打球速度は"正義"。日本ハム・横尾俊建コーチが語る打球データ活用法
MLBやNPBの多くの球団で活用が進むラプソード。
近年、プロ野球の現場ではトラッキングデータの活用が急速に進み、投球だけでなく打撃においてもデータをもとにしたアプローチが当たり前になりつつあります。打球速度や打球角度といったデータを可視化することで、これまで感覚に頼る部分の多かった打撃指導にも新たな視点が加わっています。
Rapsodo Japanは、北海道日本ハムファイターズとデータ活用推進のためのパートナーシップを締結しており、今年で2年目を迎えます。このインタビュー企画もその取り組みの一環であり、昨年に続き現場でのデータ活用についてお話を伺いました。
今回は、「ファイターズは打球の計測データを活用してどう選手を育成しているんだろう?」という点についてお話をお聞きするべく、横尾俊建打撃コーチのインタビュー記事をお届けします。
横尾コーチの語るデータを活用した打撃指導について、ぜひご一読ください。
前回の金子コーチインタビュー記事はこちら↓
打球速度と打球角度が打撃を決める
ー横尾さんがデータ活用に興味を持たれたきっかけについて教えてください。
横尾:現役時代に、数値と自分の感覚が合っているのかどうか気になったのがデータに興味を持ったきっかけですね。どの打球速度、角度で打つとホームランになるかというのを知った上で実際に打ってみると、「こんなに角度つけなきゃいけないんだな」と、最初はギャップを感じました。
ー現役時代に目指していた数値とかはありましたか?
横尾:打球速度はマックスで175キロは行きたいなと思って取り組んでいました。打球角度は一番飛距離が出ていた27度を目標にしていました。
打撃練習の中で一球打つごとに「何キロ、何度」と教えてもらって、それを聞いて微調整する。日々自分の感覚とデータをすり合わせていく作業をしていました。
ー指導者になったいま、打球データはどのように活用しているでしょうか。
横尾:チームとしては「平均打球速度」を重要視しているので、コンスタントに打球速度を出すことが大事だと選手には伝えています。
もちろんマックスの高さと平均打球速度との相関はあるので、「マックスを上げなさい」というのは大前提。その中で、マックスが上がっていったら平均打球速度も上がるので、その平均打球速度を求めていきましょうというのがいまの段階です。
ー打撃コーチとして、平均打球速度を上げていくためにはどのような指導をされているでしょうか。
横尾:まずは、除脂肪体重を上げること。これはどうやっても切り離せないものなんで、そこが第一。もう一つは、「ミートポイント」です。意外と選手たちはポイント近めで打ちたがるんですけど、打球速度を上げるとなるとある程度前で打つ必要があります。
前で打つと打球角度も上げられるので、ミーティングでは「なぜ打球速度が必要なのか」という話をした上で、「打球速度を上げるためにはミートポイントを前にする必要がある」と説明しています。
ー打球角度の話も出てきましたが、過去に福岡ソフトバンクホークスの近藤健介選手にお話をお聞きした際には、「20度を目指す」とおっしゃっていました。平均打球速度を上げていく中で、打球角度についてはどのように捉えているでしょうか。
横尾:まずコン(近藤)ちゃんぐらいの打球速度だと20度ってすごい良い数値だなって思いました。私の現役時代は27度を目標にしていましたが、いま自分が選手だったら20度で良かったなと思いますね。それこそ打球速度の速い万波(中正)、水谷(瞬)、レイエスだと27度を目標に打った方がホームランになりやすいです。
長打を増やすために取り組むこととしては、やはりポイントを前にすることです。ポイントが前にならないとスイングのアッパー角度が出ないので、どうしてもゴロになっちゃうんですね。なのでスイングの角度をつけるという意味でも打球速度を出すという意味でも、特に長距離打者はポイントを前にすることはすごい大事だと思っています。
逆に打球速度があまり速くない選手の場合は、角度の方がより重要になってきます。12度から14度の間でヒットになる可能性が高くなるので、その角度でコンスタントに打てるようにするアプローチになりますし、選手も「角度がつきすぎている」「12度を目指そう」という話はすんなり聞いてくれますね。
打球方向とアプローチの最適解。価値を高める引っ張りと対応力をどう考えるか
ー打球速度・角度を重視している中で、たとえば打球方向ごとの打ち分けなどはどう考えていますか。
横尾:これは難しいですね。たとえば万波選手は、去年チームで算出した予測OPSが.800ぐらいでしたが、実際のOPSは.733でした。この下振れの要因は何かと言うと、打球方向の傾向としてセンターへの打球が多いことだと考えました。センターにハードヒットが多くて、結果的にフェンスを越えずに捕られることが多かったんですね。
ですので、引っ張った方が良い効果が得られるというデータをもとに、いまは引っ張り打球を増やす取り組みを進めています。もちろんセンターや逆方向に打てると対応力は上がりますが、ポイントが下がって打球速度が遅くなってしまうので、引っ張ってかつ確率を上げることが一番良いよねと思っています。
ーでは選手のタイプによっては、全部の方向に打ち分けられるようにならなくてもいい。
横尾:必要はないです。逆にライトにホームランを打てるなら、別に引っ張る必要もないですよね。それこそ大谷翔平はファイターズの時に一緒にプレーしていますが、レフトにホームランを打てるので引っ張る必要ないよねとは当時思っていました。ただ、メジャーに行ってすごい引っ張ったホームランを打っているのを見ると、やはり彼も引っ張ることで効果を得てるのかなと思っています。
ー最近だと「プルエアー」と呼ばれる引っ張ったフライが価値が高いと言われていますが、すべての選手がその打球を狙った方が良いと思いますか?
