競泳水着バニーと復讐
チンアナゴ(かたゆで)
競泳水着バニーと復讐
一、人を殺す事を工夫すべし。刃にてはヶ様のさま、毒類にては云々と云う事を暁るべし。乞食などは二三人ためし置くべし。
『英将秘訣』(作者不明。一説には平田派國學者の作とも言われる。)
1
夏の鋭い陽光が街に降り注ぎ、うだるような暑さだった。
「うー、暑いよー……」
艶やかな黒髪をふたつ結びにした小柄な少女はぼやきながら、トボトボと焼けつき、陽炎が見えるアスファルトの歩道を歩いていく。
オフショルダーのシャツにミニスカートという出立ちで、幼いながらも線が細く整った顔をハンカチで拭っている。暑いのに薄いニーハイを履いているのは本人のこだわりだった。
少女は暑さを避けるように、歩道の木陰に極力入りながら寂れた路地に入った。日差しは古い家屋と電柱に遮られ、幾分か暑さは和らいでいるが、蒸し暑さは相変わらずだった。
道脇の古びた二軒の家に挟まれた小さな公園に入ると、木陰のベンチに崩れるように腰掛けた。
「やっと着いた……」
少女はハンドバックを膝に置いて、項垂れる。溜息を吐き、木陰から覗く太陽を、眩しそうに目を細めて見上げた。
しばらくして、一台の黒のトヨペットクラウンが公園前の道に止まった。
少女はバッグを持ち立ち上がると、クラウンに向かって歩いていく。車内はスモークガラスなのか、外からは見にくい。
少女はなんでもないように乗り込もうと、後部ドアを開けた。
瞬間、身を沈ませながら右手でミニスカートの裾を跳ね上げて、太腿に固定されているガーターベルト型ホルスターから小型自動拳銃を目にも止まらぬ早さで抜き出した。同時に薄いニーハイに包まれたスレンダーな太腿と、彼女の外見とは裏腹の赤いショーツが大胆に曝け出される。
手の平に収まるほどの、丸いフォルムをしたベレッタM950ジェットファイア自動拳銃だった。
目の前の後部座席に座っている背広の男の脇腹にスライドから露出した銃口を押し付け、小さなセイフティを親指で押し下げる。
男の手には流麗なスライドのワルサーPPK自動拳銃が握られ、今まさに少女に向けられようとしていた。
「こういう人を試すような態度は感心しませんなー」
少女は棘がありつつもおどけるように言って、背広の男からワルサーを取り上げ、左手で握った。セイフティはかかっておらず、ハンマーダウンの状態だったが、ダブルアクション機構なので、そのまま引鉄を引けば撃てる。
銃を取り上げられた背広の男は平生を装っているが、冷や汗をかいているのが少女には感覚的に分かった。
「試すような事して、申し訳ありません。新谷さん」
新谷と呼ばれた少女の大きな瞳が、獲物を狙う狩人のように鋭く光った。助手席の声の主に視線を移し、ワルサーの銃口を向ける。
金髪碧眼の若い女が、美しい横顔を見せていた。顔立ちからハーフなのか、肌は陶磁器のように白く綺麗だった。
「新谷って名前をどこで知ったか知らないけど、それは前の仕事で使った偽名なんだよね」
「そうなんですか……なんとお呼びしたらよろしいかしら?」
「多分調べはついてると思うけど、赤池と呼んで。この稼業だとそれで通ってる」
「分かりました、赤池さん。私は国府宮千鶴といいます。千鶴と呼んでください」
「……よろしく」
赤池はボソボソと挨拶すると、こちらを見ようともしない運転手の男や銃を取り上げた男にも視線を配り、警戒を怠らなかった。
「……警戒されるのも当然ですね。私が後部座席に移りますから、目的地に着くまで少しお話をしましょう」
赤池の様子を見て、千鶴は助手席を出ると、男が座っている後部座席のドアを開けた。男は赤池を一瞥して、少し迷った後に千鶴に席を譲るために下車した。
千鶴は入れ替わりで乗り込むと、赤池に穏やかな微笑をする。背格好は赤池と良く似ていたが、上品で大人びたな雰囲気があった。
