2023年に設立された米新興企業=Aeonはナプキンの落書きから自社生産体制の確立までを9ヶ月間で成し遂げた「モジュール式戦術兵器システム=Zeus」の目標生産率について「年1万発超」と明かし、急速に脅威が変化する現代戦においてソフトウェア定義型兵器の柔軟性が重要だと説いた。
参考:U.S. startup Aeon prepares revolution in tactical missiles
参考:Ukrainian drones to get U.S.-made Zeus guided missile
ウクライナでの失敗はゼウスの脆弱性を修正するのに、実戦での戦果は米軍採用を勝ち取るのに役立つだろう
ランド研究所は「米諜報機関や米軍の上層部が習近平主席が2027年までに台湾統一の準備を整えるよう指示したと公に警告している」「習主席は2027年までに武力統一という選択肢を手に入れたいのだろう」「一方の国防総省は2027年もしくは以降に中国の軍事的アプローチを確実に否定できると示せていない」「2027年までに新しいアプローチや新しい調達に資金を投じるにはギリギリのラインで従来発想で問題に対処するのは時間切れだ」と指摘。

出典:China Navy
台湾海峡を舞台にしたウォーゲームでも「米軍の勝利が困難」もしくは「勝利のコストが高すぎる」と示唆されており、ランド研究所とSpecial Competitive Studies Projectは「どのようなアプローチなら問題を数年以内に改善できるか」を共同で模索し、これが過去のウォーゲームと異なるのは「シリコンバレーの経営者や技術者が戦略家や専門家とは異なる視点とアプローチで問題改善に取り組んだこと」「提示された改善策は全て既存の技術で構成されている」という点にあり、この改善策をウォーゲームで評価した米豪台の文民・軍人は「有望である」と認めた点だ。
Atlantic Councilが2022年に設立したディフェンス・イノベーション導入委員会も2024年1月「国防総省の時代遅れな調達プロセスが『革新的な技術の統合』や『機敏な新興企業との協力』を妨げている」「米企業は技術的優位性を発揮し続けているものの国防総省が『より速いスピード』で調達・配備しない限り、このイノベーションは戦争抑止に殆ど役立たない」「国防総省が民間ベースのイノベーション採用に苦労しているのは『柔軟性に欠ける調達計画』『それを実行するスケジュール』『新しい技術に関する知識不足』『防衛産業基盤の縮小』に関連している」と指摘。

出典:Anduril
“国防総省の要求要件と調達プロセスは「研究開発における世界最大の資金提供者」であった時代に合わせて設計されたものだ。現在の研究開発に占める連邦政府の割合は20%を下回り、国防総省のやり方はイノベーションを牽引する立場から追いかける立場に転落した現実に適応していない。もう重要な技術開発の大半は民間が牽引しており、非商業的な研究機関によるイノベーションは商業化や普及に結びつくことがなくなった”
“もはや研究開発を牽引する資金提供者の立場は国防総省から民間企業に移り、潜在的な脅威、技術的な飛躍、戦闘概念の進歩、マクロ経済やサプライチェーンの混乱といった変化はどんどん加速しているにも関わらず、国防総省は10年以上前の要求要件で作られたシステムを調達している。ハードウェア中心の調達モデルは変化の速いソフトウェアの進歩を効果的に統合できない”