横尾:一人の選手としての価値を上げるなら、どんなバッターでも絶対引っ張った方がいいです。
ただ、野球というゲームの中ではチームバッティングをしなきゃいけないこともシーズン中にはたくさん起きてきます。また全員が全員400打席立たせてもらえるわけではないので、一つの打席で結果を出そうと思ったら、引っ張りだけではなかなか厳しい。
ですので、打球速度が速くなるからと言って引っ張りだけでいいとはならないですし、逆方向に打つ技術ももちろん必要になってくると思います。
軌道や落下地点も確認することができる
ー球種ごとのアプローチについてはどうでしょうか。
横尾:今のパ・リーグだとストレートの平均球速が年々速くなっていて、ストレートを狙わないと打てない状況になってきています。ですので、カウントや状況に応じて真っすぐを捨てて、変化球を真っすぐと同じポイントで打てるようにという練習をやっています。
逆に、真っすぐを待ちながら変化球を打ちましょうというのはないですね。今の平均球速を考えると、もう無理になってきてしまっているので。バッティングカウントでスライダーやフォークを狙うというのは必要になってきます。
たとえ狙いが外れてしまったとしても、それはしょうがないです。ただ、変化球を狙ったならその変化球を引っ張らないとダメですね。
ー平均球速が上がっている中で、速いボールが苦手な選手にはどのような指導をされるでしょうか。
横尾:基本的には速いボールが得意でない選手は通用しないので、特にパ・リーグではストレートが打てるということは大前提になってきます。
ストレートが一番ハードヒットできる確率が高くフォークが一番難しいので、ストレートが来るのが分かったらほとんどハードヒットできるという前提のもと、フォークをどのように角度をつけて打つかということに取り組んでいます。
ファームではよりシンプルで、カウント0-1のストレートをファールにしないでハードヒットしましょう、もうこれだけです。これがクリアできないと一軍には上がれません。それができると次のステップではキャッチャーとの駆け引きが始まって、変化球を狙って変化球が打てるか、変化球を狙って打てればそれ以降はぐるぐるキャッチャーと戦い始める・・というレベルになっていきます。
ファームと一軍で変わるデータ活用。最大値から平均値へ
ーファームでのお話が出てきましたが、去年はシーズン途中にファームから一軍に上がりました。ファームにいる時と一軍とでは、データ活用の仕方も変わってくるでしょうか。
横尾:ファームだとまずはマックスの打球速度を上げなさいというアプローチをしています。一方で一軍だと正確性も求められるので、マックスの打球速度が出てるのは当たり前で、そこから平均打球速度を上げていくためのトライの方が多いです。そこに差はありますね。
ファームではまず自分のポテンシャルを上げていくことから始めて、それができるようになったら平均打球速度も意識するという順番になります。
ーマックスの打球速度を上げるという意味だと、トレーニング的な文脈だと徐脂肪体重の向上が挙げられると思いますが、マックスを上げるための練習方法というのはありますか。
横尾:いま一軍でもファームでも取り入れているのは、打撃練習で5球打ったら交代させるようにしています。何球と決めずにずっと打席に打たせてしまうと、やっぱり惰性になってしまうので。自分のマックスが出せるような数しか打たせないで、そこで全力を出して計測できるよう取り組んでいます。
ー打球速度を求めていく中で、データを見るようになって伸びた選手はいますか?
