第44話 夏帰省 中
はい。
フワフワした腰も数日で落ち着いて、夏休みは充実した日々が続いております。
出されている宿題を皆でやったり、電鉄でひたすらサイコロの旅をしたり、体を動かす為に早朝ランニングしたり、人生シミュレートなテーブルゲームやトランプで興じたり、英子さん主導で衣服等々のショッピングに出かけたりと、とても充実した毎日でありました。
言うまでもないが、全てにおいて南原さんや北川さんを巻き込んでいるし連れ出してもいる。
ソーニャに夢中な南原さんはともかく、北川さんはかなり戸惑いを見せている。けど、これも社会的なリハビリみたいなものだし、慣れてもらおうと思う。
それで今日だが、ソーニャから友達も来るからと誘われてのプールである。
こんなこともあろうかと、英子さん主催のショッピングで水着も購入済みで準備は万端。もっとも、向かう先は遊楽施設にあるような大きなプールではなくて、近所にある普通のプール。小さい子から保護者の大人まで集う、本当に平々凡々な公営プールである。
なんで公営プールってなるかもしれないが、俺はこれでいいと考える。
【マスターダイチの意見に賛同いたします。客観的な評価として、船越家に関係する女性は魅力的であると判定されます。これにより、人出が多い大型プールにおいてはナンパ行為の多発が想定されます】
そう、そうなるのは目に見えてる。
今日の企画をしたソーニャの友達も、それを懸念したんだろうし……、でも、うちの女子陣が公営のプールって、青少年男子及び成人男性の股間に危険が危ない気がしないでもないのよ。
実際、ソーニャは儚さある幻想的な美少女だし、キョウや北川さんはスレンダー系の肉体美持ちだし、ミリアは異国情緒ある肉感的な身体だし、南原さんに至っては見た瞬間に、デェッ! ってなるビッグなバストだし……、今日のプールは紅白で染まるかもしれない。
【当方も、マスターダイチの懸念を否定できる要素を挙げることができません】
でしょ。
ほんと、若いオスがイナズマが走ったように性に目覚めてもおかしくない。これで出入り禁止になったら笑うしかねぇ。
一人懸念を持て余す間にもソーニャの友達と合流。
見知った顔もあり、簡単な挨拶を交わす。これで女子13で男子5。以前も経験したような比率である。というか、男子組は半分は知り合いだったわ。
旧交を温めるとまではいかないが、直近の状況を語らいあって情報を交換する。へぇ、幼馴染と付き合いだしたんだ、どこまでヤッたのなんて話をしながら、プールに到着。
そして……。
夏の青空の下、水に戯れて楽し気にはしゃぐ少女たち。
跳ねた水飛沫が若々しい身体を濡らし、艶やかな照りを返す。
我ながらオッサン臭い見方だが、中身を思えば仕方ない。
それにしても、我が家の面々はやっぱり目を引く。
フリル付きワンピースのソーニャはあどけなさと可憐さを見事に調和させているし、競泳水着のキョウや北川さんは四肢のしなやかさが際立ち、そのスラリとしたスタイルを余すところなく魅せつけてくる。他方、セパレートのミリアと南原さんはお肌の露出率が高いことに加えて、水着が包み込む胸や尻や谷間が目立って仕方がない。
こんなお年頃のおねえさん達がたくさんプールで泳ぎ遊び始めたことで、ませた少年達が思わず前かがみになってるよ。
後、プールの監視員してる推定大学生のお兄さんや保護者として付いてきたであろうパパ達もちょっと居心地が悪そうというか股間を隠そうって感じな態勢になってるや。
きっと、おぉもぅ、どうしてこんなところにいるんですかって、思わず叫びたくなる心境だろう。
ところで、君らは大丈夫?
あ、やっぱりちょっとマズイ? うん、それならシャワーで冷やすかプールに浸かるかした方がイイよ。え、なんで俺は大丈夫なのかって? そりゃ、あれは家族だって言い聞かせて、心頭滅却の精神で昂ぶりそうな下半身を抑えているんですよ。
だから決して不能ではないから、絶対に不能じゃないから、いやほんとに不能じゃないからな?