「これで、何かあっても私をすぐ撃てます」
「……」
赤池は表情を変えずに黙ってベレッタの小さな銃口を千鶴に向けていた。
ワルサーを取り上げられた男が乗り込むと、クラウンは発進した。車窓に眩い太陽光が降り注ぎ、白く染めているように見えた。
「殺して欲しい人が4人居ます。全員、生きる価値の無い悪人です」
「前に殺したガキもそんな奴だったな」
「赤池さんは確かプールで殺したとか。清掃の手間は省けました?」
「……ふーん、そこまで知ってるんだ。着てきた制服がゲリラ豪雨でびしょ濡れになったのを除けば、手間は省けたかな」
「今回は清掃の手配もこちらで行います。もちろん、代金もこちらで」
「ありがたいねぇ。じゃあ、その四人を消す時期と場所だけど……」
「四人とも、誘い出してとある場所に閉じ込めてます」
「……はい?」
「なので、場所と時期は気にする必要はありません」
赤池は訝しげに目を細め、千鶴を見つめる。千鶴は気にせずに飄々として、流れていく街並みを眺めている。長い金髪の髪に陽の光が反射して美しく輝いた。
「そこまでやってて、私に依頼?」
「ええ」
「……怪しー」
赤池はうんざりしたように言って、天井を仰ぎ見る。
千鶴は意味深な微笑を浮かべたまま、蒼い瞳を光らせていた。
2
「三人はこの廃旅館のある敷地内に閉じ込めてます。塀と有刺鉄線で囲われていて、彼らが逃げることは不可能ですね」
「……あの」
「武器は彼らも持っているでしょうが、あなたの実力なら倒せるでしょ?」
「ちょっと待って……」
「報酬は……」
「話聞いてぇ?!」
千鶴の一方的な話に、赤池の悲鳴混じりの突っ込みが廃墟の旅館の一室に響く。モニターと机、ロッカーが置かれた、元は事務室として使われていたであろう無機質な部屋に、赤池と千鶴と部下の二人の男が居た。
「これ何?!」
赤池は勢いよく部屋の一角を指さす。
「マネキンよ」
「それは分かるんだけど! な、何この格好?」
赤池は声を震わせる。
のっぺりとしたマネキンは女性の体型のものだったが、頭部はウサ耳のカチューシャ、首にはチョーカー、胴体はハイレグの競泳水着が着せられ、足にはニーハイを履かせられていた。競泳水着はパッドが入っていないのか、マネキンの乳首が盛り上がっていた。
明らかに場違いで、異様なものが置かれている。
「競泳水着バニーよ」
「きょ、競泳水着バニー……?」
千鶴が何でも無いよう答えるのに対して、赤池は呆気に取られながら千鶴とマネキンへ視線を往復させた。
「まさか、これを私に着て仕事しろとは言わないよね?」
「おっしゃる通り。連続殺人犯の少年を赤池さんが競泳水着を着て、プールの中で殺した状況は同じです」
「くっ……さっき話したけど、死体の処理とか考えたら、ああなっただけで……」
「つまり必要ならば、この競泳水着バニーでも問題無いと……」
「問題大アリだよ! これで殺したらただの変態だがねっ……」
赤池は名古屋弁が一瞬出たが、ハッとしたように目を大きくして、口を噤んだ。千鶴は見透かしたように薄く笑った。
競泳水着を着て殺人を行ったのと変態度合いはあまり変わらない。
「そもそも、何で私がこんなの着なきゃいけないの?」
「……仕事に関する情報は最低限しか聞かない、とあなたの組織の元締めさんから聞きましたが」
「はあ……元締めもよくこんな話を受けて私に紹介したな……」
赤池は溜息混じり呟く。
「ふふ……安心してください。報酬なら十分払います」
「ふん。私はこの稼業にプライドを持ってるからね、いくら現ナマ積まれても易々と依頼を受けないよ」
赤池はそう言って、不敵に笑った。
3
「こっちも商売だからね、死んでもらうよ」
「……ほざけ!」
少女の言葉に柄シャツの男は山刀を構えつつ応えた。