出典:Jake Paul
こうした提言を硬直した防衛産業に持ち込んでイノベーションを起こしているのがAndurilやShield AIといった新興企業で、これらに共通するのは大まかに「①アイデアを素早く形にしてみせる力」「②時代遅れの軍事技術ではなくデュアルユース技術でシステムを構築する力」「③ハードウェアではなくソフトウェアで違いを作り出す力」の3点になり、どれも伝統的な防衛企業が不得意とするものばかりだ。
2023年に設立されたばかりの新興企業=Aeonも「ソフトウェア定義型の兵器開発」と「シリコンバレー流のスピード開発」を掲げており、国防総省や中小企業庁と協力して安全保障に不可欠なクリティカル・テクノロジー(重要技術)を持つ企業に資金を供給している投資会社=Rochefort Venturesのカイル・バス最高経営責任者は3月20日「Aeonの新型肩撃ち式ミサイルの発射試験が成功した」「これほど短期間で大きなマイルストーンに到達したAeonのナウィード・タフマス最高経営責任者と彼のチームの功績は極めて大きく驚くべき結果だ」「このシステムはジャベリンと比較して90%以上のコスト削減を実現している」と言及。
これはAeonが開発を進めているモジュール式戦術兵器システム「Zeus(ゼウス)」のことで、タフマス氏はゼウスについて3月1日「ナプキンの落書きから誘導ミサイルの飛行試験、そして垂直統合=自社生産体制の確立までを9ヶ月間で成し遂げた」「現在の戦術兵器のラインナップは30年以上も前のもので時代遅れだ」「Aeonは現場の兵士と直接連携して現代的で高度な兵器システムを構築し、彼らの攻撃能力を高める」「我々は信管、推進剤、固体ロケットモーター、点火装置、制御駆動システム、各サブシステムを全部自社で内製している」「これにより安価な兵器を圧倒的な数で提供することが可能になった」と述べていた。
Defence Blogの取材に応じたタフマス氏はAeon設立理由について「ウクライナで目の当たりにした状況、つまりコスト、規模、適応性の重要性に気づいたからで、脅威と戦術は急速に変化しているためシステムもそれに追随し、常に時代の先を行く必要がある」と、ドローンではなく精密戦術兵器に参入した理由についても「多くの新興企業がドローン分野に集中したため、この市場はすぐに混雑した」「だから誰も参入していない精密戦術兵器に目をつけた」「米国の戦術弾薬は実質的に数十年間なにも進歩してない」「30年~40年前に設計された無誘導兵器や旧式システムに依存したままだ」と言及。

出典:U.S. Marine Corps photo by Cpl. Jennessa Davey
ゼウスの重量は無誘導のAT4と同じクラスだが、精密誘導が可能なので性能的にはジャベリンに近く、タフマス氏も「ゼウスは無誘導兵器と対戦車兵器の両方より優れた能力を提供しながら、遥かに優れたコスト(1ユニットあたり5万ドル=約790万円)で大量生産できるため、精密戦術兵器が抱えているギャップを埋めることができる」「ゼウスは高度なモジュール性とソフトウェア定義の適応性に基づいた設計原則で構築した」「この2つの設計原則は独自開発したソフトウェア定義型のODINが基盤になっている」「このODINこそがゼウスと競合システムの明確な機能差になっている」と説明。
ゼウスはODINによって複数の標的モード、視線外戦闘、迅速なソフトウェアのアップグレード、ATAKベースの発射機能、戦場指揮統制ネットワークとの緊密な統合などが可能になり、とりわけ重要なのはソフトウェア定義兵器の真骨頂ともといえるODINを通じた機能拡張=新たな任務セットの追加が容易であるという点で、ハードウェア定義型兵器に新たな任務セットを追加するには大規模な開発プログラム(Block2やBlock3の開発)が必要になり、急速に脅威が変化する現代戦において機能追加がBlockに縛られないソフトウェア定義型兵器の柔軟性こそ「最も不可欠な能力」だ。
さらにタフマス氏は「Aeonの提案において生産戦略は兵器の技術仕様と同じぐらい中心的な要素となっている」「従来システムは固体ロケットモーターや信管といった主要コンポーネントを外部調達に頼っているが、我々は主要内部コンポーネントの生産を垂直統合している」「この生産アプローチこそがコストの直接制御を可能にし、大規模防衛プログラムを混乱させてきたサプライチェーンの脆弱性からプログラムを保護するものだ」「ゼウスは初めから生産性を考慮して設計され脆弱なサプライチェーンへの依存が低い」「年1万発超という目標生産率も当初設計から織り込まれていたもので後付けの目標ではない」と主張している。
非常に興味深いのはAeonがゼウスを「対戦車兵器」ではなく「戦術兵器システム」と呼んでいる点で、ゼウスはモジュール式のペイロードを工具なしで交換できるため「多目的に使用可能な肩撃ち式のミサイルプラットホーム」と呼ぶべき存在だが、タフマス氏もゼウスと既存システムとの比較を拒否し「ゼウスは従来システムの単なるコピーとして意図されたものではない」「ジャベリンやアケロンと直接競合するシステムでもない」「ゼウスは従来型システムからの根本的な脱却を意図するシステムだ」と述べており、ゼウスを旧時代のハードウェア定義型兵器と比較すべきではないという意味だろう。

