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2週間後、何が起こるのか

この停戦は「休憩」であって「終了」ではない

4月8日、市場は停戦に沸いた。日経+2879円。原油-15%。ドル円急落。
だが、この停戦の本質を理解するためには、四者それぞれが「2週間」をどう使おうとしているかを読む必要がある。
結論から言うと、四者全員が、この2週間を「次の一手の準備期間」として使おうとしている。

イランの思惑「勝ったのは俺たちだ」

停戦合意後、イランはこう声明を出した。
「犯罪的な米国が、イランの10項目提案の大枠を受け入れた。戦争の目的はほぼ達成された〜〜我々の手は引き金にかかっている。敵が少しでも間違いを犯せば、全力で対応する」
と。
これは勝利宣言だ。イランは国内向けに「アメリカが折れた」というナラティブを構築しようとしている。
イランの10項目提案の中身は公式には全文非公開だが、報道を総合するとこうなる。
①全制裁の解除 ②国連決議の撤回 ③海外凍結資産の返還 ④米軍の中東全基地からの撤退 ⑤戦争賠償金の支払い ⑥ウラン濃縮の権利の承認 ⑦ホルムズ海峡の新たな法的枠組み(イランが通行料を徴収) ⑧地域全紛争の終結 ⑨レバノンへの攻撃停止 ⑩復興支援
これを見て、「アメリカがこれを丸呑みするわけがない」と思うだろう。その通りだ。
だがイランの狙いは「丸呑みさせること」ではない。最初に100を要求しておけば、最終的に30で合意しても「70譲歩した」という姿勢を国内に見せられる。
重要なのは、イランが「一時停戦」を一貫して拒否し、「恒久的な戦争終結」を求めてきたという事実だ。つまりイランはこの2週間を「恒久和平の交渉」だと位置づけている。2週間で恒久和平がまとまらなければ「アメリカが約束を破った」と主張する根拠になる。(そしてまとまるわけがない)
イランの本音をまとめると「時間を稼ぎつつ、ホルムズ海峡の通行料徴収権という新たな地政学的カードを手に入れたい。」ということだ。

アメリカの思惑「トランプの出口は中間選挙」

トランプがこの停戦を受け入れた理由は、表向きには「軍事目標は達成された」だ。
だが舞台裏では、バンス副大統領と特使ウィトコフが「ディールが取れるなら取れ」とトランプに進言していた。一方でネタニヤフ、サウジ、UAE、そしてリンゼー・グラム上院議員は「イランに大幅譲歩させない限り合意するな」と圧力をかけていた。
トランプが最終的にパキスタン案を受け入れた背景には、3つの計算がある。
①原油価格というタイムリミット ガソリン価格の高騰は、2026年11月の中間選挙にとって致命的だ。WTIが117ドルのまま夏を迎えれば、共和党の議席は確実に減る。停戦で原油を91ドルまで落とせたのは、政治的には大きな成果だ。
②「破壊力の誇示」は済んだ 2月28日以降、米イスラエルはイランの核施設(フォルドウ、ナタンズ、イスファハン)、石油化学施設(南パルス)、カーグ島の石油輸出ターミナルを攻撃した。イランの石油化学生産能力の約50%が打撃を受けた。「やれることはやった」というメッセージは十分に送られている。
③「交渉で勝った大統領」という絵が欲しい トランプにとって最良のシナリオは、「戦争で圧倒した後に、相手を交渉のテーブルに引きずり出した」という絵だ。2週間後に合意できれば「ディールメーカー」。合意できなければ「イランが裏切った」として攻撃再開の大義名分になる。どちらに転んでもトランプは損をしない設計になっている。
だが問題は、トランプの要求がイランにとって受け入れ不可能なレベルにあることだ。
米側の15項目提案には、核施設の完全解体、ウラン濃縮の全面停止、ミサイル開発の制限、ホルムズ海峡の再開が含まれる。イランがこれを飲む可能性は、現時点ではほぼゼロだ。
アメリカの本音をまとめると「2週間で勝利の絵を撮れれば最高。撮れなくても、攻撃再開の名分が立つ。原油は下がった。中間選挙までの時間は稼げた。」というとこだろう。

パキスタンの思惑「仲介者という最高のポジション」

実は今回の停戦の最大の受益者は、パキスタンだ。
パキスタンは、停戦前夜に「一晩中」バンス副大統領、ウィトコフ特使、イラン外相アラグチと電話で交渉した。シャリフ首相は公式に停戦を呼びかけ、トランプは声明でシャリフとムニルの名前を直接挙げた。イラン外相も「パキスタンの兄弟的努力に感謝する」と述べた。
米イラン双方から名指しで感謝される仲介者。
これは国際政治において極めて稀で、極めて価値の高いポジションだ。だがパキスタンの動機は純粋な平和主義ではない。
①石油の生命線 パキスタンは燃料の約85%をホルムズ海峡経由で輸入している。封鎖が続けば、すでにインフレで苦しむ経済は破綻する。停戦は国益の問題だ。
②インド・パキスタン戦争の「貸し」 2025年5月のインド・パキスタン紛争でトランプが停戦仲介し、パキスタンは公式に謝意を表明した(インドは表明しなかった)。この「借り」がトランプとの信頼関係の基盤になっている。今回はその関係を「貸し」に変えた。
③サウジアラビアとの相互防衛条約 パキスタンはサウジと相互防衛条約を結んでいる。イランとサウジの関係が悪化すれば、パキスタンは板挟みになる。仲介者として双方に恩を売ることは、板挟みリスクのヘッジだ。
④中国のバックアップ 中国はパキスタンの仲介努力を公式に支持している。パキスタンは米中双方から評価される立場を手にした。
パキスタンの本音は「仲介者のポジションは国益になる。合意成立なら歴史的成果、不成立でも『努力した国』として国際的地位が上がる。」という感じだ。

