10代でギャル雑誌のモデルや洋服の販売に携わるなど、おしゃれが大好きだった鎌田安里紗さん。ファッション業界にかかわるうちに、エシカルでサステイナブルなものづくりの大切さに目覚めていきました。現在は、一般社団法人「unisteps」(以下、「unisteps」)の共同代表理事として、ファッション産業の在り方を見直し持続可能な仕組み作りを提案しています。誰もが身に着ける衣服を通して、鎌田さんが実現したいのはどんな未来なのでしょう。今の思いをじっくり伺いました。
ファッション業界のサステイナビリティーを推進
——はじめに、鎌田さんが共同代表を務める「unisteps」について教えていただけますか?
「unisteps」は、ファッション産業のサステイナビリティーを推進する団体として、2020年に設立しました。コンサルティング や教育を軸として、企業・行政・デザイナー・生活者など、さまざまなステークホルダーの皆様とともにファッション産業におけるサステイナビリティーに関する取り組みを実践しています。
——具体的にはどのような取り組みがあるのでしょうか?
例えば、繊維・ファッション産業のサステイナビリティー推進のための企業連携プラットフォームである「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」の事務局運営です。このアライアンスは、繊維・ファッションに関わる様々な企業約70社で構成されていて、「川上から川下まで」あらゆる業種が参加していることが最大の特徴です。
繊維メーカーから商社やアパレル、さらにはリサイクル事業者や物流会社、副資材メーカーまで含まれます。通常、業界団体は「アパレル」「百貨店」といった業種ごとに集まることが多いと思いますが、JSFAは業種の垣根を超えてサステイナビリティーについて議論する場になっています。
——業界を横断的に取りまとめるには、ご苦労もあるのでは?
業種や立場によって、当然考え方の違いもありますが、リーディングカンパニーの皆様が集まっての議論はいつも学びがあります。JSFAには、消費者庁や経済産業省、環境省というファッションに関わる3省庁もパブリックパートナーとして関わってくださっています。 企業一社では解決が難しい課題も 、企業間そして官民の連携を通して一歩ずつ前に進んでいくための場になっていると感じます。
——各セクションの垣根を超えることで、課題解決への糸口も見つけやすくなりそうですね。
はい。他には、「FASHION FRONTIER PROGRAM」というファッションデザイナーに向けたアワード兼エデュケーションプログラムの運営をしています。デザイナー・クリエイターの皆さんが「クリエーティビティー(創造性)」と「ソーシャルレスポンシビリティー(社会的責任)」をどう両立し、高めていくかをともに考える場にしたいと思っています。
——アワードというと優れたクリエーターを称賛するイメージですが、社会的責任の両立とはどういうことですか?
デザイナーがどんな素材を選び、どう設計するかは、その服の寿命やリサイクルのしやすさに直結しますから、デザイナーの意識変革は産業全体にとって非常に重要です。なので、サステイナビリティーへの意識が高いクリエーターがたたえられ、かつ学びを得られる教育プログラムとセットであることがとても大切だと考えているのです。
具体的には、応募者から選ばれたセミファイナリストは、クリエーティビティーやソーシャルレスポンシビリティーに関するレクチャーや、素材や最新の技術に触れられるワークショップに参加できます。そこで学んだことをどう作品に反映するかをプレゼンテーションし、最終的に選ばれたファイナリストたちが実際に作品を制作して審査に臨んでいただいています。
——生活者に向けた取り組みはどのようなものがあるのでしょうか?
生活者の方に向けた取り組みとしては、イベントやシンポジウムなどを企画しています。「FASHION REVOLUTION」もその一つで、これは、2013年にバングラデシュで起きた縫製工場崩落事故(ラナ・プラザの悲劇)をきっかけにイギリスで始まった世界的なキャンペーンです。「服がどこで、誰によって作られたのか」について透明性を高めようというムーブメントで、「unisteps」はその日本事務局を運営しています。
——「ラナ・プラザの悲劇」は、1000人以上の尊い命が奪われたという痛ましい事件です。映画などでも描かれ、エシカルなファッションに関心を持つきっかけになっていますね。
そうですね。私たちは透明性に関する英語圏のレポートを日本語に翻訳して発行したり、年に1度、事故があった4月に透明性への意識を高めるシンポジウムを企画しています。他には、実際に生産現場へ行く「フィールドトリップ」も重視しています。座学よりも実際に工場へ足を運び目の当たりにするほうが、どれだけの手間がかかっているかを理屈抜きで会得できますし、圧倒的に情報量が多いと思うからです。
最近では、故繊維の回収・分別を行う現場を見に行くツアーなども人気で、Instagramなどで募集をかけるとあっという間に埋まってしまうほどです。「手放された服がどうなるのか」ということに、関心を持つ方が非常に増えていると感じますね。
「エシカルな選択ができない」。あなたが悪いわけではない
——もともと個人で活動していた鎌田さんが、なぜ団体を起こそうと思われたのですか?
法人化は事務的な理由も大きかったのですが、やはり10年ほど個人で啓発活動を続けるなかで、「個人の意識だけの問題ではない」と痛感したことが大きいです。
一人ひとりの生活者がどんなに関心を持って「エシカルな選択をしたい」と思っても、“環境負荷が低い商品は値段が高い”といったシステム上のハードルが存在しています。個人の行動変容だけに期待を寄せてしまうと、エシカル消費に意識的な生活者ほど過度なプレッシャーや罪悪感を抱いてしまうことにもなりかねません。
私たちは、“気持ちとしてはやりたいけれど、実際にはできない”という状況に対し、「それはシステムのエラーであって、あなたが悪いわけではない」と伝えたいのです。
——エシカル消費やサステイナビリティーが浸透する一方で、「エシカル疲れ」「サステナ疲れ」に陥る人もいると耳にします。
本来は、エシカル消費やサステイナビリティーに関する情報に触れ、自分も何かしたい、関わりたいと思う人が何かの理由で実行できなかったとしても罪悪感を抱える必要はありませんし、そうした意識を持つ個人がストレスを覚えてしまうような仕組みは不健全だと思うんです。この状況を改善するためにも、先に述べたように最近は企業や省庁の方々と密にコミュニケーションを取るよう心がけています。
ただ、サステイナビリティーとひとくちに言っても、何をすることが環境を持続させるために良いことなのか、また産業にとって、働く人や生活者にとってはどうなのか……。そう考えると、要因が複雑に絡み合っているため、「これが正解」という唯一の解はないのだなと感じます。
——確かに、強引に一つの答えを導き出すと、ひずみが生じるかもしれませんね。
エシカル消費やサステイナビリティーを、頭ごなしに「絶対正義」のように振りかざしてしまうと、うまくいかないですし、抜け落ちてしまうものがあると思います。だからこそ、多様な立場の人と対話し、「どこに向かうことが全体にとっての前進なのか」を見極める作業がとても重要だと考えています。