2020年、NHK大阪放送局の番組で、成人の境界知能の人の生きづらさについて特集されました。私は番組からコメントを求められたことで、はじめて境界知能について調べることとなりました。
最初は「診断名ではないし、経験もなく、コメントは難しい」とも考えていましたが、日本発達障害連盟の理事(医学担当)としての発言を求められたこともあり、臨床経験を振り返って考えてみました。
その結果、精神疾患、不登校、いじめの被害、身体不調で受診している患者さんの中に、境界知能の人が多数含まれ、正常と考えられる知的機能の人や軽度知的障害で公的な支援を受けている人に比べて、臨床でかかわる期間や頻度が多い傾向にあることがわかってきました。
NHKの番組の反響は大きく、境界知能当事者と思われる人や家族からの意見、また福祉、人権、心理、医療の立場から支援の困難さに直面している職種の人からも問い合わせが増えました。そのような人たちに応えるべく、自身の考えや現状をまとめて講演なども行ってきました。
それでもまだ、境界知能について広く知られていません。そこで、境界知能の人たちの実態をしっかり知っていただくために、この本を書くことにしました。
本書の構成
本書は、3章で構成されています。
第1章は、境界知能とは何か、知的障害との連続性についての解説です。第2章は、私の臨床経験を振り返って、境界知能の具体的な事例を紹介します。第3章は、海外の潮流や国内外の取り組み、今後の課題などをまとめました。
巻末には用語解説と境界知能が疑われる様子のリストを載せました。そもそもこの国で境界知能についての書籍はほとんどありませんが、事例と用語解説とリストは本書の大きな特徴であると自負しています。