『遠い日の陽』のセルフライナーノーツ的な文章
短編集『遠い日の陽』発売から結構経ってしまったのですが、セルフライナーノーツ的なことを書いておきたいと思います。読まれた実感があったりして気が済んだら非公開にするかもしれません。
表題作・遠い日の陽の制作期間は2023年5月~9月。
・プロット
『遠い日の陽』の設定を思いついた日ははっきり覚えている。2023年5月27日です。
その日はみちのくコミティアという同人イベントの日で、一緒にサークル参加する友達が名古屋から来てくれるので、私(東北在住)は仙台空港へ友達を迎えに行くために車を運転していました。
その車中で音楽を聞いていたのですが、ミツメの『タイムマシン』という曲が流れた時にふと”自分の子供の頃の写真を見て懐かしんでいる30代くらいの男性(架空の存在)”のイメージが浮かんできました。
歌詞に「90年に戻りたい」という言葉があり、おそらくそこを聞いて”90年頃に幼少期を過ごした大人がその頃に戻りたがっている様子”を想像したのだと思う。
曲全体と歌詞をよく聞いたら、全然違った解釈になると思うのですが。とにかく90年に戻りたいという言葉が刺さり、そういった昔に戻りたいという感覚は大人になってからずっと自分にもあったもので、突然頭に浮かんだ架空の30代男性に共感して運転しながら泣いてしまいました。
そして空港に着くまで、その曲をリピートしながら架空30代男性に思いを馳せ、この人物を描いた漫画をひとつ考えられるかも、と思いました。
その後空港で友達と会い、みちのくコミティア会場へ到着。
スペースは友達と離れていたので、イベント中一人座っていたのですが、正直暇だったので、さっき思いついた”架空30代男性”の登場する漫画のプロットをずっとノートに書いていました。
この時点で30代男性(三川千比呂)の人物像、メルカリで子供の頃の写真を売買するという設定、送られてきた裸の写真を焼き芋の火で燃やす、夢で会って会話するというシーンなどは考えていました。
ただ主人公の高校生はどういう人物かはまだ定まっておらず、三兄弟の三男だったり、普通に友達がいる設定でした。
物語後半に明らかになる事件も、最初は千比呂さんが闇バイトに応募して強盗に行くことになり...というのを思いつきましたが、身内の遺体を遺棄し年金不正受給という、闇バイト応募よりズルズルと起こしてしまうような事件にしようと考えました。
とにかく”愛されていた子供の頃の写真”の絵と、あの頃に戻りたいという感情が描きたかったように思う。
そんな感じのこと含めざっくりとプロットを書いた。ただプロットは、出来上がった漫画でいうところのバスのシーンまでで終わっていました。
漫画の内容には関係無いですが、プロットも進んだしみちのくコミティアは楽しかったです。友人たちとの打ち上げも楽しくて、名古屋からの友達のリクエストで、麻婆焼きそばを食べました。美味しかったです。
・ネーム
後日、みちのくコミティアの時に書いたプロットを元にネームを描きました。
以前ならプロットを書いたらすぐ原稿を描いていたのですが、少し前に同人誌を読んで担当になってくださった編集者さんに見てもらおうと、ネームを送りました。
ずっと一人で漫画を描いていたので意見を伺ってみたかったし、新人賞にも応募したかったからです。
すると打ち合わせしてくださると言うので、電話で話をし、ネームを直してモーニングの月例賞に応募することになりました。
それでネームの修正なのですが、本当に誰かの意見を受けてネームを直すということが初めてだったので、勝手がわからず苦労しました。それで考えたことは、「今までずっと自分だけで好きに描いていたのだから、頂いたアドバイスは全部素直に聞こう」ということです。
色々とアドバイスを頂いたのですが、大きなことは、バスのシーンで終わらずにその後を描くということです。
最後に千比呂さんと潤平くんが直接会っても良いかも…ということだったので、刑務所と外で手紙をやり取りする、結局会わないけど最後に現在の姿の写真が届く...というオチを考えました。
今まで同人誌で描いていた時は、投げっぱなしでただ主人公が何かを思って何となく終わる、そういう話が現実的でかっこいいと思っていたので、このオチを考えついた時は結構恥ずかしかったです。でも投げっぱなしで終わる話は今までたくさん描いたのだから、今回はちゃんと良い話で終わろうと思い直しました。
後に、自分でもこの最後が良いなと、二人が友達になれて尊いなと思えるようになりました。話を直す時に主人公の潤平くんの設定も固まっていきました。
ネームは3回ほど直しました。
読んでくださった方からの感想で何回か、普通はバスのシーンで終わるところをその後を描いてるのが良い、というようなことを言っていただいたので、やはり意見を聞いて良かったと思います。他にも褒めていただく箇所はアドバイスを受けて直したところや追加した所が多いです。
母親から昔の写真を見せてもらうシーンや、潤平くんがチヒロくんと自分の写真を並べてみるシーン等がそうです。
最初のネームから、修正して担当編集者さんに通るまで、1ヶ月くらいでした。
・作画
作画は今までと比べても頑張ろうと思いました。カケアミは9割5分手描きです。前に、引いた線を素材登録して使ったけど、しっくりこなくて結局ほとんど全部描くようになった。正直、絵の描き込みを頑張れば努力賞はもらえるのではという魂胆もあった。あとやはり意見を受けてネーム直しをした分、丁寧にやらねばという思いもありました。
それで48ページ描くのに3ヶ月かかったのですが(仕事も休みまくって描いたのに)、描き込んだ分話に合っている雰囲気も出たと思うので、良かったと思います。
新潟に資料の写真を撮りに行ったのも楽しかった。はてブのコメントで書いてくれた方がいたけど、新潟の萬代橋~柳都大橋の風景はホテル日航新潟からの眺めです。
真夏のめっちゃ暑い日に汗だくになりながら、資料用の焼き芋を焼き芋専門店に買いに行ったりもした。
全然関係ないけど、作画しながら仮面ライダー龍騎を全話視聴した。大変良い作品だった。今思い返すと全部楽しかった。
良い思い出です...。
・取材?
