深掘り

「嫌中」動画 AIで量産の現場 「軽い気持ちで」男性が語った後悔

華野優気

 「日本の新幹線に世界が震撼(しんかん)」「桜を荒らす中国人 彼らの身体に異変が」――。

 インターネットの動画投稿サイトを開くと、扇情的な文言の動画があふれている。日本の文化や産業を称賛したり、日本にいる外国人を非難したりするような動画だ。

 AI(人工知能)で生成したとみられる画像が紙芝居のように次々現れ、無機質な音声が物語を進めていくものが目立つ。

 実話か創作かが明記されていないものもあり、再生回数は多い動画で数十万に上る。多くは広告が挿入され、再生数に応じて収益を生む。

 そんな動画の編集作業を「下請け」していたという男性が3月、朝日新聞の取材に応じた。

 男性は記者に「個人的な主義や主張、外国人への恨みとかは一切無い。知らず知らずのうちに、とんでもないことに加担していたのかもと怖くなった」と語った。

ネット上にあふれる中国などを批判をする動画。求人サイトで制作が外注されていた実態を取材していくと、顔も声もわからない発注者の指示に沿って動画を量産したという男性の証言を得た。

始まりは、副業を探していた2年前

 男性は、20代の会社員。もともと人と関わるのが苦手で、大学卒業後に入った会社は体調を崩して1年足らずで辞めた。次の会社では適応障害を発症して休みがちになった。年収は約250万円。学生時代の奨学金の返済もある。将来に不安を感じて副業を探していた2年前、その仕事に出合った。

 きっかけは、大手の仕事仲介サイトで見つけた動画編集の求人だった。

 求人内容は、AIを使って動画に登場する人物や場面の写真を生成、編集するというもの。自分のペースで作業できて、簡単に見えた。募集ページには「中国批判系など海外の反応YouTube動画のお仕事」とあったが、その意味を深く考えることはしなかった。

 発注者とはチャットでのやりとりに終始し、顔を見たことも声を聞いたこともない。「お金さえもらえればいいのかなって。相手のことも特に気にならなかった」

作業は「手順書」に沿って

 作業は「手順書」と題するマニュアルに沿って進めた。台本やサムネイル(表紙画像)の作成、画像生成など、担当が細分化されていた。

 台本作成は、すでに公開済みの動画のうち再生数が好調なものを「リメイク」する。創作だったとしても、施設名や地名は実在のものにする……。マニュアルには、そんな指示も記載されていた。

 男性のような「下請け」スタッフが見られるようネット上で共有されたファイルには、1本ずつタイトルがついた台本がずらりと並んでいた。

 大半が日本の称賛や中国人への批判を本筋とした物語で、その数は確認できるだけで300以上に上った。

 ファイルは、スタッフが作業の進捗(しんちょく)を書き込めるようになっていた。その履歴を見ると、ほかにも互いに素性を知らないであろう十数人が関わっているようだった。

 動画編集の報酬は長さに応じて、1本につき3千~7千円。相場の3倍ほどの好条件だった。男性は複数の動画に関わった。平日の帰宅後や休日に6~8時間ほど作業し、多い月には約5万円の報酬を銀行振り込みで受け取った。

「調べれば創作だと分かるだろう」

 仕事を始めた当初は、日本の自動車技術を誇るような「日本称賛系」の動画が中心だった。だが昨年秋ごろから、「中国批判系」の依頼が増えたように感じた。自民党総裁選を経て高市早苗首相が誕生し、「台湾有事発言」で中国との外交関係が冷え込んだ時期と重なる。

 男性は「発注側は、世の中で『何がはやっているか』『再生数が伸びるネタは何か』を意識していると思う。世論を扇動する意図はそれほどなかったのでは」と推測する。

 動画の台本には、「公共の場所で暴れた中国人の末路」など、事実かどうか疑わしい内容が含まれるものもあった。

 「大声でクレームを言う中国人」。AIのソフトにそんな指示を出せば、ものの数分で「それっぽい」画像が生成された。戸惑いはあったが、「普通に調べれば創作だと分かるだろう」という思いもあり、作業を続けた。

視聴者「半数以上が高齢者」

 発注者からは動画の視聴者の半数以上が65歳以上の高齢者だと聞かされていた。ナレーションが聞き取りやすいよう文節をこまめに区切るなど、視聴者が途中で見るのをやめない工夫を求められた。

 男性は自分が作った動画がどこで公開されているのかを知らされていなかった。だが、仕事を始めて半年ほど経ったころ、動画の公開先が気になり、台本に書かれていたタイトルをYouTubeで検索してみた。

