属する隊員が自民党大会に参加し、壇上で国歌斉唱をリードした。小泉進次郎防衛相は「私人」として依頼されたと説明したが、隊員は「陸自が誇るソプラノ歌手」と紹介され、制服を着て歌った。上司の副隊長も同行していた。
陸自トップの陸上幕僚長は事前に承認しながら、指示していないので公務ではなく、「私人」の立場だと強弁したが、明らかに無理がある。
高市早苗首相は国歌を歌うことは政治的行為には当たらず、党大会への参加も、特定政党への支援を呼びかけるものではないので、自衛隊法違反には当たらないと述べた。だが、党大会の演出への協力自体、党勢拡大への後押しではないのか。
自民は、今回の起用は党側の発案ではなく、党大会の企画会社側からの推薦だったという。自衛隊の中立性に疑義を持たれかねない人選に、なぜ違和感を持たなかったのか。自衛隊が災害派遣など、地道な活動で積み上げてきた国民の信頼を損ないかねない。政権の座に長くあることで、「私兵」のような感覚があるとしたら大間違いだ。
一方の防衛省・自衛隊の側も、問題意識がなさ過ぎる。企画会社からの問い合わせに「問題ない」と返答。大臣や首相に報告も上げておらず、組織内の連絡体制や意思疎通にも疑問がある。
小泉氏は党大会当日、この隊員との写真や「党にとって重要な場で大役を担ってくれた」と労をねぎらうコメントをX(旧ツイッター)に投稿した。政治的行為であるととられることを懸念してか、後に削除したが、自衛隊を統括するトップとしての自覚に欠ける。
自衛隊は政権政党がどこであれ、国民全体に尽くす中立性が絶対的に求められる。政治が軍事に優先する「文民統制」も、確実に担保されねばならない。自民党と自衛隊双方に、民主主義の原則と法令順守への意識が欠如していては、幅広い国民の信頼は得られない。