本当ならネーム描く前に取材するんだろうけど、ネームが通ってから、千比呂さんの事件周りの描き方で間違いがないかの確認をしたくて、本を読んだり元警察の方に話を伺ったりした。死体遺棄と年金不正受給では執行猶予がつくケースも多いので、似たような事件の報道も調べた。勧められて裁判の傍聴にも行き、ひとつの事件の刑事裁判に何回か通った。被告人が闇バイトの指示役で、たまたま傍聴したのですが、裁判の中で更生保護施設の話を聞くことができた。
更生支援についてはちょっと勉強しただけとか軽い気持ちで描いていいようなことではなく、でも話の中で触れずにはいられない部分なので気を使った。
あとは普通にやることとして刑務所が舞台の作品を複数見た。刑務所の外部交通について描かれている漫画や、東野圭吾原作の映画「手紙」は刑務所の中で手紙を書くシーンがあるので参考になりました(ボールペンで手紙書いて良いんだ、とか)。YouTubeの動画で『出所メシ』もよく見ました。
ちょうど描き終えるくらいの頃に公開されて見に行った、『過去負う者』という映画も良かった。元受刑者を支援している就職情報誌の編集チームと、社会復帰を目指す元受刑者たちの映画。上映後に舞台挨拶がある回を見に行き、監督のお話を聞けたことが作品を見直すきっかけになった。改めてネームの細部やセリフを調整したりした。
更生支援についてもですが、自分では刑務所に入ったこともないのに受刑者や刑務所のことを描くことに悩んでいた。誰に対してなのかわからないが常に申し訳ないと思っていたし今でも結構思っている。
・タイトル
ネームが通った時点では私は『懐古少年☆チヒロくん』というタイトルを考えていたのですが、作品の雰囲気に合う題を考えた方がいいということになり、他のタイトルを考えることになった。それで作画中ずっと考えていたのですが、描き終えても決まりませんでした。
そして提出日までの間に用事があって新幹線に乗っていた時、題名を考えながら音楽を聞いていて、advantage Lucyの『遠い日』を聞いた時に『遠い日』という言葉を使いたいなと思いつきました。作画中もよく聞いていて、曲の雰囲気も歌詞も作品に影響を受けたと思っていた曲でした。また、『遠い日の歌』という合唱曲も好きであったことから『遠い日の○』というタイトルにしようと思いました。色々な言葉を当てはめていたところ、新幹線の窓から陽の光が差しているのを見て、陽という言葉を入れようと思いつき『遠い日の陽』になりました。作品の意味とも合っていて、短編集の名前にもなって、良い題だと思います。
・作画が終わり、提出
ずっと描いてるうちはどこか不安がつきまとっていたが、作画が残り4ページ位になった頃から急に登場人物の気持ちがハマってきて、描き終えた時は達成感ありました。
2023年9月の月末に編集者さんに提出し、「なんとか賞を取っていただきたい」ということを言ってもらい、当たり前だけど必ず賞を取れるわけじゃないんだよなと思った。でも落ちてもコミティアで売れるから良いかと思った。なんなら描き終わった時にはかなり千比呂さんと潤平くんに思い入れが出来ており、同人で3話ぐらい描きたいと思っていた。もっと勉強をして千比呂さんの社会復帰とか、潤平くんと会って一緒に自宅整理するとか、色々描きたいと考えてたんです。公開したら気が済んで描いてないけど…。
7月~9月にずっと漫画を描いていたのですが、夏は仕事が閑散期で、10月からまた仕事が忙しくなる時期だったので、仕事をしながら結果を待った。
・モーニング月例賞受賞
結果、ありがたいことに入選を受賞し、モーニング本誌にも載せて頂きました。
TwitterやコミックDAYS経由でたくさん感想を頂けてありがたかった。料理をしていて具材が煮えるのを待っている時に読みましたとか、電車の中で読んだとか、そういうことまで教えてもらえるのがとても嬉しかったです。
それで次の作品もまた見ていただけそうな感じだったので担当編集者さんに案を送って話をし、短編集刊行を目指して頑張ることになった。
まあその後色々あって
正直二作目を描き終えた後にものすごく精神的に落ち込んで(色々あったと言っても、全部自分の内側の悩みで勝手に追い詰められていた。家族、友人、編集者の方など関わってくださった方との間にトラブルとかは一切無く、感謝しかない)また漫画が描ける精神状態に持ち直すまで時間がかかったのですが、結果を見ると短編集は出せたので色々悩んだことも全部良かったと思う。
その落ち込んでいる時の心情は短編集掲載の『友達の葬式(描いた時は無題)』に表れていたりします。友達の葬式は、自殺について考えるとストレスが軽減されるというネットの記事を見て、じゃあ自殺する話を描くか...と思って描いた。そのようなきっかけで描いた作品だけど、この話が一番好きと言ってくれた方もいたので、短編集に載って良かったと思う。
他の作品のこともまた別の記事に書いていければと思います。
※打ち合わせの内容に触れることについては断りを入れていますが、あとから削除したり修正するかもしれません…


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