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個人が大学に1500億円寄付、学費は永久に無料…日本に「寄付文化」は根付くか

日米の大学財務データから見える「寄付の力」

初台さん@大学財務ウォッチャー

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2026.4.9

PHOTO:PIXTA

大学の財務が、寄付金により大きく変わることがある。それは日本の大学でも、海外の大学でも同じことだ。

2024年2月、アメリカのアルバート・アインシュタイン医科大学は、同大学の理事長であり元教授でもあるルース・L・ゴッテスマン博士より、10億ドル(約1500億円)もの医学部への寄付を受けたと発表した。

同大学によると、医学部への寄付としては全米史上最大規模の寄付とのことだ。事実、同大学の財務諸表を参照すると、大学の収益が2023年度から2024年度にかけて、「寄付金および助成金」が約10億ドル増えている。

411百万ドルだった年間の収益が、わずか1年で1476百万ドルと、3.5倍にまで伸びたのだ。寄付の内訳まで分からないが、おそらくこのゴッテスマン博士による寄付であろうことが想像できる。

さらに同大学は、この寄付をもとに「すべての学生の授業料を永久に無料にする」とも発表した。

個人の巨額寄付が大学経営を根本から変えてしまう――そんなダイナミズムが、アメリカにはある。では、日本の大学への寄付の実態はどうか。財務データから読み解いていく。

10億ドルの寄付で「学費永久無料」は実現するのか

ただ、考えてもみてほしい。いくら10億ドルもの寄付とはいえ、学費を永久に無料にし続けることは本当に可能なのだろうか?

同大学の財務諸表によると、年間の授業料収入は約6400万ドルだ。無料にしてしまうと、毎年この収入分を寄付で賄う必要がある。

寄付額が10億ドルなので、10年そこそこでなくなりそうなものだが、「学費永久無料」は可能なのか。

「ProPublica」データベースより筆者作成

その疑問も、同大学の財務諸表を見れば明らかになる。まず、この受け取った寄付の10億ドルは、どうやって保有しているのか、バランスシートを見てみよう。

グラフは2024年度における期首・期末の資産の推移だ。有価証券等投資が約8億ドル、現預金等が約2億ドル増えており、寄付された10億ドルは、ほとんどが投資の運用として保有していることがわかる。

「ProPublica」データベースより筆者作成

相当な皮算用だが、この10億ドルを年利5%で運用できれば、5000万ドルのリターンが期待でき、年間の授業料収入である約6400万ドルの大部分をカバーできることがわかる。

これであれば、この10億ドルの元手をほとんど取り崩すことなく、「学費永久無料」が実現できる可能性が高まる。

同大学はこの寄付を元手に基金化し、運用によって永続性を持たせようとしており、実にアメリカの大学らしい発想だといえる。

日本にも存在する、令和の「篤志家」

では、日本でも同じような出来事は起きているのだろうか?

糸山英太郎という人物をご存じだろうか。元衆院議員で実業家である糸山氏は現在、神奈川にある湘南工科大学の総長である。日本有数の資産家としても知られており、長く同大学に携わっている。

PHOTO:PIXTA

糸山英太郎記念教育研究総合センターという建物があったり、校歌の作詞は糸山氏が行ったりと、かなりトップの色が強い大学だ。

同大学は学生数が2000人ほど、教育活動収入(≒本業の売上)が51億円ほどの、小規模な単科大学だ。そんな大学の2023年度の決算書に、約125億円もの「その他の特別収入」が計上されているのを見て、大変驚いた。

同大学は授業料などの「学生生徒等納付金」が40億程度の法人(附属高校含む収入)であり、125億円もの特別収入は、相当な異常値である。一体このお金、どこから湧いてきたのか、財務諸表から見ていこう。

「その他の特別収入」とは、企業会計でいうところの特別損益の部分にあたり、施設設備寄付金や現物寄付が計上される。同大学は小科目を公開していないので、一体なんの科目なのかはわからない。

それでは、バランスシートを見て、この125億円がどう計上されているか見てみよう。

学校法人湘南工科大学「決算書類」より筆者作成

ここで、2022年度から2023年度にかけて「特定資産」が125億円ほど増えていることがわかる。受け入れた「その他の特別収入」は、ここに計上されたのでは、と予想できる。特定資産とは、施設設備整備等、将来の支出に備えて積立する貯蓄のようなもので、中身は預金や有価証券といったものがある。

ここまでで、「何らかの形で125億円ほどを受領し、特定資産として持っているのだな」ということがわかる。

話は戻って、2023年に創立60周年を迎えた同大学のホームページに、「心の叫び -糸山英太郎総長メッセージ-」というタイトルで、糸山氏の言葉が掲載されていた。そこでは、在学生や卒業生等への感謝を述べつつ、こういった文言があった。

