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喧嘩別れしたPが死んでいた話/Novel by Orfèvre

喧嘩別れしたPが死んでいた話

4,369 character(s)8 mins

人生初のSSです。
勝手がイマイチ分かっていないので稚拙な部分が多いかと思いますがご容赦ください。

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初星学園の卒業式は入学式以上に壮大なものであった。

ただ一つ違うことといえば、人数が入学時よりもかなり少ないことだろうか。

激しい競争が行われるこの学園では、卒業して各々のアイドル業へと進んでいけるのは一握り。

特に事務所への所属を希望する者は、実績や知名度の獲得のために留年して『初』やH.I.F.に挑むというパターンも少なくない。

月村手毬は、その類まれなる歌唱能力によって一番星を勝ち取り、事務所への所属が内定した『勝ち組』だった。

しかし、式典に出る彼女の顔はどうも浮かれない。

彼女を悩ませていたのは、およそ10ヶ月前に嘘のように姿を消したプロデューサーであった。

彼女のプロデューサーは非常に親身で、月村手毬というアイドルのためなら自分の生活を削ることすら厭わなかった。

初めこそ彼のその姿勢に恐怖すら覚えていた手毬も、いつしか彼に全幅の信頼を寄せるようになっていった。

そんな彼が、急に消えたのだ。

あの日以降、彼女は食事の時ですらあまり元気がない。


(プロデューサー、やっぱり来なかったな…)

(何やってんだろう、私を差し置いて)


式典を終えた手毬が悶々としていると、あさり先生に呼び止められた。


「月村さん、ちょっといいですか?」

「…はい、何でしょう?」

「ここで話すのも何ですし、教室で…」


先生に言われるまま、空になった教室へ移動する。

この前まで喧騒に満ちていたはずだが今はその面影もなく、寧ろ寂しさすら感じられた。

そっと椅子に腰掛ける。


「いきなり本題から入りますが、」

「◯◯(P)くんのことなんですけど…」


ちょうど思案していたことを話題にあげられ面食らう。

彼が今どこで何をしているのか、さっぱり見当がつかない。

もしかしたら、どこか遠くで別のアイドルのプロデュースでもしているかもしれない。

そう思うと、何だかどうしようもない怒りが込み上げてきた。


「ああ、あいつ?忘れる訳ないよ」

「必死にプロデュースさせてくれって頼んできたくせに捨て台詞吐いてどっかに消えてさ、無責任なやつ」

「彼は学校から消えて正解だったんじゃない?」


唇が勝手に動く悪癖は、未だに彼女を煩わせ続けていた。

それを静かに聞いていたあさり先生が、岩の戸を人力で開けるようにゆっくりと口を開く。


「…実は彼、数ヵ月前に亡くなっていて」

「…は?」


何を言っているか全く理解できなかった。

今まで姿を消して、散々私を悩ませたプロデューサーが、もう死んでいる。

そんな最悪の後出し虫拳を、彼女の脳はそう簡単には受け入れなかった。


「なっ…え?何を、急に、いまさら」


手毬の脳内に別れ際のプロデューサーの姿が鮮明に浮かび上がる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


高3の夏を迎える直前のことだ。

元々はほんの些細なことだった。

いつものように手毬が失言をして、いつものようにプロデューサーに諌められる…

そのはずだった。


「貴方の態度にはもううんざりです。これ以上我儘には付き合えない」

「は?何それ?」

「私だって好きであんな事したんじゃ」

「いや、言い訳は聞きたくありません」

「もう終わりにしましょう。私は貴方の行く末を見てられない」

「契約破棄です」

「…あっそう。勝手にすれば?」

「私も、こんなにぐちぐち言ってくるプロデューサーなんて必要ないと丁度思っていたところです」


結局、いつものように虚勢を張る。

プロデューサーならいつものように真意を汲み取ってくれるだろうと思っていた。

今思えば、『いつも』と違ったのはプロデューサーだけだった。


「…じゃあ、さようなら。もう会うこともないでしょう」


プロデューサーが激しくドアを閉め、教室の中には乾いた音と手毬だけが取り残された。

しかし異変に気付かなかった手毬は、いつもより厳しいプロデューサーの態度に、


(今日はちょっと厳しいな…朝ごはん抜いてたのかな?)


と思う程度であった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


回想から意識が戻り、未だ夢現の状態で先生に問いかけた。


「プロデューサーはどうして…死んだの」

「膵臓がんだったようです」

「月村さんと離れて学校を辞めた時には、既に末期だったようで…」

「ぇ…ぁ…」

(そんな…プロデューサーがもう居ない…?)

