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現代社畜のダンジョンコンサル  作者: 珍比良


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防衛-サステナブル-

 どういった流れで聞いたのかは忘れたが、接待ゴルフの折に社長が警備会社について語ったことがある。


 曰く、警備会社選びはとにかく知名度を優先したとのこと。

 実績があっても無名では抑止力にならない。逆に誰もが知っている警備会社と契約すればそれだけで犯罪者が敬遠するし体裁も保てる。そんな話だった。

 それでも狙われたら運が悪かったと諦めるしかないな、と冗談めかして笑っていた姿は記憶に残っている。


 日本は平和だったとしみじみ思う。異世界では武器を担いだ集団が計画的に襲ってくるのが日常である。適した警備担当を選ぶ重要性もいや増すというものだ。


「来たのは……黄土級のルーキーが二人か」

「ゲロ……? ルーキーが二人……おかしいゲロね」


 ダンジョン入り口に入ってきた探索者を見たゲロルグさんは顎に指を当てて首を傾げた。

 はて。何かおかしいことでもあっただろうか。


「いつもは必ず引率役として大人が付いてきていたゲロ。この辺は比較的安全でケロが、外にも魔物はいるからルーキーだけでは出歩かないはずでゲロ」

「ああ……多分()()に乗ってきたんじゃない? 試運転も兼ねてさ。服の背中にタイヤが巻き上げたっぽい泥跳ねの跡があるし、間違いないと思うよ」

「ゲロ! 昨日探索者たちに恩恵として与えた……たしか自転車だったゲロか?」

「そう。歩いて片道二時間ってのはさすがにアクセスが悪すぎるからね。文明の利器の力を借りることにしたよ」


 この世界にも馬車に似た乗り物はあるらしいが、さすがにスプロケットとチェーンを使った巻き掛け伝動機構を有する自転車など存在しないだろう。まして悪路走行用のタイヤとサスペンションが付いたマウンテンバイクなど。


 昨日、探索者たちを一斉に蹴散らした時に得た魔力で三台のマウンテンバイクを作っている。これを恩恵として設定したレッサーリザードは流れ作業のように倒され、探索者たちは自転車を無事に持ち帰っている。二人しか来ていないということは残り一台は研究用に接収でもされたのだろうか。


「しかし、あんなヘンテコな乗り物でそこまで変わるものなんでゲロか?」

「片道二時間が三十分くらいにはなるんじゃない? 魔力で強化された肉体ならもっと飛ばせるかもね。信号も曲がり角も無いなら尚のこと早く着くよ」

「まるで魔法ゲロね」

「科学の力だよ」


 高度に発達した技術は魔法と見分けがつかない、なんて格言を思い出す発言だ。異世界の異形がそれを言うかと突っ込みたくなるが。


 もっとも、個人的にはこの世界の人間の方が常識外れだと思うけどね。ゲロルグさんによると鍛え上げた人間は片道二時間程度の距離なら数分で走破するらしいし。

 人が高速道路で走る車と同じ速度で走っちゃ駄目でしょ。どんな筋肉のバネをしてたらそこまでの推進力を得られるというのか。高度に発達した筋肉は魔法と見分けがつかない。


「ともあれ、一般人にとっては有用な品だってことが分かった。今後は目玉商品として普及させたいね。探索者が足繁く通うようになれば上出来だ」


 子供用とはいえ、一台につき20,000Pもしたのだ。広告として成り立たなければ無駄な出費になる。このルーキー二人にはその乗り心地の良さを広めてもらうとしよう。


『剣の手入れよし! 靴紐の結びよし! じゃあ行くぞ!』

『おう! 俺たちも儲けるぞ!』


 装備の点検を終えた少年二人が気合い十分の足取りで一階層へと降りてくる。随分と手慣れてるし、貴重品の自転車を任されるあたりルーキーの中でも上澄みなのだろうか。


「ハジメ様、どうするゲロ?」

「そうだな……なんとかして二階層へ誘導したいね」

「どうしてゲロ?」 

「ルーキーと経験者で住み分けをさせたい。ダンジョン内で格差を作るんだ。一階層はルーキーを育てる用。二階層はルーキーでは対処が厳しいけど、その分だけ多くの旨味が得られる的な感じでね」