「今回の60周年記念という節目においても多額の私財を寄付した」

糸山氏は、有名な資産家だ。かつてはフォーブス誌に「日本円に換算すると4150億円(2002年3月時点)もの推定資産がある」と報じられ、日本航空の大株主でもあった。

2002年時点でこの金額であると、もしこの資産の大部分が有価証券等だった場合、今どのくらい膨れ上がっているのか。また、この規模の資産家なら125億円の寄付は十分可能であると推測できる。

ここでなぜ「有価証券」に触れたかというと、同大学の「受取利息・配当金」が急激に増えているからだ。

学校法人湘南工科大学の各年度「決算書類」より筆者作成

2023年度に2400万円ほどだった受取利息・配当金は、2024年度には3億7500万円と、急激に増えている。運用利回りも、0.1%未満から0.8%程度と、かなり改善している。よほど資産のポートフォリオを変えない限り、このようなことは起こらない。

ここで、この125億円の寄付も、一定程度は有価証券という形で受け入れたのでは、と予測できる(キャッシュで受け入れて、その後多くの有価証券を購入したことも考えられるが)。

今までの話をまとめると、湘南工科大学は60周年という節目に、糸山氏から125億円、またはそれに近い金額の寄付を有価証券またはキャッシュ(またはその両方)で受けたのでは、と推測できる。個人の寄付としては、とてつもない額である。

なお、同大学はこの125億円のその他の特別収入について、私が調べた限り事業報告書等では説明を一切していないため、公式の発表ではないことを付け加えておきたい。

熱しやすく冷めやすい? 日本の寄付文化

2023年、国立科学博物館(略称:科博)が「地球の宝を守れ」と題したクラウドファンディングを開始した。科博はこれまで独立したプロジェクトで、クラウドファンディングを利用して数千万円ほど集めることはあった。

しかし、今回の募集は機能の根幹に関わる資料保全などの費用に対する募集であったため、「そんなお金すらないのか」と多くの注目を集め、大きな盛り上がりを見せた。

結果的に、1億円の募集に対して9億円を超える寄付が集まり、大成功に終わった。でも、盛り上がったのは良いが、こう思わないだろうか。「で、その後はどうなるの?」と。

国立科学博物館の各年度「財務に関する情報」より筆者作成

グラフの通り、国立科学博物館は、クラウドファンディングを実施した2023年度は約13億円もの寄附金収入を計上したが、翌年はまた元通りとなり、1億7800万円に留まった。

やはり、恒常的に高い寄付金額を保つことは、容易ではない。一時的なブームでの収益では、根本的な財務問題の解決には至らない。

そもそも、国立科学博物館の運営費交付金収益は、2015年度の26億円から2024年度には23億円と、増えるどころか減っている。これではまた運営費の捻出が困難になり、寄付に頼らざるを得なくなる。

そうなると、そもそもの問題は別(運営費交付金の適正化)にあるという話になるが、ここでは省略する。

国立科学博物館(PHOTO:PIXTA)

国立科学博物館は、2027年に150周年を迎える。博物館が持つ影響力は、計り知れない。それは、知的インフラとしての側面であったり、次世代への知的好奇心の育成であったりと、多様な影響力を持つ。

次の世代へのことを考えたときに、この国立科学博物館という貴重な存在を、個人であっても寄付という形で支援できること、また財務的にも困難な状態にあることを、改めて知っておきたい。

「寄付」を受け入れる側はどう感じるか

私は学校法人で働いていた際に、寄付受入にも携わっていた。

本当に驚くべきことだが、毎年何も言わずに、ただただ一定額を寄付してくれる人がいる。また、メッセージと共に寄付をしてくれる人もいる。

受け入れる側からすると、そういった言葉は嬉しいものだ。多くが卒業生だが、それくらい学校に期待を寄せているのだと感じている。

皆さんの自宅に、母校からの広報紙が届くことがないだろうか。そこには「寄付のお願い」が同封されているだろう。

少子化の影響を真正面から受ける学校業界は、暗いニュースが続いている。多くの学校で、このインフレに対応する収入増加策を立てられずに、苦境に立たされている状態だ。

そんな業界を救う意味でも、また未来への投資という意味でも、その寄付用紙を捨てずに、少し寄付という選択肢を検討してみてはどうだろうか。その貴重なお金は、必ず誰かの心に響いているはずだ。

(初台さん@大学財務ウォッチャー)

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ひたすらに大学の財務を研究。YouTube・Xで発信中。