目の前の前に立っている少女は、競泳水着を着てバニーのカチューシャを頭に着けている。小さめの肌に張り付くような競泳水着と薄いニーハイによって、小柄ながらもスタイルの良い肢体が強調されていた。
稼業にプライドを持っていて、現ナマを積まれても易々と依頼を受けないはずの赤池だった。
右手には特殊鋼で打たれた軍刀の井戸秀俊が握られている。すらりと伸びた刀身の乱刃の刃紋が、竹林の隙間から漏れた陽光を浴びて白く光っている。
そして、彼女の形の良い胸の下には、四角い機関部から銃身が飛び出すような形状のマドセンM50短機関銃がスリングで吊られていた。鞘も弾嚢も肩から斜めがけしている。
赤池は軍刀だけで戦うつもりで、短機関銃を背中に回した。
「こんなふざけた格好のガキに殺されてたまるか!」
柄シャツの男はそういうと右手に握った山刀を掲げながら、青竹を縫って突進してくる。
「……ふざけた格好で悪かったね」
赤池はそう言って、井戸秀俊の軍刀を正眼に構えた。頬を理不尽と羞恥に赤く染めながらも、殺意のこもった瞳は男を射抜くようだった。
「死ね!」
近接してきた男は獣じみた叫び声をあげ、山刀を打ち下ろすように右袈裟を掛けてきた。技も何もない、力だけの振り回すような動きだ。
赤池はバネのように左に飛び、山刀を避ける。二つ結びの黒髪が華麗に舞い、チョーカーの金具が光った。
外れた山刀はすぐ側の青竹を甲高い音と共に斬り倒す。
赤池は薄く笑うと、前のめりになっている男に向かって軍刀を上段に振り上げ、二足一刀で左袈裟をかけた。
「……ッ!」
男は信じられぬというように目を見開き、同時に何かを思い出したような絶望に表情が歪んだ。
赤池は男の表情を見て、一瞬だけ疑問が浮かんだが、その感情は殺意によって押し流された。
冷たく光る白刃は、首筋の肉に入り、骨ごと断ち斬る。高炭素の特殊鋼で打たれた井戸秀俊は強靭で、鋭い斬れ味を見せた。
白い骨と赤い肉が露出し、断ち切られて垂れ下がる血管から噴水のように鮮血が飛び散る。
同時に男の背後の青竹も切り倒されながら吹っ飛び、血濡れの男の首と共にガサガサとバウンドした。
「私も好きでこんな格好してないんだが?!」
赤池は叫ぶと、井戸秀俊の血振りをして、そのまま切先を地面に突き刺した。
両手で薄いニーハイにかかった土埃を払うと、マドセンを前にし、スリングを伸ばして腰だめに撃てる状態にする。折り畳まれたワイヤーストックも伸ばした。
地面に突き刺さった軍刀引き抜いて、首を飛ばされた男に近寄り、柄シャツの端で血のこびりついた白刃を拭うと、左手に軍刀の柄を持ち替えた。
「あと三人か……はぁ」
赤池は深く溜息をつき、目の前の廃ビルに向かう。ブーツで雑草と湿った土を踏みしめながら、昨日の千鶴とのやりとりを思い出す。 結局、赤池は金では依頼を受けないと啖呵を切ったものの、法外な額に目がくらみ、依頼を渋々受けてしまったのだ。
「金払いは良いし、上手い話には裏があるとも思ったけど……」
赤池はそう呟いて、自嘲気味に唇を歪め、男の首を飛ばした時の感触を反芻する。
幼くも整った顔に翳が落ちる。
体の一部が火照り、濡れているのが分かった。
金も魅力的だったが、赤池は殺人依存症だった。殺しのスリルに性的興奮を覚える性質なのだ。
赤池は舌舐めずりをして、乾いた唇を潤した。
4
赤池はマドセン短機関銃の黒々とした銃身を前方に指向しながら、廃墟の旅館の渡り廊下を進む。左手に握った井戸秀俊の軍刀は切先を下にして、注意深く周囲に目を配る。
ウサ耳がひょこひょこと揺れているのは可愛らしいが、身につけている軍刀と短機関銃によって不気味で妖艶な雰囲気を纏わせている。
赤池は色褪せた赤絨毯の上を歩きながら、雑草や苔が覆う荒れ果てた日本庭園を見る。
夏の鋭い陽光が緑を色鮮やかに照らしていた。
「あとの三人はどう出るかな」