「なるほど……一階層は安全、二階層は危険度が上がると覚えさせたいんでゲロね?」

「その通り。だから一階層ではレッサーリザードしか出さない」


 レッサーリザード二匹をルーキー二人の前に配置する。安い、弱い、(駆け出しにとって)美味しいと三拍子揃った縁の下の力持ちだ。

 レッサーリザードはドタドタとした足取りでルーキーに挑みかかり、そしてあっさりと撃退された。南無。


『こんくらいは手慣れたモンだぜ!』

『恩恵は……出ないか』


 ルーキー二人が肩を落とす。昨日は豊作だったと聞き、あわよくば自分たちもと勇んでやってきたのだろう。


「何も与えなくていいんでゲロか?」

「手持ち無沙汰じゃ帰れない。そういう心理を利用する」


 ルーキー二人は暫く一階層をうろついていたが、追加の魔物が出てこないと悟ったのか――二階層へ至る階段の前へと移動し始めた。


『……どうする? 行っちゃう?』

『でも二階層は別の人らが今日調査するって言ってなかったっけ』

『先に見ておく分には問題ないっしょ。それに……二人だけなら魔物が大勢出てくることもないはずだ』

『……一目見て無理だって思ったらすぐに撤退すりゃいいしな』

『そういうこと。んじゃ行こうぜ』


 埋没費用(サンクコスト)。費用に見合う対価を得られなかった時、人は理に適った判断を下すことが困難になる。

 せっかく早起きして誰よりも早くダンジョンに来たのに、得られたのはレッサーリザード二匹分の魔力だけ。これで帰ったら全くの徒労に終わる。


 でも、もし二階層に降りて恩恵を得られたら?


「いやはや、ダンジョンってのは異世界におけるギャンブルみたいなものなのかもしれないね。射幸心に()てられて引き際を見誤った人間が痛い目を見るところなんてまさにそっくりだ。この心理は――使える。もっと多くの人間をじゃんじゃん依存させていこう」