こんな風に力説したら、一緒に来た男子陣から畏怖の目で見られてしまった。
……解せぬ。
プールに浸りながら、俺は訝しむ。
【マスターダイチの年代において、性欲は常について回るモノであります。それを抑えきっている姿に驚嘆したと推定いたします】
抑えてるって言っても、本当に抑えきれてるわけじゃないんだけどなぁ。
というか、家に帰ってから、キョウやミリアの攻勢がスゴい。寮だと触れ合う時間が大幅に減るというか皆無に等しいから、その反動なのだろうとは理解しているが、とにかく、二人のスキンシップが激しい。
いや、二人も南原さんや北川さんの目を気にして……るかはわからないが、一応は自重しているようで、昼間は問題ないのだ。
問題は夜。
中学の時と同じ形で寝ているが、二人は当たり前といった感じで抱き着いてくる。これが地味に来る。二人ともお年頃だけにちゃんと育ってきてるから感触が刺激的でつらい。その上で二人は仕掛けてくる。
鼻をくすぐる甘い匂い。
包み込まれる柔らかなぬくもり。
耳元にかかる暑い吐息に首筋を濡らす甘噛み。
いつの間にか直に触れ合って汗ばむ素肌を悪戯に動く手指。
絶対に狙ってやってやがるってわかるほどに、性感が刺激されること刺激されること……。
故に今朝も、最近股間が硬くて寝にくいって、ソーニャに言われて、南原さんから、ぉまぇわたしのぃもぅとに、なにしてるの、……すぞって、ヤバい目つきでガン見されたわ。
【マスターダイチ、速やかな処理を推奨いたします】
それができればいいんだけど……、ほら、意味深な息抜きに使っていた部屋、今は南原さんと北川さんが寝泊まりしてるから使えないじゃん。かといって、このままなにもしないでいると、以前の悲劇が大規模になって繰り返されそうだし。だからといって、風呂ですると詰まりそうだし長くなると乱入されそうだし、トイレだとニオイでバレそうだし。
もういっそのこと、古き時代のホタル族のように、ベランダでしようかな。
「あの、佐藤君」
唐突に呼びかけられて、はっと振り向く。
声の主は、なんと驚きの北川さんだった。
「なに、北川さん」
「その……、泳ぎを、教えてください」
「え、うん。泳ぎを教えるって……、この状態で泳ぎかぁ」
周囲を見る。
それなりに人が多く、混沌としている。真面目に泳ぐのには向いていなさそう。
「ちょっとこの状態だと難しそうだし、今日は気楽に浮けるようになるだけでもいいんじゃない?」
俺の提案に、彼女は首を振る。
「なにかしないと、落ち着かない」
「いやいや、たまにはなにもしない時間があってもいいさ。特に、北川さんみたいな頑張り屋はね」
藁って言えば、北川さんは真剣な顔を崩さない。
「私が頑張るのは当たり前のこと。後、なにもしないなんて、そんな余裕はない」
「人間、たまには休まないと、ずっとは走れないんだから」
「ずっと走り続けてみせる佐藤君が、そんなことを言うの?」
「休む時は休む。こうやって息抜きするのも大切だよーっと」
身体を仰向けに倒して、脱力。
肺に収めた空気で、ゆらりと水に浮かぶ。
「どうしても無理っていうなら、水難事故の訓練だと思ってやればいい」
「……訓練」
「そう、これも訓練」
それきりにして黙る。
深い呼吸三回分の後、隣でちゃぱりと音がして、波が立った。
「全身から力を抜いて、肺には空気を入れて、水に身体を預けるだけ」
返事はない。
が、隣にいるのはわかる。
重みから少し解放されて、プカプカと浮かぶ心地よさ。
身体に浴びる陽射しの暑さと、半ば浸った水の冷たさ。
ああ、気持ちいいなーなんてことを思って浸っていたら、急に足を引っ張られて沈んだ。
「がぼぼっ」
不意打ちに焦るが、既に足を引っ張った手はない。
というか、こういうことをするのは二人に限られる。
すぐに姿勢を戻して、元凶を探す。
……いた。というか、こっちの気を引けたのが嬉しいのか、二人して二ヘラって笑ってやがる。
「キョウっ! ミリアっ!」
「嫁を放置、よくない」
「せやせや。これはほったらかしにされた上に他の女に現を抜かすのを見て、拗ねた乙女心がちょっと暴走しただけなんよー」
「やっていいことと悪いことがあるわっ!」
「ごめんやー。ところで、北川ちゃん、大丈夫なん?」
「ん、実に見事な沈みっぷり」
「え?」
北川さんは俺が暴れた時にできた波にのまれて沈んでいた。
というか、確かに訓練だって言ったけど、意地でも態勢を維持しようとするのは感心って、いやいや、俺ら特殊部隊になる訳でもないんだから、そこまでする必要はないだろうとしかいいようがない。
急いで引っ張り上げて、咳き込む彼女を介抱したのは言うまでもない話である。
本当に、年を重ねた刷り込み教育って怖いわ。
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