生き方の選択肢が広がった現代、「結婚だけが幸せの形ではない」と考える女性も増えています。しかし、それゆえに親世代との価値観のズレに悩むことも少なくありません。今回は、筆者の友人の体験談をご紹介します。
すれ違う父と娘
私が三十代に突入してからというものの、実家に帰省するたび、父は「いつまで独身でいる気だ」「お前が思っているより、女が独りで生きていくのは大変なんだぞ」と、小言を並べていたものです。
私はそのたびに「仕事が楽しいし、友達もたくさんいる。結婚しなくても私は幸せだもん!」と反論し、最後には険悪な空気になるのがお決まりでした。
父は昔ながらの古い価値観で生きている人で、女性の幸せは家庭を持つことだと信じ込んでいました。
対して私は、独りでも自由に、自分らしく生きたいと願っていたのです。
正反対の考えを持つ二人の間には、いつの間にか高い壁ができていました。
遺品の中から見つけたノート
私が四十歳になったばかりのころ、父が急逝しました。
突然のことに呆然としながらも、ようやく日常を取り戻し始めた四十九日のあとのことです。
遺品を整理していた私は、父の書斎の引き出しから、見慣れない一冊のノートを見つけました。
表紙には「独りで生きるための備忘録」という文字。
中をめくると、信頼できる弁護士の連絡先や、老後の介護施設の資料、家の修繕を安心して頼める地元の業者の名前まで、驚くほど具体的なリストがびっしりと書き込まれていたのです。
小言の裏に隠されていた父の思い
最後のページには「本当に結婚しないなら、人一倍の準備が必要だ。お前が困らないように調べておいた。お父さんがいなくなっても、これで大丈夫だ」という一文が、父の力強い筆跡で記されていました。
父が結婚を急かしていたのは、家のためでも世間体のためでもなく、ただ「自分が死んだ後、独りになる娘が困るのではないか」という不安と心配からだったのです。
口では小言を言いながらも、父は心の中では私の覚悟を認め、その生き方を誰よりも真剣に支えようとしてくれていたのでしょう。
独りで歩むための勇気
ノートに詰まった情報の重みは、父が私を想ってくれた愛情の重みそのものでした。
もう父と喧嘩をしたり、お互いの考えをぶつけ合ったりすることはできません。
けれどその代わり、何かに迷った時は、このノートを開こうと思っています。
今、私のスマホの電話帳には、父が書き残してくれた連絡先がいくつか並んでいます。
独りで生きる覚悟は、いつの間にか『独りじゃない』という安心感に変わっていました。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2026年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。