「ハジメ様はほんとに人族でゲロ?」


 見ての通り哺乳類霊長目です。心も身体も人間です。


「よし、じゃあ早速新戦力のお披露目といこうか」

「そういえばどの魔物を使う予定なんでゲロか?」

「一匹目はポイゾナスゲッコーだね。ダンジョンで使えそうな能力を持ってることと値段が安いことを条件に選定したよ」


 二階層にレッサーリザードとポイゾナスゲッコーをそれぞれ一体ずつ配置する。

 ポイゾナスゲッコー。1メートルはないくらいの大きさのヤモリだ。口から催涙毒を吐き出すが、致死性はないらしくそこまで危険視されていない魔物である。

 もっとも、それは単体で相手取った時の評価であることは語るべくもない。


『おい、変なのがいるぞ!』

『……やめておくか?』

『でも後ろ向いてるぜ。今ならやれるだろ』

『……行くか。這ってるやつを即潰して、それから奥のレッサーリザードをやる』

『おう!』


 この世界の人間は、ダンジョンが神によって作られたという歴史も、魔王が治めているダンジョンがあるという事実も認知していない。

 故にそれが意図的に作られた罠であるということも察せないのだろう。


「ハジメ様、ポイゾナスゲッコーとレッサーリザードを後ろ向きのまま呼び出したのは――」

「もちろん狙ってるよ。まさかここまで上手くはハマってくれるとは思わなかったけどね」


 ポイゾナスゲッコーの特徴は毒を吐くことの他にもう一つある。それが逃走手段の一つである『尻尾の自切』および『強力な麻痺毒の散布』だ。


 少年が後ろ向きのポイゾナスゲッコーに忍び寄り剣を振り上げる。瞬間、ポイゾナスゲッコーの尻尾切りが炸裂した。切断面からぶわりと吹き出したガスが少年を包み込む。


『なにっ! うっ……』

『おい、大丈夫か!?』


 背後から響く声に振り向き、探索者の襲来に気付いたレッサーリザードが威嚇の声を出す。そしてドタドタとした足取りで少年に駆け寄り――


『まず、い……!』

『くそっ! このガスさえなければ……!』


 もう一人の少年は麻痺毒が充満している一帯へ近寄れない。救援に向かうことができない。

 そしてレッサーリザードが力一杯に大鉈を振り下ろした。芋虫のように床を這っていた少年は魔力をまき散らして死んだ。


「いいね。どっちも単体では戦力にならないけど、力を合わせることで絶妙なシナジーを発揮してる」

「ゲロロロ……ほんとにハジメ様は平和な世界で過ごしていたのゲロか? 手際が良すぎるゲロ」

「争いとは無縁の生活だったけど争いの歴史は学んだからね。毒物の危険性についても人並み程度の知識はある。普通だよ普通」


 入手したポイントを見る。おっ、20,000近く入ってるじゃないか。ルーキー討伐時の最低値が9,000ほどだったことを考慮すると、やはり黄土級にしては上澄みの方だったのだろう。


 レッサーリザードが三体で3,000P。ポイゾナスゲッコーが一体で3,500P。かかった費用はしめて6,500P。一万以上の儲けとは二日目も上々の滑り出しじゃないか。


「余裕ができたことだし、もう一体の魔物を試してもよさそうだね」

「お次は誰を使うゲロ?」

「スティッキースラグ。デカいナメクジ型の魔物だね」


 一メートルを越す化け物サイズのナメクジの魔物、スティッキースラグ。その見た目は控えめに言ってもおぞましい。

 海外だとナメクジはゴキブリ以上に嫌われているとも聞く。もしもこの魔物が地球に存在していたら阿鼻叫喚になるであろうことは間違いない。


「スティッキースラグでゲロか……? 踏んづけさせて足止めにでも使う気ゲロ?」

「泥で満ちてる状態とかならともかく……さすがに丸見えの状態じゃ探索者も踏んづけてくれないでしょ」

「じゃあどうするゲロ?」

「こうするんだよ」


 麻痺毒が霧散した部屋では、残るもう一人の少年がレッサーリザードを打倒したところだった。

 少年はたどたどしく剣を鞘へと納め、周囲に敵がいないことを確認し、レッサーリザードが恩恵を落とすかどうかを見守っている。


 その隙に、スティッキースラグを差し込む。


「呼び出す座標を選べるってのは結構悪質だよね。こんなこともできちゃうからさ」


 y軸――高さをいじり、魔物を呼び出す場所を指定する。落胆する少年の頭上三メートルのところを指定。満を持してスティッキースラグを選択。

 ポンと現れたスティッキースラグは重力に従って落下。そしてそのままご自慢の粘着力で少年の頭部へとへばり付いた。


『んぐっ!? …………! …………ッ!!』


 少年が暴れるようにもがくもスティッキースラグは剥がれない。建材にも使用されるほどの強粘着性の粘膜は手で払った程度ではむしろ塗り広げる結果にしかならないのだ。


「おー。これは必殺の奇襲として使えるね。ただ、周知された時点で対策されそうだからこれは切り札的な運用にしようか」

「……エグい光景ゲロ。殺してやったほうがいいゲロよ」

「そうだね。あんまり苦しめたら客足に響く」


 というわけでレッサーリザード召喚。少年はずんばらりんと介錯された。入手したポイントは約18,000。素晴らしい。僕はパンと手を打ち鳴らした。


「テスト結果は上々だ。ポイゾナスゲッコーとスティッキースラグを当面の防衛戦力として起用しようと思う。ゲロルグさん、異論はないかな?」

「ゲロは異論ないゲロが……ハジメ様は大丈夫でゲロか……? 中々に人道に背いたやり方に見えるゲロ……」

「弊社の取締役に聞かせてあげたい言葉だね。それに……仕事ってのはどれだけ上手に労基に中指を立てられるかみたいなところあるからさ。ね、イエロー」


 イエローは僕の言葉を肯定するかのように左手の指を動かしカウンターをカチと鳴らした。

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