出典:GuillaumeFrantz/CC BY-SA 4.0
ちなみに、Aeonはゼウスに関して国防総省との間に8桁規模の契約(1,000万ドル以上=最低でも15億円以上)を確保しており、これは米軍がゼウスの評価段階を終えて「本格的調達に移行している」と示す兆候で、ゼウスがハードウェア定義型兵器のジャベリンやTOWを駆逐できるかどうかは装備調達の官僚主義を克服し、政府から正式承認を取り付けて大規模生産における信頼性を実証できるかどうかにかかっているが、この点についてもタフマス氏は「米軍の戦術兵器備蓄は長年停滞したままで、ウクライナで明らかになった戦場の条件はこれ以上の停滞を容認できないだろう」と述べている。
Aeonは実戦でゼウスの能力を実証するためウクライナ最大手のドローン企業と提携してクアッドコプターへのゼウス統合を進めており、別のウクライナ企業とも有人車両、無人車両、無人水上艇への統合を進めているらしい。ウクライナでの失敗はゼウスの脆弱性を修正するのに、実戦での戦果は米軍採用を勝ち取るのに役立つだろう。

出典:nt
追記:ジャベリンは1発あたり20万ドル~25万ドル(3,000万円〜3,750万円)で、カイル・バス最高経営責任者がゼウスについて「ジャベリンと比較して90%以上のコスト削減を実現している」と言及したため「ゼウスの価格は約2万ドル程度になる」と報じられたが、今回の5万ドルはタフマス氏自身の発言だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Aeon















具体的な兵器としての相違点や、性能はわからないが、従来の物の1/5の価格で大量生産が出来るんなら間違いなく革命的ではあるな
続報が楽しみな兵器
既存のハードウェア定義型兵器との最大の相違点はカタログ上のペイロード、射程、貫通性といったスペックではなく、新たな任務セットを追加する大規模な開発プログラム(Block2やBlock3の開発)が不要というソフトウェア定義型兵器の柔軟性だと思います。
ものすごく簡単に言えばハードウェア定義型兵器はスマホ本体を新しく作り直してハードウェアベースで新機能を追加するやり方、ソフトウェア定義型兵器はスマホのOSやアプリをアップグレードすることで新機能を追加するやり方に近いかと思います。
デジタルエンジニアリングを活用〜で惨憺たる結果を積み上げた従来との違いがまるでワカラン
兵器の低価格革命が起きているというより
今までメーカーはボッタクる為にワザと無駄に高価で複雑な兵器を造ってて
それがようやく適正値になったってだけなのでは?
ここまで進歩が早いと、設計と生産を分けないと生産工場の費用でコケる可能性が大きくなっていくんじゃないのかな?
『クアッドコプターへのゼウス統合』さらっと、えげつない事が書いてますね。
ドローンから、安価な対戦車ミサイルが発射される時代というのに、戦争による武器の進化の速さだなあと。
再使用可能なものの、安価なので墜落してもいいわけですから、(人命リスクを無くしながら)ドローンが運搬する距離の射程も延長してるようなものなので革新的ですね…。