(てっきりただタチの悪い悪戯をしているだけだと…)

(私のせいだ…私が悪い子だったから)


激しい自責の念に駆られていると、先生がそっと何かを手毬に差し出した。

「…月村さん、これを」

「これは、手紙…?」

「◯◯くんから預かっていたものです」

「『月村さんが無事に卒業したら渡してくれ』、と」


半分夢を見ているような心持ちで、そっと手紙を開く。

プロデューサーの字は相変わらず綺麗だ、そう感傷に浸った。



「月村さん


ご卒業おめでとうございます。

この手紙を読んでいるということは、無事にトップアイドルになることが出来たようですね。おめでとうございます。

そして…俺はもうこの世に居ない。


病気のこと、黙っていて申し訳ありません。

俺が患った膵臓がんは厄介なことに末期にならないと症状が出ないようで、気づいた時にはもう手遅れな状態でした。

ただ、アイドルとしての実力を勢いよく伸ばし続けていた月村さんにとってこの話はレッスンの邪魔になるのではと考え、あのように離れる選択をしました。


別れ際に捨て台詞のようなものしか言えなかったことは反省しています。

気持ちに余裕がなかったとは言え月村さんにいらない傷を負わせてしまった。本当にごめんなさい。


スカウトしてから月村さんと過ごした3年弱は、プロデューサーとして最高の時間でした。

月村手毬という、才能と自信に満ち溢れた最高のアイドルをプロデュースできたことは、俺の人生最大の誇りです。


あなたはこれから、アイドル界を席巻する存在となっていくでしょう。

でも決して驕らず、精進を重ねていってくださいね(ラーメンは程々に)。

私はいつまでも月村さんを応援しています。


◯◯」



ボールペンで整然と書かれた字面には、確かにプロデューサーの面影があった。


色々な思いが込み上げてきて涙が出そうになるが、泣かない。


「先生、ありがとうございます」


私は昔のように幼くない。

得意の虚勢で自分を奮い立たせながら掠れた声で先生に礼を言う。

虚無感が拭えないまま手紙を直そうとしたとき、裏側に鉛筆で何か書いてあるのが見えた。




俺が月村さんをトップアイドルに導きたかった

自分の眼で一番星を掴み取る月村さんを見届けたかった

悔しい 悔しいよ

ごめんね、月村さん



本文とは裏腹にかなり乱れた字だった。

これがプロデューサーの本当の思いなのだろうと、手毬は直感で理解した。

意図せず、手指が湿る。

いつの間にか涙が止まらなくなっていた。

既に精神的に限界だった手毬に、この言葉は深く突き刺さった。


「うっ…うっ…ぷろでゅーさぁ…」

「…月村さん」


あさり先生がさらに住所の書いた紙切れと、かつて没収したプロデューサーの写真を手渡す。


「プロデューサーくんが眠っているところです」

「ぜひ、会いに行ってあげてください」

「うっ…ぐす…」

「…待っててね、プロデューサー」

「いま、会いに行くから」



数日して。


「…ここだね」

「会いに来たよ、プロデューサー」


プロデューサーが眠っている霊園は町外れの丘にあった。

自然豊かで標高も比較的高く、街全体を見下ろすことができた。

プロデューサーの苗字が刻まれた墓石を見つけると、丁寧に表面を磨き、彗星蘭を供えた。

美鈴のアドバイスを受けながら手毬自身が選んだ花だった。

一連の行程が終わったのち、汗を拭って静かに手を合わせる。


(…お久しぶりです、プロデューサー)

(先日卒業して、春からは事務所に入ることになりました)

(一番星を獲ったこともあって、待遇もかなり融通してもらえました)

(…プロデューサー)

(私が今こうしていられるのは、あなたのおかげです)

(いつも言葉足らずで、そのせいで色んな物を失って)

(でも、上を目指すためには仕方ないって諦めてた)

(それを全部拾い上げてくれたのがあなただった)

(こんな私を理解してくれて、親身に支えてくれたのがとっても嬉しかった)

(でも…だから、プロデューサーにはいっぱい迷惑を掛けてしまった)

(プロデューサーと別れたあの日だって、きっと私の真意を分かってくれるだろうって甘えて)

(結局、一番大切なものを失った。あまつさえそのことに長い間気付けなかった)

(一番星を獲ったあの時、プロデューサーと喜びあいたかった。プロデューサーに褒めてほしかった)

(トップアイドルになった私の歌声を、あなたに聴かせたかった)

(でも、それももう叶わない)

「…会いたいよ、ぷろでゅーさぁっ…」

「話したいことが、沢山あるのに…っ」


本音と共に、涙が溢れた。

それが何を思っての涙なのか、最早自分でも分からなくなっていた。

ただ、プロデューサーへの想いがとめどなく溢れ出していることだけが確かだった。



感情が落ち着き、涙を拭いきった頃には、先ほどまで天高く昇っていた太陽が傾き始めていた。

帰り際、手毬は墓前に先生から返してもらった写真を置き、2つのストラップを掛けた。


青い鈴と、白い鈴。


鈴の音が綺麗な和音なのが特徴で、以前プロデューサーと出かけた時にお揃いで購入したものだった。


(…私はもう子供じゃない)

(胸が痛いけど、この痛みに向き合っていかなきゃいけない)

(前に進むんだ)

(次プロデューサーに挨拶する時は笑って話ができるように)

「またね、プロデューサー」


そう言葉を残し、立ち上がって背を向けた。

その瞬間だった。

丘の上からいきなり強い風が吹き、思わず足に力を入れる。

背後では、風に揺られた美しい2つの和音が鳴り響いていた。


プロデューサーに「頑張れ」と、背中を押されているような気がした。


風を受けながら、走り出す。後ろは振り返らない。


必死に踏み出す一歩こそが、輝ける未来へと繋がっていくのだから。

Comments

  • 1

    久しぶりにpixivの小説でガチ泣きした 素晴らしい作品をありがとうございます!

    May 31, 2025
  • ミリゃりゃりゃりゃー

    流石に泣いた

    April 3, 2025
  • かなた。

    泣いた

    October 3, 2024
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