赤池は横目に庭園を見ながら呟き、軍刀を握った左手を尻に伸ばして、競泳水着の食い込みを小指で器用に直した。
その時、目の前の屋根を支える木の柱が、轟音と共に抉られた。目の前で爆発が起こったように赤池には見えていた。
「っ……!」
赤池は歯を食い縛りながら咄嗟に伏せた。吹き飛んだ木片が頭にバラバラと落ちてくる。
乾いた射撃音が木霊し、その度に土煙や木片の粉煙で目の前が霧に包まれたようになる。
散弾銃で狙われているらしい。
射撃音の方向に素早く目を向けると、離れと思しき建物の二階の窓から黒い銃身が伸びているのが見えた。狙っているのは四十代くらいのキツネ顔の男だった。
「舐めやがって……」
赤池は低く罵ると、短機関銃を後ろに回し、薄汚れた絨毯の上を匍匐前進をしながら進む。渡り廊下の両側に伸びている腰までの高さの厚い木板が遮蔽物となって、バックショットの直撃を防いでくれている。
赤池は射撃が途切れた瞬間、軍刀を絨毯の上に置いて中間姿勢をとった。背中に回していたマドセンを前の持ってきて、32発弾倉の基部を左手で握りこみ、長方形のワイヤーストックを肩付けした。
狙いはあまりつけずに、引鉄を絞りながら標的の窓に銃口を振った。
低連射の乾いた射撃音とともに、白い閃光が煌めく。排莢口から驟雨のように撃ち殻薬莢が乱れ飛び、絨毯の上で跳ね回った。
弾痕が離れの外壁にミシンのように刻まれていき、窓を捉えた。
フランキのスパス12自動散弾銃にバックショットを装填していたキツネ顔の男は、9ミリルガー弾に喉と頭部を何発か撃ち込まれた。
原型を留めないほどに頭部を破壊された男は、重いスパスを取り落とし、そのまま倒れ込む。
赤池は軍刀を拾って、早駆けの姿勢で廊下を渡りきり、離れに入った。
そのまま入り口でしゃがみ、軍刀を置いて漆喰風の壁を背もたれ代わりにする。
「あと二人……!」
赤池は荒い息を整えながら呻くように言って、空になった32発弾倉を板バネのような弾倉止めを押し上げて引き抜く。ジャムを防ぐために28発込めてあったのを撃ち切っていた。新しい弾倉をマドセン短機関銃に込める。
壁から離れて、立ち上がると下緒で斜めがけしていた鞘を肩から外し、軍刀を納めた。そして、軍刀を肩で背負うと、マドセン短機関銃を再び構える。
「それにしても、千鶴嬢は何者なんだろうねぇ」
赤池はポツリと静かに呟くと、ゆっくりと射撃姿勢をとったまま進んでいく。
わざわざ4人の武装した反社の男を廃旅館に閉じ込め、ふざけた格好の自分を猟師に見立てて、デスゲーム紛いのことをさせている。
正義の味方か、文字通りの悪趣味なのか、赤池には分からなかった。
「それか、復讐か……」
赤池は二階へ続く階段を登り始めた。蒸し暑さで汗が皮膚を伝い気持ち悪い。
登り切ったところで、キツネ顔の男らしき死体を赤池は見つけた。顔が原型を留めていないため、分からなかったがスパス12が本人であることを証明していた。
赤池は死体に興味を示さず、壁から少し顔を出して様子を伺う。
「お前、なんでその格好してんだ」
男の声が響いたと同時に、高連射のくぐもった射撃音が響いた。
5
赤池は咄嗟に踊り場の壁に隠れる。
途切れの無い軽快でくぐもった射撃音と共に、反対側の木の壁に弾痕が不規則に刻まれていく。
サプレッサー付きの短機関銃だと赤池は判断した。
「その変態の格好は見覚えがある」
射撃が止んだ後、再び下卑た声が響いた。恐らく弾倉交換をしていると赤池は思った。
「依頼人からの希望で、仕方なくやってんの、こっちはね!」
赤池は不敵に笑いながら男に軽口を叩き、マドセンを撃ち返す。
仄暗い銃口から赤黄色の発射炎が迸り、排莢口から弾き出された撃ち殻薬莢が、キンキンと階段を跳ね回りながら落ちていく。
装填が終わったのか、短機関銃だけが曲がり角からヌッと出てきた。箱のような銃本体から、巨大なサプレッサーが伸びている。高連射速度を誇るイングラムM10短機関銃だった。
