バルグ・メソッドについて
「フランス19世紀におけるデッサンの虎の巻たるバルグ・メソッド、デッサン講座に取り入れ始めたのが8年ほど前なのだけど、ここへ来て正面切って、教室の基本カリキュラムに据えることにした。初学者の導入門として本当によく出来たメソッドだとつくづく感心する」
先日、Xにこのようなポストをしたところ、思いがけず“万バズ“して、驚いてしまった。Xの翻訳機能が充実したせいで海外からのリアクションも多く、バルグ・メソッドがこれほどまでに人々の関心を惹き、広がりを持っているということがまさに驚きと共に実感された。
そのポストに私は次のように続けた。
「バルグ・メソッドは勿論、万能ではない訳だけど、西洋の伝統的な写実の方法が写真と印象派の登場で危機に瀕した際、その建て直しのメソッドとして(14歳向けだという)、そのエッセンスが限りなく分かりやすいかたちに抽出されたものである訳なので、その辺りが現代に響くのではないかと思う。
そのエッセンスというのは2次元座標軸における面すなわち点と線の位置関係とその角度というアルベルティ=レオナルド(あるいはデューラー)的な透視の方法の極めて分かりやすいかたちということ。「虎の巻」と呼ぶ所以でもある。19世紀末の危機に瀕してなりふり構わず開示された「極意」。
20世紀のモダンアートの「イディオム」によって徹底的にダメ出しを喰らったのが、まさにこのバルグ・メソッド的なものであったのは、実はその煎じ詰められたエッセンシャルな方法論ゆえだったかもしれない。70年代末〜80年代初頭の美大予備校(油画科)ではこのメソッドが見事なまでに封印されていた」
「写真と印象派の登場で危機に瀕した際」と書いたが、バルグ・メソッドの刊行と印象主義の勃興はほぼ同時期なので、厳密には「写真術の登場によって写実の絶対的権威が揺らぎ始めた時代に」というべきか。
実際のところ、バルグ・メソッドは最も忌むべき、非創造的な旧弊として、まさに侮蔑語としての「アカデミック」(教科書的でつまらない)の汚名を一身に背負ったような、一言で言えば「悪者」として20世紀いっぱいを肩身の狭い思いで、生きながらえつつ、21世紀に至って、アカデミー絵画の再評価とともに、いわばその中心をなすメソッドの一つとして華々しくリヴァイヴァルしたわけである。あのピカソが、あのゴッホが、これで学んだという鳴物入りで。
ピカソについて言えば、かつては少年ピカソの「神童」性の証として盛んに持ち上げられていたベルヴェデーレのトルソの石膏デッサンが実はバルグ・プレートの模写であったというのがその神話の「オチ」であったわけで、それも象徴的だと思う。それは14歳向けに開発されたものとして、順序立てて取り組めば、誰でも描けるようになるという非常に民主的かつ「脱神話」的なメソッドなのだから。逆に「イディオム」と私があえて呼んだところの、モダンアートの神話にとっては、バルグ・メソッドは都合の悪い封印されるべきものだったわけである。自らが学んだ「お手本」の否定、あるいはその出自の否定ということがその神話の成立条件であったとすれば。ちなみにバルグ・メソッドの監修者はジャン=レオン・ジェローム——印象派から最も激しく攻撃されたアカデミズムの象徴的画家であった。つまり封印されたのは技法だけではなく、その出自ごとであった。
バルグ・メソッドを正面に据えて指導を始めた自分自身の経緯——予備校時代に何が封印されていたか、そして23年の指導の末になぜ今これに戻ってきたのか——その詳細については、また改めて書きたいと思う。
現在、このメソッドをベースにしたオンラインデッサン教室を行っています。ご関心のある方はこちらのnote、またはX(@nas740)のDMにてお気軽にどうぞ。


コメント