なぜ携帯の片側通話や咳の音は気になってしまうのか――「注意を奪う音」の研究紹介

2025.11/28 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab. は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、私たちの集中力を奪う身近な音の研究についてお伝えします。

◾️音楽が集中力に与える影響

私たちは日常の中、集中力を高める際に「音」を利用することがあります。

以前も紹介したように、例えば音楽を聴きながら運動すると、疲労や痛みなどの不快感を感じにくくなり、集中力や自制心が高まるといった研究が存在します。またテンポの速い音楽(120~140 BPM)は、有酸素運動や筋力トレーニングの両方において増加させることが示されている一方、非常に強度が高い運動では効果が小さい、あるいは見られないというデータもあります。

一方、米オハイオ州立大学の研究チームが2025年に発表した論文では、職場で流れるBGMと業務効率の影響を調べた結果、自分に合わないBGMが流れている環境では、従業員のポジティブな感情や認知能力が低下し、結果的に生産性が低下することが示されています。

このように、運動や勉強・仕事に関しては、状況ごとに音楽・BGMがポジティブにもネガティブにも機能することがわかります。

◾️なぜ携帯電話の音はうるさく感じるのか

このように、音楽の効果は様々な研究がありますが、「音」と集中の関係をさらに考えてみたいと思います。

例えば、川の流れる音やホワイトノイズ、カフェの環境音といった特定の音は、適度にリラックス効果や集中力を高めることが知られています。

一方、騒音は集中力どころか、メンタルヘルスや高血圧や心臓発作、脳卒中等のリスクにも関係していることを、以前もご紹介しました。

こうしてみると、騒音のような「音量」だけでなく、音を生む「状況」や「性質」も、私たちの集中に大きな影響を与えていることがわかります。

例えば、電車の中などで、人が適切な音で話をしていることは気にならないのに、携帯電話で話していると、妙に気になるといった経験はないでしょうか。

米コーネル大学を中心とした研究チームが2010年に発表した論文は、この点について研究したものです。

それによると、実験の参加者は課題を行う中で、2人の人間の会話や、1人語り(モノローグ)と携帯電話の片側だけの会話音、を聞いてもらいました。その結果、携帯電話の片方の会話音だけ、有意に課題の成績が低下したことがわかりました。

研究チームは他にも音の違い等を分析することで、片方の会話は次の予測を無意識のうちに私たちが行ってしまうため、結果的に注意力が奪われることを示しました。つまり、片方からだけの声は、音量の問題ではなく、半分だけの会話という情報量の少ない「状況」に、私たちが反応してしまうからということがわかります。

もうひとつ。ニューヨーク州立大学オネオンタ校の研究チームが2025年4月に発表した論文は、どのようなタイプの音が人の集中力を奪うかについて研究したものです。

研究では、大学の学部生89名を3つのグループに分けて心理学の短いビデオを視聴してもらい、その後は簡単なクイズを行いました。ビデオ視聴とクイズの時間では、ひとつのグループは無音、もう一つは紙をめくる音やジッパーを閉じるなどの音(中立音)、最後は人の咳やくしゃみの音(実際にインフルエンザに感染した人の音を収録したもの:病原体音)を70デシベルで15秒おき流しました。

その後学生にアンケートを行ったところ、70デシベルという掃除機の音くらいのうるさい音に、参加者は気づいていました。また「うるさい」や「気が散る」といった程度も、3グループで有意な差異は認められませんでした。

ただし、20問のクイズの正解率は、グループごとに異なりました。無音グループは平均で14問の正解の中、中立的な音は12問、咳の音を聞いたグループは正解が10問となりました。統計的に有意な差が認められるのは無音と咳の音のグループで、平均より17%ほど成績に差が出たことがわかりました。

これについて研究チームは、やはり病気などに関わる音については、人は認知リソースを割いて音を理解しようとする可能性を示唆しています。ただし、小規模な実験であることから、引き続き研究が必要とも述べています。

◾️行動免疫システムを適切に理解する

先程の研究の根拠のひとつとなるものに、「行動免疫システム」と呼ばれる、人類が生き残るためにリスクを避けようとする中で発達した心の仕組みです。これによって、咳のような音を、私たちは通常の音よりも認知リソースを割いて理解しようとするのです。

一方、だからといって咳などの音を止めることはできません。病気を避けようとする「行動免疫システム」は、私たちを守る仕組みであると同時に、コロナ禍で見られたような偏見や差別にもつながり得ることが指摘されています。

咳エチケットなどは必要ですが、「あの人は咳をしているから危険だ」とすぐに線を引くのではなく、そう感じてしまう心のクセ自体を自覚することも大切です。そのうえで、どうしても集中したいときには、ノイズキャンセリングイヤホンや環境音をうまく使ったり、あるいは一定の距離を取るなど、自分の側から音環境を調整していく必要もあるでしょう。

そうした「音との付き合い方」を身につけることが、注意力と心の両方を守ることにつながるはずです。

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生活情報環境における、視覚と聴覚のバランスを、リデザインする。 音声メディアの可能性を探求し、その成果を広く社会に還元することを目的とした研究所です。
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