赤池は倒れ込むように伏せる。
「おっふ」
形の良い胸が押しつぶされて、少女らしからぬ声が思わず出る。
くぐもった高連射の銃声が響き、赤池が立っていたすぐ後ろの壁に、45ACP弾がミシン目のようにめり込み、青白い火花を散らした。
赤池は大きな瞳で照門と照星を合わせ、冷たく光る銃身をイングラムM10短機関銃に向け単連射する。
9ミリルガー弾が短機関銃のサプレッサーに直撃し、火花を散らしながら吹き飛ばす。外れ弾は電灯や窓ガラスをぶち抜いて、粉々にした。
「吶喊!」
赤池は声を弾ませて叫ぶと、立ち上がり曲がり角に駆け寄り、マドセン短機関銃を構える。
男は太った狸のように汚らしかった。上下ジャージでサンダル履きで、頭は禿げ上がっている。
右手首を折ったのか、左手で押さえて呻いていた。
「死ぬ前にさ、『見覚えがある』って何だったか教えてよ」
赤池はそう言って、二つ結びの髪を後ろに跳ね上げ、マドセン短機関銃を腰だめにしながら、命乞いをするような目をしている男に聞いた。
「そ、それは……」
「……俺が答えてやるよ」
隣の部屋の闇から冷徹な声が響き、赤池のこめかみに冷たい金属が触れた。
赤池は全身の毛穴が総毛立つ感覚を覚える。
6
「うわー、ドジったねぇ」
「銃と刀を捨てろ」
男の声に赤池は従って、軍刀を外してその場に落とし、マドセン短機関銃と弾嚢を狸のような汚い男に放り投げた。
「銃も軍刀も無いとただの変態じゃん、私」
赤池はそう言って、恥ずかしげに目を逸らした。
「昔、お前みたいな娘を攫って『商品』に仕立ててたことがあってな。金髪で美形だったよ」
「……ふーん」
赤池の整った幼顔に翳が落ちた。大きな瞳を男に向ける。
男はこの暑いのに背広にネクタイをしていた。五十代初めぐらいの年齢で、目は狡猾そうで鋭かった。
「とある商売敵のトップの娘でな、脅しのためだったが、ロリコンの変態に売れるように、お前みたいな格好させて色々仕込んだよ」
男は手に握ったS&WM27マグナムを使って。赤池を壁に立たせた。でかい銃口が赤池の胸元まで降りて、隆起した部分を愛撫するように動かした。
「で、その娘はどうなったの?」
赤池はそう言って、大きな瞳で男を見つめる。仄暗い炎を瞳に宿していた。
男はマグナムの撃鉄を起こした。金属音が大きく聞こえた。
「それには私が答えます」
「っ! ……お前は」
赤池には聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
曲がり角から現れたのは千鶴だった。手には銃床と銃身を短く挽き切ったブローニングオート5自動散弾銃を腰だめに構え、背広の男に向けている。
金髪碧眼の美しい少女とはあまりにもアンバランスだった。
「幸か不幸か、親が交渉して帰って来れたのだけど、それから散々な目に遭いました。復讐の機会を伺っていたという訳です」
「……畜生!」
背広の男は破れかぶれになったのか、マグナムを千鶴に向けた。
赤池は機を逃さずに井戸秀俊の軍刀を素早く拾い、抜き打ちで真っ向から振り下ろす。
白刃が閃いた瞬間、男の右腕が斬り落とされていた。
血が噴水のように吹き出し、男は信じられぬと言った顔で静止した。右手は銃を握ったまま、腕がぼとりと落ちる。
瞬間、千鶴は怒りと憎しみを込めた目をして、オート5の引鉄を三度絞った。
轟音と共に、白い閃光が廊下を染める。
男は無数のバックショットを全身に喰らい、挽肉のようになったまま崩れ落ちた。
「耳栓しましたが、どっちにしろ音は煩いですね」
「はは……」
赤池は千鶴のぼやきに乾いた笑いを浮かべる。
「二人とも、う、動くな!」
突然、男の叫び声が響いた。
狸のような男が千鶴から奪ったマドセン短機関銃を左手で持ち、銃口を向けていた。やはり右手は折れて使えないらしい、