 自分の「作品」が次々と画面に現れる。それは主に二つの投稿元から公開されており、再生数が数万回に上るものもあることがわかった。

動画を「信じた」視聴者たち

 動画のコメント欄には、内容を事実と疑わないような称賛と憎悪があふれていた。

 「この動画を見て目が覚めた」「中国人は許せない」

 動画が関心を集め、広告が見られれば見られるほど、収益を生んでいることを実感した。「軽い気持ちで、ただお金のために仕事をしていた。でも、それが誰かの思想をゆがめ、社会を分断させたのかもしれないと気づいた」

 辞める踏ん切りがつかずにいた今年1月、発注者から「動画に広告がつかなくなり、収益化ができなくなった」と報告があった。

 詳細な原因は不明だが、前月には、仕事仲介サイトが、男性が当初応募した発注者の募集内容を非公開にする措置をとっていた。「差別や誹謗(ひぼう)中傷につながる依頼」に該当する可能性が高いというのが理由だ。

「信じてしまう人が減れば」……

 仕事は途絶えた。だが焦りや不安より、後悔の念にさいなまれた。「外国人への影響を想像することもしなかった。人として、間違ったことをしたんじゃないか」

 今回の取材に応じたのは、「過度な中国批判は、お金もうけのために人為的に作られたものかもしれない。内容を事実と信じてしまう人が少しでも減れば」という思いからだ。

 男性にとって、発注者は今も謎に包まれたままの存在だ。「こうした動画で得た利益は真っ当なものと言ってよいのか。本人の話を聞いてもらえるのなら、どうか逃げずに答えてほしい」

 男性に報酬を支払い、仕事を依頼していた発注者とは、一体どんな人物なのか。取材や公開情報をもとに、発注者が設立したとみられる会社の所在地を記者が訪ねた。

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この記事を書いた人
華野優気
東京社会部|調査報道担当
専門・関心分野
消費者問題、社会福祉
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    安田峰俊
    (ルポライター)
    2026年4月9日10時53分 投稿
    【視点】

    私は中高生のころ(1990年代)、新聞に毎朝目を通していました。いまの仕事も、週刊誌に寄稿し新書本を書いて、たまには朝日新聞でもお仕事をいただく立場です。いわゆるオールドメディアの仕事を、いまなお数多く行っています。 その立場として感じるのが、ゼロ年代まで日本の新聞・出版の巨大市場を支えていた読者の多く(当時の私含む)にとって、新たな知見やものごとの真実を知ることは、実は重要ではなかったという事実です。昔は他に読むものがなかったので、自分が理解できないものや意見が違うものにも、みんなお金を払って読んでいたわけです。 逆に言えば、タダで、頭を使わず1秒で理解した気になれて、自分の意見に合う刺激的な感情を揺さぶられるものが別にあるなら、そっちの方がずっとよかったわけです。 すなわち、嫌中国人だの高市総理万歳だの(※左方向の同水準のレイジベイト言説も含む)、努力しない金儲けだののYouTube動画やXのポストのほうが。 しかも、かつては朝に必ず新聞を読んでいた世代(私が最後くらい)はいい年齢です。いまさら脳みそを使いたくない人も多いことが、これにさらに拍車をかけます。ゆえに、本記事のようにそれらで荒稼ぎをしたがる人が出てくることも、やはり必然的な結果なのかと思います。 有料の新聞や書籍は、今後も多分滅びないとは思います。ただ、従来と違って、社会階層化が広がる世界のなかで特定の層だけが摂取する嗜好品に近い商品になっていくのだろうなとは、現場の肌感覚としても感じます。

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    長島美紀
    (国際NGOプラン・インターナショナル)
    2026年4月9日12時59分 投稿
    【視点】

    AI時代における「フェイクニュースの生産構造」と「受け手の脆弱性」の両方を浮き彫りにした、示唆に富む記事です。 以前、「これまでSNSの情報こそが正しく、新聞やテレビはむしろ嘘だと思っていた」という大学生のレポートを読んだことがあります。SNS利用者の多くは情報の真偽を気にしている一方で、約75%がフェイクニュースを信じてしまう可能性がある、あるいは適切な検証方法を知らないという調査もあります。つまり、「疑う意識」はあっても「見抜く力」が追いついていないというギャップが存在しています。 さらに重要なのは、今回の記事にもあるように、フェイクニュースが「収益目的」で量産されている点です。2016年の米大統領選時に北マケドニアで起きた事例とも共通しており、怒りや恐怖といった感情を刺激するコンテンツが拡散しやすいSNSの構造と強く結びついています。 こうした状況では、発信者に明確な政治的意図がなくても、結果として社会の分断や偏見を強化する「数値化しにくい影響」が蓄積されていきます。実際、日本における対中感情の悪化も、こうした情報環境と無関係ではないでしょう。 今回証言した男性の「軽い気持ち」が、結果として社会的影響を持ってしまったことは、個人の問題にとどまらず、プラットフォーム、広告モデル、そして受け手のリテラシーを含めた構造的な課題を示していると感じます。

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