横尾:宮崎(一樹)選手は変わりましたね。打球速度が遅くてもヒットだったら嬉しいんですけど、そんなヒットは今後続かないよねというのを理解した上で、ハードヒットできたヒットが出始めています。あとは有薗(直輝)選手もそうですね。
平均打球速度が上がって打球角度も安定してきて、「この角度でこの平均打球速度行くと一軍レベルだよ」という話をしながら一緒に取り組んできました。
ー選手に対してデータをフィードバックをする際に、何か気を付けていることはあるでしょうか。
横尾:選手がデータを正しく取り入れることができるように意識して声掛けをしています。
たとえば、角度がついていなくても引っ張ったレフト線の打球って打球速度が速くなるじゃないですか。それを「打球速度出てるからいいや」と捉えてしまうと、試合で結果を出すことが難しくなる。目標となる打球速度だけを見るのではなくて、「じゃあ角度はどうだったのかな」とか「どのコースの球を打ってどういう打球が出たのかな」とか、内容も合わせてチェックします。
ですので、右打者でショートゴロで打球速度が170キロ出ても、「打球速度出てるね」とは言わないですね。ゴロって打球速度が出やすいので、20度以上の打球角度で出た170キロとは価値が全然違うと思っています。
あとは、安定した角度で平均打球速度が出ていても、選手によっては感覚的に状態が良いと思えない選手もいるんです。特に一軍の試合に出るような選手は敏感な選手も多く、何か違和感があるのだと思うのですが。
もちろんデータと感覚が合う人もいますが、選手によっては感覚も大事な選手もいるので、「このデータは言わない方がいいな」と考えて言わなかったりもします。そこはさじ加減なんですけど、日々選手とコミュニケーションを取りながら見極めています。
ー昨シーズン途中から入院した八木裕コーチの代わりに一軍で打撃コーチを務め役割も変わってきたかと思いますが、たとえば選手起用など戦術面でもデータ活用はされているでしょうか。
横尾:今はデータと私の感覚が一致しているので、データそのものを見なくても分かるようになってきました。
ただ、たとえば一死三塁で代打を出すケースを考えると、ホームランバッターを出すよりも、マックスの打球速度は遅くてもコンタクトが良くて平均打球速度が高い選手を使った方が可能性は高いと思っています。それは日々計測を続ける中で感覚的に培ってきたものなので、選手起用の判断がデータに裏打ちされているとは言えるかもしれません。
ー相手ピッチャーの球質から選手を選ぶということもあるでしょうか。
横尾:ありますよ。打球角度が高い選手はストレートのホップ成分の高いピッチャーには相性が悪いので、そういうタイプには打球角度の低い選手を起用することもあります。
ただ、これはレギュラーの選手には当てはまりません。プロのレギュラーだと1打席目に三振をしても4打席の中でアジャストしてくるので、そこは信頼関係ですね。
「打球速度が正義」。データで現在地を知ることから始める
ー最後に、アマチュアでラプソードを使う選手・指導者の皆さまへメッセージをお願いします。
横尾:「打球速度が正義」というのは間違いないです。ヒットになる確率も打球速度と角度で決まってきますので、ラプソードで計測して可視化しないと次の一手が打てないと思っています。
特に高校野球とか選手育成の現場だと、選手の実力や将来性を見極める上でも打球速度はすごく重要です。それに打球速度はいまの私でも感覚だけでは見誤ることも多いくらい、当てるのが難しいんですよ。自分では「この選手は遅いな」と思っていても、データ上は速い可能性もあります。
たとえば、今日 (2/7)の水谷選手のレフトへのホームランは他の球場だったら入っているのかってわかんないじゃないですか。「入るよ」って言う人もいれば「入らない」って言う人もいるけど、データを見るとそれが明らかになる。
横尾:そういうデータでしか見れない打球速度や打球角度と感覚をすり合わせていくのはとても大事になってくるので、まずは計測することで選手の現状をデータで正しく知ることから始めてほしいと思います。
・・・
以上、北海道日本ハムファイターズの打撃コーチ・横尾俊建さんのインタビューをお届けしました。横尾コーチ、ご協力いただきありがとうございました!
公式noteでは、今後も定期的に商品・サービスやその活用方法についての情報を発信していきます。
引き続きどうぞよろしくお願いします!
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