イスラエルの思惑「俺たちは含まれていない」

最も不穏な動きを見せているのがイスラエルだ。
ネタニヤフ首相は停戦合意後、「イランへの攻撃停止は支持する」としつつ、「停戦にはレバノンは含まれない」と明言した。
一方、パキスタンのシャリフ首相は「停戦はレバノンその他を含む」と発表している。つまり、停戦の「範囲」について、発表から数時間で食い違いが生じている。
イスラエルの立場は一貫している。「いかなる停戦も、イランが全濃縮ウランを引き渡し、濃縮活動を完全停止することが条件」。これはイランが絶対に飲めない条件だ。
さらにイスラエルは停戦合意の直前に、イランの南パルスガス田(世界最大の天然ガス田)の石油化学施設を爆撃している。これはイランの石油化学生産能力の約50%を担う施設だ。停戦の前に「最後の一撃」を入れておく、、これは中東の戦争で何度も繰り返されてきたパターンだ。
イスラエルの本音は「イランの核能力が完全に除去されない限り、どんな停戦も受け入れない。2週間の間にさらなる軍事圧力のカードを準備する。レバノンでは攻勢を継続する。」だろう。
停戦合意後も、イランからイスラエルとUAEに向けてミサイルが発射され、防空警報が鳴った。革命防衛隊の現場指揮官が停戦命令を無視した可能性がある。「組織としての合意」と「現場の行動」が乖離するリスクは、この2週間ずっとつきまとう。

2週間後の世界

これらの思惑を総合すると、2週間後に起こり得るのは以下の4パターンだ。
シナリオ①:停戦延長(確率30%) 原油は85ドル前後まで下落。日経は57000-58000円レンジ。半導体・AI株がさらに上昇。資源株はじわじわ下落。
シナリオ②:形式的停戦の継続(確率25%) 公式には停戦が続くが、イスラエルがレバノンで攻勢を強化し、イランの革命防衛隊が散発的にドローン攻撃を継続。「停戦」の定義を巡って応酬が続き、実質的には低強度の紛争が継続。原油は95-100ドル。市場は方向感を失い、ボラティリティが高止まり。海運・資源は下げ渋る。
シナリオ③:交渉決裂・攻撃再開(確率35%) 核問題と制裁解除で折り合いがつかず、トランプが「イランは約束を守らなかった」として攻撃を再開。ホルムズ海峡が再封鎖される。原油は120ドルに急騰。日経は50000円割れリスク。今日叩き売られた資源・海運株が急反発。半導体・AI株は急落。
シナリオ④:「イスラマバード合意」成立(確率10%) 歴史的な包括合意。イランが限定的な核活動と引き換えに制裁解除を勝ち取る。ホルムズ海峡に国際的な管理枠組みが設定される。原油は70ドル台に回帰。全面的なリスクオン。日経は59000円の壁を試す展開。だが海運・資源株は本格的な調整局面に。

投資家が見るべき「早期シグナル」

2週間を待たなくても、以下のシグナルで方向感は読める。
①10日のイスラマバード協議に誰が来るか バンス副大統領が実際にイスラマバードに入れば、米側の本気度は高い。代理人レベルなら「時間稼ぎ」の可能性が高い。
②ホルムズ海峡の通航実績 「イラン軍との調整のもとで安全な航行が可能」というイラン外相の声明が、実際にどの程度のタンカー通航に繋がるか。封鎖前は日量2000万バレルが通過していた。戦争中は1日8隻まで落ち込んでいた。この数字が戻るスピードが、停戦の「本気度」を測る最も信頼性の高い指標だ。
③イスラエルのレバノンでの行動 ネタニヤフが「レバノンは停戦に含まない」と言っている以上、レバノンでの軍事行動がエスカレートすれば、イランが「停戦違反」を主張する口実になる。
④革命防衛隊の動き イランの政治指導部と革命防衛隊の間に意思決定の乖離がある。停戦後もミサイルが飛んだ事実がそれを証明している。現場指揮官が暴走すれば、停戦は一瞬で崩壊する。

まとめ

今回の停戦は、四者のうち誰一人として「平和のため」に合意したわけではない。
イランは「勝利の既成事実化」のため。 アメリカは「中間選挙と原油価格」のため。 パキスタンは「国際的地位の向上」のため。 イスラエルは「次の軍事行動の準備」のため。
それぞれが自分の利益のためにこの2週間を使おうとしている。
そして、四者全員の利益が一致するポイントが存在しないからこそ、恒久和平の確率は低い。
投資家は「停戦」という言葉に安心せずに「各プレイヤーが次に何をするか」を見た方がいいだろう。

10日のイスラマバードでの第一幕が、2週間後の世界を決める。


※BNF氏本人への取材・監修に基づく記事ではありません。公開情報を元にした筆者の考察です。特定の銘柄を推奨するものではない。全てバーチャルな独り言。投資は自己責任で。
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