「元国家公務員」男性が励んだ「嫌中」動画発注 収益追い求めた末に
仕事内容は「中国人の迷惑行為、その後、自業自得になるフィクション動画」の台本作成。
応募条件は「日本が大好きな方、中国が嫌いな方」。
大手仕事仲介サイト、「クラウドワークス」上に、2024年11月ごろから掲載された、YouTube向けの「嫌中系」動画制作の求人の一部だ。
多数の求人を出していたこのアカウントは昨年12月、「差別的」だとして、サイト運営会社から募集内容を非公開にされる措置を受けた。
どんな人が、なぜ、募集していたのか。
このアカウントから仕事を受注したというクリエーターの証言や公開情報を元に、発注元の会社を調べると、東京都内の15階建てマンションにたどり着いた。
オートロックのついた玄関ゲートで、会社が登記された一室のインターホンを押す。取材と伝えると、白髪交じりの男性が降りてきた。「家族が『外でやって』と言うので」
男性は、近くの路上に移動すると、仕事仲介サイトのアカウントが自身のもので、YouTubeに「嫌中動画」を投稿してきたと認めた。
昨年12月~今年3月、計5回の取材に明かした経緯は次のようなものだった。
「金融会社から国家公務員」 行き着いた先は・・・
男性は60代。その説明によると、有名私立大学を卒業し、外資系など複数の金融会社で20年近く働いた。会社の事業撤退を受け、2000年代に国家公務員に転職した。
大きな金額の動く仕事も任された。不動産登記によると、約15年前にマンションも購入。ただ、独立して自分で稼ぐことへの「あこがれ」が捨てきれなかった。
転機が訪れたのは数年前。国家公務員を定年退職した。「定年を機に独立して、クリエーティブなことで稼いでみたかった。自分の力を試してみたかったんです」
目をつけたのがYouTubeだった。当時、顔を出さずに、静止画や機械音声を使って動画をつくる「非属人YouTube」がはやり始めていた。ネット上には、元手がほぼいらずに「稼げる」という情報が転がっていた。
すぐに、動画の作り方を学ぶセミナーを受講。大金を手にしたと語る人たちから情報を仕入れた。投稿の頻度を上げて収益を増やすために、編集や台本作成を「外注」する方法を教わった。
「大谷選手」から「嫌中」へ
最初に始めたYouTubeチャンネルは、メジャーリーガーの大谷翔平選手もの。稼げる一大ジャンルとされ、男性自身も大谷選手が好きだった。
広告収益は、多い月は150万円に上ったが、浮き沈みも激しかった。
外注費は月20万~30万円で、赤字になることも。それに、移籍先のチームや家族のことなど、日々ニュースを追わないと再生数は伸びない。「大変だった」
そんな頃、「嫌中系」「日本称賛系」のジャンルがはやり始めた。中国に行ったことも、中国人と関わったこともない。ただ、中国に批判的な右派系雑誌に投稿したこともあり、参入にためらいはなかった。「中国人は嫌い。自分のやりたいことと、視聴者の需要が一致した」
仕事仲介サイトの記録によると、男性は24年7月から25年12月までの約1年半の間、「嫌中」や「日本称賛」の動画の仕事ばかり発注していた。
内容は「中国人が迷惑行為をし、天罰が下ったり、自業自得になったりする内容」。再生数の多い他人の動画を、構成を変えてまねたものもある。
「中国など他国と比べて日本が優れている」とする「日本称賛」の動画は、創作と実話を両方作ったという。
視聴者の大多数は高齢者 創作を信じるコメントも
男性によると、大谷選手の動画も嫌中系も、視聴者の大多数は65歳以上の高齢者だったが、大谷選手の動画は再生数1千回あたりの広告単価が300円程度のところ、嫌中系は1千円程度と高かった。嫌中系の方が動画を最後まで見る人が多かったといい、広告単価を押し上げた可能性がある。収益は「多くて月約60万円で、安定していた」と話す。
朝日新聞は、編集作業を受注したクリエーターの証言などを元に、男性が運営していたとみられる二つのYouTubeチャンネルを特定した。
いずれも、1万人以上の登録者がおり、24年に開設。動画は20~30分のものが多く、計400本以上が投稿されていた。
例えば数十万回再生された動画は、中国人留学生がヨーロッパの街角で老人の杖を奪い、日本人にたしなめられて、大学を退学処分になるという話。AI(人工知能)画像が挿入され、AI音声が紹介する。
概要欄をクリックすると初めて「基本的にフィクション」との説明が読める。動画にはコメントが数百件つき、内容を信じたとみられる人から「中国人はトラブルメーカー」「中国人は愚か。日本の足元にも及ばない」などと、差別的な発言が並んでいた。
二つのチャンネルについて男性に尋ねると、「私のチャンネルではない」と否定。しかし、動画の内容は、下請けのクリエーターらが作成していた台本と、細部の文言まで一致していた。
男性は取材に、「あくまで中国を批判しているだけ。嫌中は何年も許されてきたし、他にやっている人もたくさんいる。今さら問題視するのはおかしい」と憤った。
広告収益を止められると新チャンネル開設
男性が運営していた嫌中系チャンネルは今年1月にYouTube側によって収益化を止められ、広告収入が断たれたという。YouTubeは同時期にAIを使った「低品質の動画」を規制する方針を示していた。
すると男性は1月、新たな「政治系チャンネル」を開設した。投稿したのは、高市早苗首相を取り上げつつ、野党や、自民でもネット上で不人気の政治家を批判する動画だという。
外注せず自分で編集したといい、「すごく簡単。2週間で50万円稼いだ」と豪語する。このチャンネルもまもなく収益化を止められたが、男性は今後も動画投稿を続けるという。
「これからもYouTubeで稼ぎますよ。これを中心に、妻子を養っていくんで」
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見る人の憎悪を煽り、時に思考を歪めるネット動画。その一端には、顔の見えない者同士が結びつき、AIで量産する「効率の良いお金儲け」があった。
朝日新聞は、YouTubeの親会社Googleの日本法人に「嫌中動画」への対応などについて尋ねた。
YouTubeはコンテンツに関するポリシーで、「個人や集団に対する暴力や差別を助長する」動画や、「スパムや詐欺などの欺瞞(ぎまん)行為」を禁じている。
担当者によると、同社は25年10~12月、ポリシーに違反したと判断したチャンネルを世界中で約340万件削除した。AIが自動的に検出したものが大部分で、一部、視聴者らによる報告がきっかけのものもあるという。
一方、男性が運営していたとみられる二つのチャンネルは、4月初旬も削除されていない。
クラウドワークスは男性の求人を掲載し続けていたことについて、「監視体制に改善を要する課題」と取材に回答。AI検知の精度向上に取り組むとしている。
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- 【視点】
概要欄には「基本的にフィクション」と記載しているとのことですが、問題なのは、動画がX等に転載されている場合です。創作であることが分からなくなり、視聴者に誤解を与えてしまいます。 プラットフォームを超えてコンテンツが転載されるのが当たり前の昨今、動画そのものに創作やフィクションであることを埋め込むような措置が必要でしょう。 AI創作の動画は、先の衆院選でも問題となりました。視聴者としては、AI創作の動画は基本的に事実ではないと思うくらいの心構えが必要かもしれません。
…続きを読む - 【視点】
無駄なことに時間をかけるようなところから広がるような、人間性が凝縮しているような創作活動とは違う創作活動。この記事にある創作活動からは、自己表現のプロセスとしての創作活動の価値が見えない。それをどう考えるかだ。
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