「……こいつの存在忘れてた。千鶴さん、捨てても良いハンカチか紙持ってません?」
赤池はやれやれといったように溜息を吐きながら、千鶴に聞く。
千鶴は「どうぞ」といって、何でも無いように白いハンカチを差し出す。
「ありがとう」
「お前ら聞こえてんだろ! 武器を置け!」
赤池は千鶴に礼を言うと、男を無視して井戸秀俊の血濡れの刀身を拭い、鞘に納めて再び背負った。
「本当に撃つぞ!」
「おっさん、引鉄引いてみ? ほら、撃ちやすいように、しゃがんであげる」
赤池はバカにしたように言って、しゃがんだ。
男は銃身を指向して、引鉄を引いた。
カチカチといって、弾が出ない。
「もちろん、弾は入ってるし、安全装置も外してあるんだけどね」
「何でだ、クソッ!」
赤池は焦る狸男を見ながら、ニヤリと蠱惑的な微笑を浮かべる。
「はい。時間切れー」
赤池はそう言って、ブーツに仕込んでいた小型のベレッタM950自動拳銃を抜き出し、男の左手を狙って撃った。
狙いは誤らず、22LRホローポイント弾は男の左手を粉砕した。
「あああああっ、クソ! 殺してやる!」
男は悲鳴をあげながら倒れ込んだ。赤池はつまらなさそうに、ベレッタの銃身をチップアップさせ、薬室の22LR弾を抜き出し、撃鉄を落としてから再びブーツに戻した。。
それから、男が落としたマドセン短機関銃と弾嚢を取り返した。
「マドセンは不便なサブマシンガンでね。弾倉後ろにグリップセイフティがあって、片手じゃ撃てないんだ……って聞いちゃいないよね」
赤池はそう言って、悶絶している男を見捨てるように千鶴のもとに戻る。
「千鶴さん、あとはご自由に」
「ええ。そうさせていただきます」
そう言って、人形のように整った顔に凶悪な笑みを浮かべた千鶴は、オート5の死の銃口を男に向けた。
7
「仕事は無事に終わったけど、まさかあなたが直接手を下すとは。結果的に助けられたとはいえ、流石に事前に教えて欲しかったな」
赤池は千鶴の屋敷の部屋のソファーで寛ぎながら、抗議するように言った。
「それは申し訳ありませんでしたね。報酬は追加で払います」
「……まあ、私は金が払われれば何だっていいよ」
「あら。プライドはどこに言ったのかしら」
「この格好してから捨てたよ」
赤池は未だに競泳水着バニーの姿だった。そのまま屋敷に来て、着替えていなかったのだ。
「……彼らに死ぬ間際まで、理不尽さや恐怖を味わって欲しかったの」
「……なるほど」
赤池は暗い瞳をしながら頷き、卓上にあったタバコに手を伸ばし一本咥えた。
「あと……」
「あと?」
赤池はは千鶴の言葉に嫌な予感を覚えた。千鶴はいつのまにか赤池の目の前に立っている。
赤池には、千鶴の碧眼が熱を帯びているのが分かった。
「赤池さんが着るの、似合うと思いまして……前からファンで……」
「は?」
赤池はタバコを口からこぼした。
荒い息をした千鶴が赤池をソファーから引き起こし、凄い勢いで広いベッドに放り投げる。
「ちょ、何すんの?!」
赤池の動揺した声を無視して、流れるように白のワンピースを脱ぎ捨てる。下には赤池と同じ競泳水着を着ていた。
彫像のような肢体は美しく妖艶だったが、赤池はそれどころでは無かった。
そのまま千鶴は赤池を押し倒して、馬乗りになった。言うまでもなく、赤池に対して性的に興奮している。
「千鶴さん、ち、ちょっと、いや力強くない?!」
「ねぇ、金はいくらでも払います。だから……」
「やっぱりこの格好お前の趣味かよ! 離せ変態っ! 嫌ぁ!!」
赤池の悲鳴が屋敷に木霊し、やがて静かになった。
競泳水着バニーと復讐 チンアナゴ(かたゆで) @chinanagokatayude
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